初恋






幸せだな。
なんて、こんな事で感じてしまう俺を、自分で可愛いと思う。
今日は久しぶりにバイトもない。
未来も時間があるからと、2人で街をぶらついていた。
デートと呼べるほどのものじゃないけど、手を繋いで2人で歩くってのが何だかとても幸せな気分にしてくれる。
まあ、未来が何もないところで転ぶから、なんて理由をつけて手を繋いでいるんだけどな。
手を繋いだだけで、こんなにドキドキするなんて、思いもしませんでしたよ。俺は。
「ねえ、あれ可愛い。ちょっと見てもいい?」
一軒の雑貨屋を指差して、未来が立ち止まった。
俺は何も言わずに、笑顔で頷く。
未来も笑顔で俺の手を引いて、店の方に歩く。
はぁ〜可愛い。
付き合ってまだ2ヶ月。
未来は、ますます可愛さを増してきてる。
まあ、俺の欲目かもしれないけどな。
俺の未来はめちゃめちゃ可愛い。
「きゃっ・・・」
店にばかり気を取られていた未来が、通行人にぶつかった。
「ばっか、大丈夫か」
手を繋いでいない方の空いている手で、未来をささえて、ぶつかった相手に頭をさげようとして
ビビッタ・・・・・・・・なんで・・・こんなとこで会っちまうかねぇ。こんな時に。
「ヒロぉ?やだ!ヒロじゃない!久しぶり」
「あ、ああ。ひさびさ」
高2の時に付き合っていた香奈子。
今まで付き合った女の中で、一番こっぴどい別れ方をした奴。
『ヒロはきっと、誰も好きじゃないのよ。誰のことも好きにならない人・・・優しいくせに冷たい』
あの時は、我が儘な女だ。と思ったけど。
今思えば、ごもっともです。
ええ、俺はあの時コイツのことを好きじゃなかった。
いや、好きだったけど友達の好きと似たようなもの。
恋ではなかった・・・俺は未来に出会って初めて、恋ってやつがなんなのか知ったんだ。
「ふ〜ん、それが今の彼女?」
香奈子は値踏みをするように、未来のことを下から上までながめてる。
こわいよーこわいよー。
香奈子は、きつめの美人だから、言うことも性格もキツイ。
そこが可愛いと、付き合ってた時は思ってた。
「おい、やめろよ」
未来を後ろにかばおうとして、失敗。
香奈子が未来の腕を掴んでた。
「相変わらずかわいい子連れてる。
ねえ、あなたさ、ヒロに騙されるんじゃないわよ。
こいつこんな顔して、悪い男なんだから。
ヒロに泣かされた子、何人もいるの。半年も経たずに捨てられちゃうわよ」
ビックッと未来が震えたのが、握った手を通じて伝わってくる。
意地悪く笑って香奈子は未来を離した。
うわ、も〜信じらんね・・・・
「やめろって言ってるだろ。おい、行くぞ」
無理やり未来の腕をひっぱって引き寄せた。
怒ってるよなぁ。うん、怒るよなぁ普通・・・
「昔、付き合ってた奴なんだ・・・悪い奴じゃないんだけど。性格きつくてさ・・・ごめんな」
とりあえず、謝った者勝ち。
「ううん、大丈夫」
未来は笑ってくれたけど、その笑顔はどっかぎこちない。
「ふふ、ちょっとした意地悪」
「あのなぁ、いい加減しろよな」
「私は本当のことしか言ってないも〜ん」
うわ、もーこの女、埋めてぇ・・・
何も未来の前でこんな事言わなくてもいいだろう
「ごめんねー彼女。私行くから。お幸せに」
なんていいながら、香奈子は人ごみに消えた。
ちらっと、未来の方を見ると、何だか考え込んでいるようだった。
その後俺は、必死で未来のご機嫌をとった。
だけど未来は、機嫌を直してくれる様子はなく、時間は勝手に過ぎていって、夜になった。
今日は平日だから、明日もまた大学がある。
あまり遅くなるといけないので、夕飯を食ってから、未来を家に送る。
俺ばっかりがしゃべりっぱなしで、未来はほとんど相槌を打つだけだった。
「今日は・・・ごめんな」
未来の家に着き、別れる間際にもう一度謝る。
でもさ、そろそろ機嫌直してくれよ。
「・・・・ねえ、堂本くん。私たち・・・・」
私たち?なに?
首をかしげると、未来は言いづらそうに唇を噛む。
「おいおい、どうした?」
「・・・・別れようか・・・」
はい???
今、なんていいました?
別れる?
は?なにそれ?
「何で?」
口を出た言葉はそれだけ。
が、俺は今激しく混乱してますよ。
なんで別れるんですか?
「だって、昼間にあった人の方が・・・堂本君と似合ってるもん」
「あほかー意味わかんねぇ。俺が今付き合ってるのはお前だろうが!」
ホント意味わかんねぇ・・・
「・・・堂本くん、優しいし楽しいし。あの子みたいな子の方が、堂本君に似合ってる。
私みたいな子より、ああいう子の方が似合ってるよ。昼間の堂本くん楽しそうだったもん」
あほかーーーーーっと叫びたくなりましたよ
俺は。
あれが楽しそうに見えたのか!?
俺はね、冷や冷やしてたんですよ!
だけど、その反面、ちょっとうれしい。
『別れようか』が嬉しいんじゃなくて
これは・・・
「なあ?もしかして・・・やきもち?」
「ち、違うーーーそれだけじゃないもん」
俺の言葉に、未来は真っ赤になって口を尖らせた。
やっぱ、やきもちだ。
ふふふん、やきもち焼かれるってうれしいんだなぁ
アホだとは思うけど、初めて気が付きましたよ。
「じゃあ、なんだよ?」
顔がにやけるのを止められない。
「だって・・・だって・・・半年もしないで捨てられるって・・・」
それか・・・それがネックになってたんか。
「ばーか、お前。そりゃ昔はそうだったけどさぁ」
「・・・やっぱり本当なんだ・・・・ねえ、お願い・・・別れて・・・」
だから、意味がわからん。
何でそれで別れ話になるんだ。
「あのなぁ・・・なんでそこで別れ話になるわけ?」
「だって・・・私・・・これ以上堂本くんを好きになりたくない。付き合ってから、どんどん好きになっちゃう。
捨てられるんなら、今のほうがまだましだもん」
目に涙を浮かべて、未来は俯いてしまった。
あ、鼻血でそ・・・・
マジ可愛い・・・何それ
今の俺なら、空も飛べちゃうぞーーー。
「まあ、落ち着け。座って話そう」
未来の家の玄関口の階段に、未来を座らせて、俺はその前に膝を着いてしゃがんだ。
丁度目線が一緒の高さになる。
未来の目が俺を見つめてる。
俺は吸い寄せられるように、キスをした。
柔らかく触れるだけのキス。
「高校の頃は、確かにそうだった。付き合っても好きになれなくて、すぐ別れてたさ」
そういうと、未来の顔が泣きそうにゆがむ。
「泣くなよ・・・でさ、俺、大学に入ってお前と会って、それで、初めて恋をするって気持ちを知ったんだ。
苦しくてさ、切なくてさ・・・でも傍にいれるだけで幸せで
人を好きになることがこんな気持ちなんだって、初めて知った」
あーあ、手の内さらしてるよ、俺。
でも仕方が無い、本当のことなんだしさ。
「俺、お前のこと好きだ。マジで好きになった・・・言ったよな?」
未来は、まだ涙を浮かべていたが、頷く。
「俺の全部お前にやるって・・・そう言ったよな?
だから、傍にいてくれよ。お前の全部俺にくれよ。もっと好きになって、離れないでくれ」
「堂本くん・・・」
「お前がやきもち焼いてくれるの、嬉しい。でも、不安にさせたな・・・ごめん」
もう一度キスをする。
「私こそ・・・ごめんなさい」
泣きながら笑う未来。
お前は知らないかもしれないけど、俺は本当に、お前にメロメロなんだぜ。
「俺だってな〜いっつもやきもち妬いてんだぞ」
「嘘・・・そんな相手いないじゃない」
ああ、そうね、お前さんは鈍いからね
「ばーか、コウとか篠原とか・・・お前を狙ってる奴は多いんだよ」
「えーーーコウ君は幼馴染だし・・・篠原くんは・・・お友達よ?」
そうですね。
今は篠原が本気出してないからわからんが
あいつが本気を出したら・・・考えただけでも恐ろしい・・・
まあ、大丈夫だとは思うけど・・・
あいつも友達の彼女に手を出すような奴じゃないだろうし・・・多分・・・・
でもね、気が気じゃないんですよ・・・ったく。
っつか、俺ってば・・・なんでこんな事べらべらしゃべってるんだ!?
男としてどうよ、それ?
・・・・惚れた弱み・・・ってやつかねぇ。
こいつには、嘘も隠し事もしたくねぇし
出来ない。
ばかだよなぁ・・・ほんとに。
「俺だって、その『お友達』だったの覚えてるか?」
「堂本くんは、違うよー」
「ばーか」
必死で弁解しようとする未来の口を
唇でふさいだ。
しゃべろうとして開いていた唇の隙間から舌をねじ入れて、未来の口の中を探る。
未来もためらうことなくそれに答えてきた。
長い長いキスをして、俺たちは離れた。
「マジで俺、お前のこと好きなんだよ
誰にも渡したくねぇ。離したくねぇ、傍にいてくれ・・・絶対大事にするから」
俺の囁きに、未来は満面の笑みで答えてくれた。
心配なのはこっちのほうなんだぜ。
お前はどんどん綺麗になっていくし。それが俺のせいかなんて、わかんねぇし。
でもさ、信じていいか。
お前が変わったのは、俺のせいなんだって・・・
俺ってばさ、まるで恋愛初心者だ。
こんなのも初恋っていうのかね。
「愛してる・・・ぞ」
「うん、私も・・・愛してる」
どちらからともなく、顔を近づけもう一度キスをする。
長い長いキス。
マジで俺、幸せだな。



                                            【了】


◆◆◆◆◆◆◆◆一言◆◆◆◆◆◆◆◆

500hitを踏んでくれた、さつきさまのリクエスト「初恋」いかがだったでしょう?

「いつもヒロが嫉妬してばかりなのでたまには未来ちゃんが嫉妬するということで、ヒロの元カノを登場させてください」

とのリクエストで、書いてみました♪
いかがなものでしょう?
リクエストって初めてですが、刺激されて楽しかったです。
さつきさまの期待に添えたものだったらよいのですが・・このお話をさつきさまに奉げさせていただきます♪

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