春待ち






私は春に産まれた。

だから名前は、春子

単純な両親だなぁ、と思うけれど、この名前は気に入っている。

一番好きな季節の名前。

春、っていう言葉はすごく優しい




「ねえ、ヒロ。私たち、付き合おっか・・・」

それは、不意にでた言葉だった。

今日は、コウ君も未来も時間割が別だったせいで

私はいつもの学食で、ヒロと二人でランチを取っていた。

「・・・はぁ?」

Aランチのフライを口に含んだまま、

ヒロは何を言われたのか、理解できないっという顔をしている。

まあ、そうよね。

うん、我ながらバカなこと言ってるわ。

ヒロのことは勿論好き。

でもそれは友人として、男としてみたことは今までない。

ヒロだってそれは感じているはず。

だから、私の言葉を違う意味で受け取ったらしい。

「・・・で、理由は?」

もぐもぐとフライを飲み込んでから、ヒロは水を一口を飲んでから

呆れたような顔をして、でもちょっと真面目な目を私に向ける。

『付き合おうか』と言って、理由を尋ねられたのははじめてだ。

「だって、私たちがくっつけばさぁ、あの二人だって進展があるかなーと」

なんだか、ヒロの顔をみれなくて、わざと笑いながらパスタを頬張った。

ああ、なんてバカなこと言ったんだろ。

「ごめん、忘れて。うん、何でもありません」

「ばっかかお前。それがなんでもない奴のする顔かよ」

すこし怒ったような声。

もぉぉぉ、時間が戻ってくれればいいのに!

「なんでもないってば」

ぶっきらぼうに言い放って、私はパスタを食べ続けた。

ヒロの視線から逃れるようにして・・・

いつもは美味しいと感じるのに、今は味なんてわからない。

ただただ、飲み込んでいくだしかできない。

「・・・気持ちもわからんではないが・・・なぁ、おハル、この後授業ある?」

「え、今日はもう終わりだけど、一応練習が」

「じゃあ、練習まで俺に付き合え。ここじゃ話しづらい事もあるだろ。

って事で、早く食え」

そんな勝手に!と思ったけれど、この様子じゃ、訊いてもらえなさそうだ。

私が言い出したことだったから、なおさら反論できなかった。




「お前、コウのこと好きなんだろ」

昼下がりの公園。

大学から少し距離のあるここは、余り人が居ない。

樹齢何年かもわからない大きな木を中心に

遊歩道がしかれ、その所々に休憩用のベンチがある。

緑が多くて、風が気持ちいいので、未来と二人でよく散歩に来たりしていた。

最近は、私も未来も忙しくてこれなかったので、久しぶりにこれたのは嬉しい。

こんな状況でなければ・・・

中心の木から、少し離れたベンチに、私とヒロは座っていた。

ヒロから渡された紅茶の缶を、

両手に包み込むように持っていた私の手が、ビックっと震える。

疑問系ではなく、肯定系のヒロの言葉に、頷くことは出来なかった。

だって、認めたくない。

口に出したら、もうこの想いは止められなくなる。

黙って下を向く私を見て、ヒロがどう思ったのか分からない。

否定しなくちゃ、と思っても、言葉も出ない。

首を横に振ることも出来ない。

私は、俯いたまま身動きすら取れなかった。

「確かにさ、あいつらをみて切ないのも分かるけど

やめとけよ、あんな事言うのはさ。俺だったからよかったものの

他の奴に言ったら、即食われちまうぞ?」

仕方ねぇな、と笑いながら、ヒロの手が、私の頭をぽんぽんと撫でた。

こういう時、ヒロはとても優しい。

涙が溢れそうになって、目をきつく閉じた。

「そ、そんなんじゃないよ・・・ほら、仲良し四人組の二人がくっつけば

残った二人も意識するかなって思って」

平常心、平常心。と心に言い聞かせて、言葉を選んで言ったつもりだったのに

私の声は震えていた。

「そんなんで、あいつらがくっつくかよ。

くっつくんなら、もうとっくにくっついてる思うぜ・・・まあ、未来も鈍いからなぁ」

後半はため息まじり。

「俺もさ、あいつら見てると歯痒い時ある。

コウの奴は、自分の気持ちだけで手がいっぱいだし

未来は未来で、ふらふら〜ぽやぽや〜って感じで、

あんだけ可愛いのに、自分が誰かの恋愛対象になるって事

まるで分かってないみたいだからな・・・『コウ君は、幼馴染』って断言してるくらいだし」

未来は可愛い。

少し大人しいところがあるけれど、

努力家で真面目で、そして素直で純粋。

今時こんな子がいるなんて思えない程、可愛い。

スタイルだっていい方だ。

あまり気を使わないくせに、あれだけ可愛いのだから

友人としては、もっともっと磨いてあげたくなる。

守ってあげたいし、優しくしてあげたい。

妹なんていないから分からないけど、多分そんな感覚に近いと思う。

だから、悔しいなんて無駄な気持ち。

大好きだけど、大嫌いになりそう。

未来の純粋な心は、私の醜い汚い感情を逆撫でする。

こんな事を思ってしまう自分が、何よりも誰よりも大嫌い。

私は汚い。

自分が苦しいからって、それにヒロを巻き込もうとするなんて。

「ごめん」

それしか口に出来なかった。

他の言葉は、無用に思えた。

恋をすると優しくなるなんて、嘘。

恋をすると、私はどんどん汚くなる。

どんどん醜くなる。

未来を嫌いになりたくない。

早く二人が付き合うことになれば、こんな気持ちもなくなるのに

諦めが付くのに。

ねえ、未来・・・いつまで私を苦しめるの・・・

サッカーの練習の時間が大好き。

未来が居ないから、未来の知らない彼を見ていられるから。

・・・私は醜い・・・・

「あんまりさ、自分を追い詰めるなよ。誰だってそういうもんさ」

・・・私・・・口に出してた?

驚いて顔を上げた私の目の前に、ヒロの顔があった。

優しい光を宿した目。

いつもは子供っぽいくせに、なんでこんなに優しい目が出来るんだろう。

「俺さ、今の関係壊したくないんだ。コウがいて、未来がいて、お前がいる。

四人でバカ話したりしてさ、楽しくないか?」

微笑んでくれるヒロが、なんだか切なくて、涙を堪える事が出来なかった。

私の頬を、熱い雫が伝い落ちる。

「楽しい・・・私、未来の事大好きよ・・・」

うん、好きなの、大好きなの、大切な親友なの。

それは本心からの言葉。

「つらいのは分かる。でも無茶はするなよ

愚痴だったら、俺がいつでも聞いてやるからさ」

ヒロの手は、私の頭を撫で続けてくれる。

そこから、なんだか私の汚いものが浄化されていくようで

私は涙を止められなくなった。

「ありがと・・・ごめんね、ヒロ」

「あやまんなよー・・・俺だって、お前の気持ちわかるからさ」

苦笑交じりのヒロの言葉。

私、うすうす感づいてた。

そうだよね、ヒロは未来が好きなんだ。

「あーあー、あいつらほんと、早くくっついちまわねーかなぁ」

コウ君が、未来のことを想っているのはすぐわかる。

親友の大切な人に、恋してしまった。

私たちは仲間だ。

「・・・そう、だね」

手の甲で涙を拭いながら、私は笑った。

この恋は、どうしようもない。

「もうそろそろ、春だな。桜の蕾が付いてる」

公園内の桜並木を見ながら、ヒロは明るく笑う。

「そうね、私の季節よ」

私も無理に明るい声をつくって答えた。

「春に産まれたから、春子だっけ?いい名前だよな」

「うん」

ほんとに、優しいね、ヒロ。

貴方を好きになれてたら、どんなに幸せだっただろう。

「お前も、十分いい女なのになぁ。

俺、お前の事好きになれりゃよかったのにな」

おどけながらぼやくと、ヒロは両手を後ろについて、空を仰いだ。

バカね、私たち、同じこと考えてるわ。

私はコウ君が好き。

ヒロは未来が好き。

フフと、悔しいわけじゃないけど、笑いが漏れた。

まったく、本当に私ってば、どうしようもない。

ううん、私たちってば、か。




早く春が来ればいい。

温かく、優しい色と光につつまれた・・・春になればいい。

季節も、そして私たちにも・・・

優しい恋の出来る春が・・・・



                                             【了】
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◆◆◆◆◆◆◆◆一言◆◆◆◆◆◆◆◆

結局ハルちゃんは、コウ君が好きだったと思うのですよ
なんか、堂本君とくっつくEDも合ったけど(--;
あのEDのあと、主人公はどうしたんだろうと考えると
悲しすぎますねぇ





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