感触







傍にいて、触れて抱きしめたい。
そんな願いが叶えばいいんですが、そうもいかない。
世の中ってのは不条理で曖昧だ。
俺の傍に大好きな女がいる。
でも俺のものじゃない。俺のものにしてはいけない。
馬鹿だね、って自分で思うけど、大切な親友の大好きな女の子が相手じゃ、俺なんてどうしようもない。
好きだけど、親友を裏切りたくない、なんて奇麗事かもしれんが。
「堂本くん?どうしたの?」
いつもの朝のいつもの状況。
一緒に大学へ向う未来が、黙り込んだままの俺を心配そうに見ている。
大きな目がくるくると動いて可愛い。
「あ〜眠いんだよ。昨日バイトが大変でさぁ」
なんて嘘をいいながら、未来の頭をぽんぽんっと撫でた。
柔らかい髪の感触が心地いい。
ただの友達のままだったら、こんなに切ない気持ちになる事もなかっただろうけど・・・ダメだな、俺ってば。
こいつを好きじゃない頃の自分なんて思い出せないくらい、こいつにメロメロだ。
「そっか、あんまり無理しないでね。体壊したら意味ないよ?」
だからーその上目遣いで人を覗きこむクセ、やめてくださいって!
マジで俺の理性はギリギリの決壊寸前だっつーの!
「ばっか、お前。誰に物言ってんだよ。俺は健康だけは誰にも負けねぇぞ」
「それならいいけど……ちゃんと休んでね」
本当に可愛い事いうよな、こいつ。
なんでこんなに可愛いのかね。
俺だって今まで何人かの女と付き合ってきたけど、こんなに可愛い事
いう女なんていなかったぞ。
それとも、惚れた欲目ってやつなのか……
「だいじょーぶ」
そういって笑うと、未来も嬉しそうに微笑んだ。
少し後ろを歩いていた俺の方を見ながら歩いていた未来のスカートが、前を向いた拍子に、ふわりと風に揺れる。
膝丈のスカートから一瞬だけ覗いた腿が、白くてなんとも色っぽい。
だーかーらーーー!そんなとこばっか見るな、俺!っつか、煩悩を捨てろ!
むしろ 、捨ててください。お願いします。
捨てさせてください、俺の本能さま。
「ど、堂本くん?どうしたの?」
頭上から未来の声がする。
それはおかしいだろ、俺の方がなんぼも身長が高いのに・・・って、気が付くと俺ってば、蹲ってますよ?
何してるんですか?
あわてて起き上がろうとして、上から覗き込んでいた未来とぶつかった。
「キャッ」
条件反射でバランスを失って転びそうになった未来を抱き寄せる。
転ばないようにと、手を貸したつもりだったんだけども・・・
や、やわらけぇ・・・なんだこの甘い匂い。
女を抱きしめたのは初めてじゃないのに、何でこんなにドキドキするんだ、俺。
甘い香りが俺を惑わして、その愛しい感触を腕が離さない。
右腕が未来の肩を、左腕が未来の腰を捉えて動かない。
いや、動かないじゃなくて!
はーなーせー・・・離して・・・お願い。
でもね、離せないの。
手がね、言う事を聞いてくれません。
「あ、あの……堂本くん?ありがと」
「ああ、うん・・・お前どじっ子な、マジで」
軽口を叩いていても、俺の手は未来の身体から離れなかった。
理性は離せと言う。本能は離したくないと言う。
俺はどうすればいいんでしょう?
「朝っぱらから女の子を襲わない!」
突然の声と共に、後頭部にパコーンっと軽い痛みが走った。
「はいはい、未来。おはよ〜。こっちおいで」
声の主はおハルだ。
人の後頭部を思いっきり殴っておいて、にこやかに未来と俺の間に割って入り、未来を俺から引き剥がした。
いや、逆、俺を未来から引き離したんだな、この場合。
「まったく、朝っぱらから欲情してるんじゃないわよ」
冷たい視線を送られて非難されてもまったくその通りなので、反論も出来ない。
でも、そこまで言う事ないじゃねぇか、泣くぞマジで。
「違うの、春子。堂本君は転びそうになった私を助けてくれてのよ?」
「・・・未来がそういうなら、いいんだけどね」
おハルの視線はまだ冷たい。
「でも、堂本くんって頼りになるよね。なんだかお父さんみたい」
お、お、お、お父さんーーーーーー???
「・・・お父さん・・・ねぇ・・・」
「うん、安心できるの」
さすがにおハルの顔は引きつっているが、未来はそんな事お構いなしでにこやかに告げた。
あのね、未来さん。
俺はお前に好きだっていう気はないよ?
ないけどさ・・・お父さんって、あんた・・・
「学校、早く行かないと遅刻しちゃうね、いそごっ」
軽やかな足取りで、未来は先に進んでいく。
「ご愁傷様・・・」
冷たい視線から、哀れみの視線に変わったおハルの眼差しは、何の慰めにもなりません。
未来とは大切な友達でいたいと思ってる。
おハルがいて、コウがいて、未来と俺がいて、四人で馬鹿話するのはすっげえ楽しい。
だから俺は今の状況は嫌いじゃない。
嫌いじゃないけど!!
でもさ、好きになってくれとはいわないけどさ、せめて男としてみてくれよぉ。
お父さんはきっついです。
マジで。
ああ、もう!!
誰かいっそ俺を一思いに殺してやってくれぇ!!
蹲って泣き出したい気分を抑えながら向う大学へ道のりは果てしなく遠かった。




【了】
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◆◆◆◆◆◆◆◆一言◆◆◆◆◆◆◆◆

馬鹿ですね。この男(ひどっ)
オフライン用に随分以前に書いたお話なんですが
オフラインの話がなくなったので、UPしてみました。
いや〜しかし
久々におばかなノリの堂本くんが嬉しいです。
これですよ!このノリ!
私が彼に求めているのはこのノリなのです(笑)
ま、「そこに〜」の彼も彼の良さが出てるかな〜
とは思うんですけどね(笑)






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