硝子の檻


僕に今許されているのは、ただお前のそばに居られるという立場だけ・・
僕に与えられているのは・・たった二本の、
大して逞しさに長けている訳ではない・・この腕(かいな)だけ・・・




お前を閉じ込めるには余りに心許ないこの腕の下で、
お前を何度泣かせたのだろう・・


「・・・お、にい・・ちゃ、あぁ、っつああっ」
「悪い子だ・・また、間違えたね?・・僕は・・お前の恋人・・だろう?」
「ごめっ・・あ・・さい、やあっ・・そこっ」
「じゃ、名前、言ってごらん・・お前が愛しているのは・・誰?」
「はぁ・・か・・ずきっ・・っもう・・あああぁぁっつ!」
「そう・・だよっ・・お前は僕の・・僕だけのものだ・・」


何処へもやりたくなくて、
そのくせ、自由に羽ばたくお前を妨げたくもなくて。

それでも・・矛盾している筈の感情は無邪気な笑顔を向けられるたびに不思議に
分離もせずに僕の中で溶けていく

上気した頬が
潤んだ瞳が
どれほど凶暴に僕の理性を切り裂くか・・
お前はきっと・・・一生知らないのだろう?


僕以外の存在(もの)をお前の心から追い出したくて・・
数え切れないくらい深く貫いた。


ほんの僅かな空間も二人を隔てない時でさえも
“不安”という、音の無い囁きは僕を慄かせる。

何時お前に背を向けられるかと思うと怖くて眠れない夜がある・・
なんて云ったならお前は笑うかい?

そして・・・
どれほど望んでもお前を置いて逝かなくてはならない・・・そう遠くも無い将来に。
そう・・・・云ったら、お前はどのくらい哀しむんだろう。



未来を・・・
思い出を・・・

お前に渡してやれるものが数える程もないこの身だというのに。

心も。
躯も。

全てを望むのは、一体どれほどの罪深さなのか・・・


何も知らないお前を・・・
何よりも護りたいと思った筈なのに
お前を望む心の声に逆らい切れなかった。

―――これは報いかもしれない―――


緩やかに・・・
けれど日々確実に数を増やしていく発作・・・

数刻の激しい痛み。
爛れ始めた胃の腑から食道を通って瞬時に駆け上る紅い血の塊。

お前にコレだけは見せられない・・・
最後まで隠すこと。
お前にしてやれる数少ないことの一つだと信じてる。


例え・・報いだとしても・・でも、後悔できない。

解っていながら抑えることも出来ず
この指を伸ばしたことを・・・



後悔するには余りにもお前を欲し過ぎているから。
どれほどの報いを被るのだとしても・・
幾度、時間を巻き戻し、繰り返すことになってもきっと・・
僕はお前を抱締めずには居れないから。






込み上がる自嘲を血ごと拭い取り・・明日は何時もの通りに微笑うよ。
だから・・安心して・・お眠り。
誰よりも愛しい・・僕のただ一人の・・・





お前を縛めるにはきっと脆いガラスで出来た檻がいいんだね。
じゃないと・・・きっと僕はお前を手放すことが出来ないから・・・

お前を閉じ込めたまま・・どこまでも連れて逝ってしまいたくなるから。

だから・・・何も云わずに逝くよ。


――――もし、いつか・・・僕よりも愛する男が現れた時には・・壊せるように――――

そう思う心と同じ強さで・・・
その日が来ることを拒むのは僕の身勝手なエゴに違いないけれど



云いたい言葉・・・想いは・・・たった一つだけで十分だから。


「お前を・・・愛しているよ・・・・。」

FIN



まっち。さまから頂きました♪
あにぃぃぃーーーーーーーー!!切ないです。すっごく切ないです。
「――――もし、いつか・・・僕よりも愛する男が現れた時には・・壊せるように――――」
のところが、かなり好きで、好きで・・・
未来ちゃんを愛しているんだなぁって気持ちが伝わってきて。
泣きそうになりました。
やっぱり兄はいいなぁと、まっち。さまの文章で再確認させて頂きました♪
ホント、兄はいいですよねぇ!(力説
というか、切ないのが兄だなぁと・・・

こんな素敵な作品を描かれるまっち。さまのサイトはこちらです。

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