ある朝の風景








何故彼女を抱いたのか。

そんな事を聞かれても、自分でもわからない。

安心しきって、僕の腕の中で眠る彼女。

惚れているのか?とも思ったが、そんな感情はよくわからなかった。

ただ、興味があった。

構内でも有名な田中や堂本に、お姫様のようにして守られていた彼女。

美人というのとは少し違うが、

その独特の雰囲気は周りを和ませ男の目を惹く存在。

純粋で、素直で、可愛いというのが一番ぴったりくる表現かもしれない。

たまに見せる、寂しげな表情が気になって・・・

少しからかうと、予想以上に反応してくれるから面白かった。

だから、彼女にかまった。

僕が自分から女性にかまうなんて、初めてのことで

彼女のために色々やる自分に驚き、それでも心地よかった気がする。

手も出さずに、彼女と過ごす時間はもどかしくもあり、安堵できた。

まるで中学生の恋愛のようだった。

僕は自分から女性を好きになった事は無い。

いや、自分からというよりも、恋愛をしたことがないのかもしれない。

恋人とはいっても所詮は他人。

そう思うと、誰とも本気になれず、去っていく者を追う事もなかった。

それでも、自分から働きかけなくても、女は寄ってきたから、

僕の周りから女が切れた事はない。

我ながら、情けないことに、今のバイトも本当に天職だと思う。

女が悦ぶ言葉も行動も、分かり安すぎて面白い。

女を抱くのは好きだった。

求められれば、なんでもした。

「んっ・・・・」

僕の腕の中で、彼女が寝返りをうつ。

起さないように、そっと髪をなでる。

細い絹糸のような髪。あどけない寝顔。

今まで相手をしてきた女とは違うタイプの彼女を抱く事は

多分、僕にとってあまりよくないことだ。

面倒な事は嫌いだし、誰かの所有物になるのはもっと嫌だ。

女は一度肌を重ねるだけで、相手を自分の物に出来るとでも思うのか

徐々に態度が変わってくる。

僕を自分の物だというように・・・

彼女もきっとそのタイプなんじゃないだろうか

僕は誰のものでもない。誰にも縛られたくない。

だけと・・・

「君は不思議だよ」

囁いて寝ている彼女にキスをした。

「・・・う〜ん」

起きる気配のない彼女。

可愛いと思う。

彼女の望む事なら何でもしてやろうと思った。

彼女に伝えたあの言葉は、本心からのもの。

店で囁く言葉のように、甘い響きに酔った戯れのものではない。

これが恋というのだろうか・・・僕にはわからない。

誰かを好きになるなんて感情は、僕にはないのではないかと思ってた。

だから、彼女の存在は不思議だ。

他の誰にも、彼女を盗られたくない。

誰かが、彼女を所有できるなんて、考えたくもない。

だから、僕が手に入れた。

他の誰かの手におちる前に、僕の物にした。

彼女はきっと、面倒くさいタイプだ。

分かっているのに・・・・この気持ちはなんだろう。

こうして何度も肌を重ねていくうちに、

僕は彼女を手放せなくなっているのではないだろうか。

白い肌が、猥らに紅く染まる様を他の誰かに見せるなんて嫌だ。

恋というよりも、独占欲なのかもしれない。

彼女を独占していたい。

だから・・・

「今は、君に縛られていてあげるよ」

この気持ちがなんなのか、僕も知りたいから。

眠っている裸の彼女を引き寄せて抱きしめる。

肌と肌とが重なる感触がとても気持ちいい。

彼女が目覚めるまで、まだ時間があるだろう、僕ももう一度眠るとしよう。

滑らかな感触を腕に感じながら、僕はゆっくりと意識を手放した。






目が覚めると、目の前に篠原くんの顔があった。

慣れてきたけど、やっぱり照れくさい。

まだ眠っているみたい。

閉じた瞼を縁取る長い睫。綺麗な顔。

何故この人は、私の傍にいてくれるんだろう。

彼が仕事へ行くたびに、いつもすごく不安になる。

篠原くんは、優しくてとても、もてる。

私なんかには勿体無い。

でも、傍にいたいと思ってしまう。

彼が私を求めてくれるのがとてもうれしい。

私に触れてくれる手は、とても優しくて、

その腕の中はとても安心できた。

私は、彼が好き。

篠原くんは優しいけど「好き」なんていってくれない。

言ってくれないけど、私を守るように包んでくれる

その腕を信じたい。

「大好き」

眠ってる彼の頬にキスをした。

起きてる時には見せてくれない、無防備な顔が嬉しい。

微かに長い睫が震えて、彼はゆっくりと目を覚ました。

「・・・ああ、起きたの。おはよう・・・よく眠れた?」

優しい笑顔。

「うん、おはよう。篠原くんが腕枕してくれるとよく寝れるの・・・

ごめんね、重いでしょ」

「そんな事ないさ」

彼に抱きしめられると、私はとても幸せな気分になった。



                                             【了】
<<NOVELtop  <<BACK 


◆◆◆◆◆◆◆◆一言◆◆◆◆◆◆◆◆

緋織さまのサイトFleur Bleueで行われているダメ男祭
投稿させて頂いた作品です
初書きの篠原くん・・・です(^^;
いや、もう何も言うまい・・・(汗




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送