あの日の僕は・・・






全てをお前のために・・・

未来、愛しい未来。

お前を愛していると伝えられたのならば、どれほど幸せだろう?

お前は僕を拒むかい?

ねぇ、未来・・・答えて・・・





「未来?起きてる?」

未来の部屋のドアを軽くノックして、声を掛ける。

返事は無いから寝ているのだろうか?

「未来?」

もう一度呼びかけたが返事がない。

静かにドアを開けると、

カーテンの隙間から月の光が漏れて、部屋の中を照らしていた。

未来は、ベッドの中で静かに寝息をたてている。

最近、どんどん大人っぽくなっている未来も、

寝ている時は、相変わらず無邪気な顔をしていた。

何も知らない無邪気で素直な未来。

僕の妹・・・僕の宝物。

ベッドに近づいて、未来の頭を撫でた。

起こさないように、優しく。

絹糸のような髪が、さらさらと指に絡みつく。

もって後数ヶ月。

そんな台詞を聞くなんて、ドラマや映画の中だけだと思っていた。

でもこれは現実だ。

僕の命は後数ヶ月・・・

進行性胃癌。

発見が遅かったため、もう手の施しようは無いと言われた。

いや、それでも入院して治療さえ受ければ、まだ可能性はある。

相馬と名乗った医師が、諭すように言っていた。

だが、今はダメだ。

両親が海外にいて、未来と僕だけの生活。

今入院して未来を心配させるわけには行かない。

未来を一人にしたくない。

どうせ後数ヶ月しか生きれないのならば、許される限り未来の傍にいたい。

そう思って、入院も断ってきた。

先延ばしにして・・・だが・・・もう両親は帰ってこない。

ついこの間・・・事故で他界してしまったのだ。

血の繋がらない妹。

彼女を女性として愛していると気がついたのは、一体いつ頃だっただろうか。

大学生になって、益々綺麗になっていく彼女を直視できない。

僕に甘えて、無防備な笑顔を見せる彼女に

兄としか思われていないと、痛感させられる。

それでも、僕は未来の傍から離れられない。

いつか、この気持ちを伝えてしまいたい。

ずっと長いことそう思っていたけれど・・・今になって、言えるだろうか?

もうすぐ僕は死んでしまう。

未来が僕の気持ちを受け入れようと、受け入れまいと

どっちにしろ、後悔させてしまうだろう。

だから黙って死ぬ方がいい。

この気持ちを封印したまま、兄として死ぬ方がいい。

だけど・・・僕が死んでしまったら、未来は僕を忘れてしまうんだろうか?

誰かを愛して、その誰かと幸せな将来を迎えるんだろうか?

そんなのは嫌だ。

嫌だけれど・・・きっとそうなるんだろう。

僕が生きていたとしても。

未来が僕に求めているのは、兄としての優しさ。

恋人として求めているわけじゃない。

だから、他の誰かのものになる未来を見ずに死ねる僕は、

まだ幸せなのかもしれない。

白く柔らかい頬に指を滑らせる。

僕よりも少し体温の高い未来の頬は、温かく滑らかだ。

頬よりも柔らかい下唇を、人差し指で撫ぜる。

柔らかな弾力のある唇に、自分のそれを重ねたい衝動に駆られた。

だが、それは許されない行為だ。

未来・・・僕は、誰よりもお前の笑顔を望んでいる。

お前が幸せであるように。

いつでも笑っていられるように。

初めて逢った頃から、ずっとそう誓っていた。

でも、もう僕はお前を見守ることが出来ない。

両親も死んで、僕も死んでしまう・・・

愛しい未来を一人にして、僕は逝かなければならない。

残されたお前は、どうするのだろう?

どうやって生きていくのだろう。

一人で泣かせてしまう事を思うと、胸が潰されそうになる。

一人でなんか泣かせたくない。

いつも傍に居て、守ってやりたい。

死んでしまう僕には、望めないことだけれど・・・それならばいっそ・・・

柔らかな頬に触れていた手を滑らせて、あごの線をなぞる。

そして、それよりも下の細く白い首に手を当てた。

華奢な首筋は、力を入れると折れてしまいそうだ。

誰にも、お前を取られたくない。

誰にも、お前を奪われたくない。

お前の笑顔を守るのは、僕だけでいい。

お前を一人で泣かせたくない。

ねえ、未来・・・幸せそうな微笑を浮かべながら眠るお前。

今ここで、お前の時を止めてしまってもいいかい?

ほんの少し、この手に力を込めれば、僕はお前の命を奪える。

僕が死んだ後に、お前を一人で泣かせたくはない。

誰にもお前に触れてほしくない。

これは、僕のエゴだけど・・・

「愛しているよ」

深い眠りの底に居るだろう未来に、そっと囁く。

「ん〜・・・お兄ちゃん、大好き・・・」

目を瞑ったまま、いつものように幸せそうに微笑んで答える。

「未来?起きてるの?」

ふふっと、小さな笑い声をたてた未来は、未だ夢の中のようだった。

寝言で、僕と会話しているのかい?

こんな僕をお前は許してくれるのかい?

連れて行きたい。

だけど、連れて行けない。

目頭が熱くなった。

未来を愛している。

だから、連れて行きたい・・・だけど、連れて行けない。

僕自身は、もう生きていけないのは、分かっている。

細い首から、手を離して、もう一度頭を撫でた。

柔らかい髪の感触が、切なかった。

あとどれだけお前の傍に居られるのだろう。

一人だけ残してしまえば、お前が泣くのは分かっているのに、

僕は連れて行く決心すらできないんだ。

お前を愛しているから・・・

「愛しているよ・・・未来」

僕の言葉に、未来はまた微笑んだような気がした。

最後のときまで、お前の幸せを祈っているよ・・・愛しい僕の未来。







「未来をお兄ちゃんのお嫁さんにしてくれる?」

「・・・何を言ってるんだ。兄妹で結婚できるわけないだろ」

まだ小学2年生の無邪気な妹の言葉に、微笑んだ。

こんな事を言い出したのは、夕方テレビでやっていた結婚式の特集のせいだろう。

「だってー『けっこん』って、一番好きな人とするんでしょ?

未来は、お兄ちゃんが一番好きだもん!」

二年前に突然出来た妹は、最初の頃人、見知りをしていたのが嘘のように

今では、我が家の中心人物だ。

未来が喜ぶことをして、未来が喜ぶ場所に行く。

いつの間にか、両親も僕も未来中心で動いていた。

「兄妹は結婚できないの」

幼くて純真な妹の拗ねた様子が可愛くて、僕は苦笑を浮かべた。

「ううう〜〜だってーだってーーーー」

「はいはい、未来が大きくなっても

まだお兄ちゃんが一番好きだったら考えましょうね」

一緒にテレビを見ていた母も苦笑を浮かべながら、未来を諭す。

「なんだ、未来の初恋は和希になるのか・・・寂しいなぁ、娘の初恋は父親だろうに」

「父さん・・・」

心底がっかりしたような父には、あきれるしかない。

本当に未来中心の家族だな、僕たちは。

「パパも大好きだよぉーでも、パパのお嫁さんはママでしょー」

「そうそう、親バカは大概にして、父さんは、母さんを大切にしなよ」

「む!なんだ和希。父さんはちゃんと母さんを大切にしてるぞ」

「ほ〜ら、もう。速く出かけないと予約の時間に遅れるわよ。

今日は未来の誕生日なんだから」

クスクスと楽しげに笑いながら、母が促す。

もうすぐ6時半になる、レストランの予約は7時だ。

確かに、今出ないと間に合わないかもしれない。

「ねえねえ、未来、パフェも食べていい?」

立ち上がった父の服の裾を掴みながら、未来が甘えて言った。

そんな未来に父は笑う。

「ケーキもあるのに、パフェも食べるのか?」

「だって〜未来パフェ好きなんだもん」

「いいんじゃない?今日は未来の誕生日なんだし」

「ほらーお兄ちゃんも良いって!」

味方を得て強気になった未来に、父がため息をついた。

「俺が親バカなら、お前だって兄バカだぞ、和希」

僕に向けられた父の視線は、からかうような色をしている。

だが、まあ・・・兄バカなのは自覚しているから仕方ない。

「いいのー未来はお兄ちゃん大好きなんだから」

父との間に割り込んできて、僕の腕に絡み付いてきた未来がとても愛しい。

「僕も大好きだよ」

大好きで大切な妹は、僕の言葉に嬉しそうな笑顔を作った。

一人ぼっちだった小さな少女が、僕の妹になって2年。

いつまでも幸せであるように、僕が守ってあげよう。

決して、もう一人にはさせないよ・・・







                                            【了】





◆◆◆◆◆◆◆◆一言◆◆◆◆◆◆◆◆

5544hitを踏んでくれた、まっちさまのリクエスト「あの日の僕は・・・」いかがだったでしょう?
「B&D(ぶらっくでだあくv)兄ィ好きな彼女の為ならばv何でもアリ〜の兄ィ様D(きゃっ)しかも最上級なコワレば〜じょんで」
とのリクエストで、書いてみました♪

彼女のためならというか、自分のために未来ちゃん殺そうとしてます。
怖いよ〜怖いよぅ〜(自分で書いておきながら)ブラックでダークといわれて、最初に思い浮かんだのが
「寝ている未来ちゃんの首を絞める兄」でした。
ハイ危険!おいら危険です(笑)
ちなみに、リクエストの話なのに、この後死んだ兄は、「そこに存在するもの」に繋がりそうです。
だって、これじゃあ、死んでも死にきれんでしょ!(笑)
あ、ちなみに、後半(?)の中学生兄ですが、このときは、未来ちゃんのこと妹として、好きなのです(笑)
だって、小2相手に恋愛したら、変な人だよ・・・(苦笑
まあ、なにはともあれ、ダークな兄です。
ご希望にこたえられたかどうかはなぞですがこの作品をまっちさまに捧げさせて頂きます♪

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