HappyBirthday




玄関を開けると甘い香りがしていた。
「・・・和希?」
彼女は不思議そうな表情で靴を脱ぎながら、いとしい人の名前を呼ぶ。
返事はない。
彼女は廊下を歩きながら、ぼんやりとその甘い香りがなんだったか思い出そうとしている。
よく知っている香りなのに、それがなんなのか思い出せない。
記憶の中でそっと優しく目隠しをされているみたいだ。
そんなことを思いながら、彼女はリビングへ続くドアを開けた。
「和希、いないの・・・?」
まだ夕方だと言うのにカーテンを締め切ってある暗いリビング。
彼女は小さな声でそう言って、少し肩を落として落胆する。
あーあ、今日がなんの日か忘れちゃったのかな。
そんなことを思いながら、唇を噛んで視線を足元に落とす。
ストッキングのつま先がなんだか寂しげに見える。
急いで帰ってきたのに、つまんないの。
そう、思った時だった。
「誕生日おめでとう」
急に彼女の体はやわらかく抱きしめられる。
「か、和・・・」
「びっくりした?」
にっこりと微笑む彼の表情は、いつもよりも少し幼く見える。
まるでいたずらっ子のように。
「び、っくり、した・・・。いないのかと思ったのに」
「そんなわけないだろ。お前の誕生日を僕が忘れるはずないじゃないか」
「うっ・・・そ、それは、そうであってほしいけど」
「それに玄関までヴァニラの香りがしていたから、きっとばれてると思ったんだけどな」
彼女は顔を上げて、それまで記憶のどこにあるのかわからずにいたその香りがなんなのかを鮮やかに思い出す。
「シュークリーム!」
小さい頃に好きだった、ヴァニラビーンズのまざったカスタードクリームのシュークリーム。
特に生クリームとカスタードクリームが半分ずつ入っているのが大好きだった。
「当たり。最近食べてないみたいだったからね」
「ええっ、まさか和希が作ってくれたの?」
「もちろん。いとしい彼女の誕生日に買ってきたりしたら興ざめだろ」
「で、でも普通は、シュークリーム作ってくれる彼氏って珍しいと思う・・・」
「じゃあ、お前はそんな希少価値の高い僕の作ったシュークリームを食べることが出来るラッキーな女の子だってことだね」
テーブルの上にはさっきは気付かなかったけれど、小さなシュークリームを積み上げたタワー。
しかも彼女の好きなチョコレートソースがたっぷりとかかっている。
「あれ、ってもしかして・・・」
「そう、バースデイケーキの代わりだよ。こっちの方が喜ぶだろうと思ったからね」
彼女は目を見開いて一瞬信じられないといった表情を浮かべてから、満面の笑みを見せる。
「ありがとっ、和希大好き!」
恋人の首にぎゅっとしがみつき、彼女はそう言った。



「ハッピーバースデイ、僕のいとしい人」
彼は自分に抱きついている恋人の背中に腕をまわした。



【完】


私の誕生日にミカリさまから頂きました♪
ああ、お兄ちゃん、私にもシュークリーム作ってぇぇぇ(願)
嬉しすぎて鼻血を噴きそうでしたよ、私(=>▽<=)
しかし、この作品を拝読させていただいた時
シュークリーム(ヴァニラビーンズ入り生クリームとカスタード半々のやつ)が
大好きな私の好みを知っているのかーー??と思ったら、ミカリさまの好きなものだということ。
ミカリさまとは、色々共通点がありまして、なんだか運命を感じるこの頃です♪(喜)
サイトを作ろう!と私が思ったのは、ミカリさまのサイトのSSを拝読して、影響を受けたからです。
そんな憧れの方から誕生日祝いを頂いて、天にも昇る気持ちなのですよぉぉぉ(感涙)
ミカリさま、本当にありがとうございます♪

こんな素敵な作品を書かれるミカリさまのサイトはこちらです。

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