ヒトリノ夜







お前の事を一人の女性としてみている。
そう告げられたら、どんなに楽になるのだろう。
愛しい少女。美しい少女。こんな僕の気持ちを、お前は気づく事が無い。
愛している。そう告げられたら・・・だが、それは叶わない願い。
告げてしまえば、全てが壊れていくだろう。
お前が僕の傍を去っていくなんて、考えたくも無い。
兄として、僕を慕ってくれるお前を傷つけたくは無い。守ってやりたい、何があろうとも。
お前をはじめてみたときから、僕はそう想っている。
12歳のあの日から・・・寂しげな瞳をした、小さな女の子。
少しずつ笑顔を見せてくれ るお前に、僕がどれほどの喜びを感じたか。
お前は知らない。
この兄の劣情を……






窓を開けると、夜風が少し冷たかった。
もう秋になるのだと、その風が告げているようで、どこか寂しさを感じさせる。
静かな夜だった。
この時間は、いつも未来と過ごしていた。
だが、今日はこの家の中に彼女の気配はない。
静か過ぎて、静寂が耳に響く。
今頃、愛しい妹は何をしているのだろう。
和希の脳裏に、愛らしい少女の笑みが浮かんだ。
彼女と出会ってから、もう八年の月日が流れた。
最初はただ頼りなく、所在なさげに家族の輪の中に入れずにいた未来。
あの小さかった子供が、今は中学生になっていた。
和希自身も小学生だったのが、もう成人して大学に籍をおいている。
月日が経つのは本当に早いもので、八年はあっという間に過ぎていった。
泣いてばかりいた未来も『お兄ちゃん、お兄ちゃん』と和希の後ばかりを追うようになって、
二人はとても仲の良い兄妹として育った。
和希が、未来への気持ちに気づくまでは……
あれは、ほんの数ヶ月前。怪我をした未来が、幼馴染の康平に背負われて帰って来た日。
そのスカートから覗く滑らかな白い脚、膨らんだ胸、誘うような赤く色づいた唇。
全てが和希を魅了して離さなかった。
子供だと思っていたのに、いつの間にか女へと変化していた彼女。
あの日以来、未来の事を妹として見れなくなっている。
未来を背負う康平に、嫉妬心を抱いているのだと気が付いた時、和希は自分の想いを確信した。
未来を一人の女性として愛しているのだと……気づいてしまった想いを、止める術を和希は知らない。
未来だけしか欲しくない。
こんな気持ちは間違っているのだろう。
あの子は、和希の事を兄として慕ってくれている。
それなのに、男として愛しているなどと告げる事が、どうして出来るというのだろうか。
男として未来を求めている自分と、兄として未来を守りたい自分。
和希はその狭間で揺れていた。
何度、気づかなければ良かったと思っただろう。
でもそれは、叶わない願い。
今もこうして、未来が自分の手の届かない所にいるというだけで、気も狂わんばかりに彼女を求める自分を感じる。
出来る事ならば、ずっと自分の傍に置いておきたい。
誰にも触れられぬよう。
誰も見ないよう。
この気持ちを、未来に伝えるつもりはなかった。
だが、兄として見守る立場を貫くのならば、いつかは誰かに盗られてしまう。
未来もいつか、誰かを恋人として愛する事があるのだろう。
そんなのは嫌だ。
許せない。
誰にも渡したくない。
それでも、愛を彼女に告げる勇気はない。
いや、勇気などではなく、ただ彼女を傷つけたくなくて、怖がられたくなくて・・・ただの臆病者なのだ。
いっそ離れてしまおうか、いっそ抱いてしまおうか。
両極端な思いが心の中で渦巻くが、未来に悟られてはいけない。
何よりも大切な子だから。
「未来……お前は今、何をしているんだろうね」
窓の外には満天の星空。
彼女もこの空を見ているのだろうか。
傍にいたい、抱きしめたい。
名を呼ぶだけで、胸が締め付けられる。
愛しているなんて、そんな言葉ではこの想いは表せない。
彼女が全てだ。
傍にいないと、これほどまでに寂しい。
彼女が自分以外の、他の誰かを愛する事があるなんて、考えたくもない。
愚かな兄がこんな風に怯えているなんて、未来は知らないだろう。
日々花の様に、美しくなっていく彼女を止める事は出来ない。
最近では、和希が見惚れてしまうほど綺麗になっていく未来。
こんな静かな夜、独りきりでは考えたくもない将来の事を考えてしまう。
なるべく長く傍にいてくれ、お前なしではもう僕は、立っていることも出来ない。
それ程お前を求めているよ。
柔らかい体躯を抱きしめ、甘い唇を奪ってしまいたい衝動を押さえ、傍にいることは辛いけれど甘美な日々。
「お前がいないと寂しいよ・・・声が聞きたい」
和希がそう呟いた時、電話のベルが鳴った。
多分未来だ。
「はい、立花です」
あわてて受話器をとる。
「もしもし、お兄ちゃん?」
「未来・・・そっちはどうだい?楽しい?」
心まで蕩けさせる甘い声を聞きながら、和希は微笑む。
「うん、楽しいよ。沖縄ってまだ暑いの、明日の自由時間は泳げるかも」
「泳ぐの?こっちはもう肌寒くなってきてるのに……風邪ひかないようにね」
「大丈夫。本当に暑いんだから〜何だか同じ日本って気がしないの、すっごく面白いよ。
明日はねぇ、午前中は観光名所を周って午後は自由時間なの。
そうだ!お兄ちゃん何か欲しいものある?お土産」
電話口で、未来は無邪気に笑っている。
和希の寂しさなんて、気づいていないのだろう。
「初日からお土産の話か、あと3日もあるだろう?そんなの気にしなくていいよ。
僕は沖縄行った事ないからなぁ、未来が適当に選んで。楽しみにしてる」
「え?お兄ちゃんって沖縄来たことなかったの?」
「うん、行った事ないな」
「じゃあね、今度一緒に来ようね。海がすごく綺麗なの、お兄ちゃんと一緒に見たいな。
お兄ちゃんとこんなに離れるの初めてだから、ちょっと寂しいんだ」
最後の方は、照れた小声だったが和希は聞き逃さなかった。
愛しい未来。その一言がどれだけ僕を喜ばせているのか、お前は知っているのかい?
「初日から寂しいなんて、あと3日もあるのに、どうするんだ?」
「もーお兄ちゃんの意地悪ぅ。大丈夫だもん、修学旅行なんだから友達がいるもん」
平静を装って笑ってからかう和希の言葉に、拗ねて口を尖らせる未来を容易に想像できる。
子供っぽいその仕草もいとおしくてたまらない。
「冗談だよ。僕もお前がいないと寂しい……愛しているからね」
本当に、心の底から。
「うん、私もお兄ちゃん大好き。約束だからね、今度一緒に沖縄旅行しようね」
大好きか・・・未来の好きと、和希の愛しているは、意味が違う。
それでも、愛している少女に好きと言われて、嬉しくないわけはない。
「ああ、約束」
「あ!ごめん、お兄ちゃん。電話の時間って十五分なんだ……また明日かけるから。おやすみなさい」
「おやすみ、気をつけるんだよ」
慌しく切られた電話を、ため息をつきながら戻す。
たった三泊四日の修学旅行。
その初日なのに、なぜこんなに寂しい思いに駆られてしまうのか。
本当に、僕はどうしようもない。
救いは、未来も『寂しい』と言ってくれたこと。
兄と離れている寂しさであったとしても。
「あと三日か・・・つらいなぁ」
ぼやきながらも、とりあえず、未来が帰ってきたら抱きしめてやろう、と心に誓った。
兄として……
それが今、和希に許されたたった一つの行為だった。




【了】
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◆◆◆◆◆◆◆◆一言◆◆◆◆◆◆◆◆

馬鹿ですね。さらに怖いですね、この人(笑)
これも以前オフライン用に書いたお話です。
いや〜テーマが狂愛って事だったんで、
狂気に近いほどの愛情をーと思って書いたんですけどねぇ
タダの未来ちゃんマニアの阿呆になりさがっている(鬱
離れるのが寂しいってのはわかるけど、
修学旅行でこんなに深刻になるなよーと(笑)
で、これはですねー私の書いた和希×未来の
「花の香り」と「恋心」の間くらいですかねぇ、時期は
こんなに悶々としてるから、
未来ちゃんの寝顔に感極まってキスしちゃったんですねー兄(笑)
兄萌えの台詞とは思えんような言葉を吐いてますが、
私はれっきとした兄萌えです(意味がわかりません)





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