夏のお嬢さん




「暑い」
おハルが不機嫌そうに呟く。
「俺だって暑い・・・っつか、暑い暑い言うな!余計暑くなるわい」
「暑い暑い!!暑いったら暑いの!」
この女・・・暑いっつたら暑くなくなるんかい!
そんなら俺は何べんでも言ってやるわ。
「気持ちは分かるけど・・・夏だもんね」
大騒ぎするおハルの隣で、未来が苦笑している。
「海行こう!海。明日丁度休みだしさ。コウ君も誘って
4人で海行こうよ」
「明日ぁ?速攻かよ!」
「だって暑いじゃな〜い」
ええ、暑いですけどさぁ
今俺たちは、3人で大学の中庭にいる。
夏休みに入っていたが、コウやおハルはサッカー部の練習。
俺と未来は、課題をやりに大学に来ていた。
というか、早い話、俺が未来に勉強を教わっています。はい。
これ以上落第点とったら死ねる。
バイトが休みの日は、未来に家庭教師のような事を頼んでいるんだが
家にはいけないし、呼べません。
そこまで俺の自制心はないです。
「私、水着なんて持ってないよ」
考え込みながら未来は言う。
行く気かよ!?・・・いや、いいんだけどさ。
「よし!それなら今から買いに行こう!
丁度バーゲンやってるとこあるんだよ。私が選んであげる」
おハルは常々未来のコーディネイトをしたがっているから
何だか大喜びだ。
「俺も水着もってな〜い。ハルちゃん選んで〜」
「あんたはトランクスでも穿いてなさい」
ぐはっ、なんてヒドイ女だ。
ちょっとした冗談だったのに(涙)
「今日はもう上がりだからさ。買い物いこ。
じゃあ、コウ君にもそう伝えておいて。時間とかは後で連絡する」
「マジで行くんですか!?」
「当たり前でしょ。ほら、未来。行きましょ」
勝手な事を言って、未来を引きずるようにして
おハルは行ってしまった。




んで、あれよあれよと時間も決まり・・・
来てしまいましたよ!海!
昨日の今日で!
俺らってばアクティブ・・・
「いい天気だな」
「あー・・・暑い」
コウと2人で浜辺に寝転がっていた。
ビーチシートをひいて、うつぶせに寝転がると
夏の日差しが背中をジリジリと焼いていく。
男2人で何をしている。と思われるだろうが
女2人がまだこないんだから仕方がねぇ
しっかし、いつ来ても思いますが
海ってのはいい眺めだねぇ・・・
ちっちゃい布で彩られた女の子たちを見放題だ。
あんなの下着と変わらんのに、
女どもはなぜ、水着は見せて歩いて下着は駄目なのか・・・
う〜ん、ミステリー。
「ったく、あいつら遅すぎねぇかぁ。
どんだけ待たすんだよ」
「仕方ないだろ、女の子は着替えに時間がかかるんだよ」
相変わらずのフェミニストぶりを発揮するコウは
そら〜モテるだろうとシミジミ関心してしまいますよ。
コウはいい男だ。
初めて親友って呼びたい奴だと思う。
俺は未来が好きだけど、コウがずっと未来の事を見てたのに
気づいてしまった。
っつか、かくさな過ぎなんですよ、この男。
未来が大事ーってオーラがビシバシ伝わってくる。
とうの未来は気づきゃしねぇが
罪作りな女だよ。まったく。
「お・ま・た・せ」
おハルの上機嫌な声が頭上から降ってきた。
待ちました。マジで待ちました。
「ジャーン!未来ちゃん。おニューの水着披露で〜す」
おハルの後ろに隠れていた未来が、壁だったおハルを失ってあせる。
いや、俺もあせった。
未来の身に着けてる水着は、薄い桜色のビキニ。
白に近いピンクの生地の右胸に、赤い花の刺繍。
未来の白い肌を艶かしく演出する水着だった。
春子さん、ナイスなコーディネートです。
が!あふん、やばい・・・ムスコが元気になっちゃったよ。
よ、良かった・・・うつ伏せに寝てて。
「似合ってるじゃないか、やっぱハルちゃんが選んだだけあるな」
行きの車の中で、おハルは散々未来の水着がどうだとかと
説明していたが・・・うん、さすがです。
「よし、じゃあ。まずは海に入りますか」
コウはすぐさま立ち上がった。
康平君・・・君に煩悩はないんですか?
それとも俺だけか?
欲求不満なのか、俺?
「どうしたの?堂本くん」
いつまでもうつ伏せで動かないでいた俺を
未来が心配そうに覗き込む。
うつぶせに寝てる俺の、丁度目の前にしゃがみこむ。
それはやめてーそのアングルはやめて!!
目が!目がそこに釘付けになっちゃいます!
どこかは、自主規制でいいません。
ええ、いえません。
胸の谷間にもどきどきですが、そこはいえません。
「・・・もうちょっと焼いてから行くから、先行ってろよ」
今立ち上がったら、テントが立っちゃいます。
あ、なんか泣きそうよ、僕ったら。
「え〜一緒に行こうよ」
未来は、拗ねたように唇を尖らせた。
そんな顔するなよ・・・立ち上がりたくても立ち上がれないのですよ・・・ぼくは
いや。集中しろ!俺!
未来は普通の服を着ている。着ている。着ているんだ!
想像力をフル稼働させて、俺はいつもの未来の姿を思い浮かべる。
・・・・・・・・・俺の脳みそは腐ってます。ええ・・・下着姿がでてきました。
ますます元気になってしまったムスコが情けない。
「ちょっと疲れてるからさ、もうちょい休んでから行くわ」
「・・・わかった」
つまらなそうに呟いてから、未来は先に行ってしまった
コウとおハルの後を追いかけていった。
白い肌がまぶしい。
好きなんだ、なんて言えない状況。
抱きしめたいのに、抱きしめられない。
コウがあいつの事好きだって知ってるから・・・親友を裏切りたくないから。




「ねえ、ねえったら!起きてよ、ヒロ」
背中をバチンと叩かれて目が覚めた。
そんなに渾身の力で叩かなくってもいいだろうが!
しかし、いつの間に寝てたんだ、俺・・・
「あぁ・・・おハル・・・どした?」
寝ぼけながら起き上がると、おハルは真剣な顔をしている。
「未来みなかった?ヒロの事見てくるって言って
居なくなっちゃったのよ・・・今コウ君も探してくれてるけど」
「はぁ!?マジかよ」
居なくなっちゃったって、おいおい。
怒鳴るようにいうと、おハルが泣き出しそうな顔をした。
「やっぱり一緒について行けばよかった・・・」
「ばーか、泣くな。俺も探しに行く」
横に置いていた白のパーカーを掴んで、俺は走り出した。
未来は可愛い上に、自覚が無い。
しかもその上警戒心もないときたら、
夏の海で一人にするなんて持っての外だ。
夏は開放的になる。
開放的になった野郎どもも多い海。
危険すぎる。
「未来ーーー」
叫ぶように名前を呼ぶ俺を、周りがじろじろ見てるけど
そんなもん気にならない。
あいつ、見つけたらはたいちゃる。
人の多いところはコウかおハルが探すだろう。
まさか、とは思うけど、俺は少し離れた岩場のほうに走った。
未来の名前を呼びながら




い、正解。
俺って偉い。天才だね。
岩場の陰のほうで、声がする。
「あの、私連れがいますから・・・」
「なんでぇ、付いてきてくれたじゃん」
「あの、だって・・・あの・・・引っ張って来たんじゃないですかぁ」
困ったような、泣き出しそうな未来の声と
知らないなんだか軽そうな男の声。
「未来」
名前を呼ぶと、未来が嬉しそうに駆け寄ってきた。
安心しきった笑顔。
何だかナイトにでもなった気分で誇らしい。
ちょっと役得。
その未来を俺はかばうようにして、カル男(仮称)の前に立った。
「なにあんた?コイツに何か用か?」
はっきりいって、俺は体格がいい。
スポーツ選手のコウにも負けない自信がある。
なんせ趣味は身体を鍛えることですから。
喧嘩も負けた事が無い。
平和主義なんでそんな事あまりしないが、
こんなひょろひょろしたナンパ男に負ける気はしない。
パーカーの前は閉めていないから、カル男(仮称)も
すぐにそれに気づいたらしい。
「なんだよ、彼氏ときてたのかよ。じゃあ、早くそう言えよな」
そういうと、すぐに尻尾を巻いて逃げて言った。
ばーか。
「おい、こら。あんなのに着いていくあほがいるか」
後ろで震えてる未来の頭をぽんっと、はたく。
未来は涙ぐんだ目で、俺の顔をみた。
だからさークセなのかもしれないけどさぁ
上目遣いはやめてってば・・・マジで。
俺だって男なのよ。
襲っちゃうぞ、マジで・・・いえ、嘘です。ごめんなさい。
「・・・ありがと」
涙を浮かべながら、未来が笑う。
俺は意識を失った。
うん、マジでそんな感じ。
気が付いたら、未来を抱きしめてた。
柔らかい肌。
パーカーからはだけた胸に、未来の布越しのふくらみの感触。
右腕が肩を、左腕が腰を掴み、未来を抱きしめていた。
「ど、堂本くん・・・?」
はい、なんでしょう?
声にならない声。
ってか、俺!何してるんだ俺!
手が・・・動きません。
未来が混乱してる、けどそれ以上に俺も混乱してますって。
離したいのに、離せない。
身体が未来を求めてた。
襲ってるのと変わらんし!
「あ、あの・・・えっと・・・」
腕の中で身動きも出来ない未来が、もぞもぞと動いてる。
それがまた俺を刺激して、甘い痺れを感じた。
いや、そんなもん感じてる場合じゃないし!
「おっ前、震えてるぞ。怖かったんだろ?
ほら、俺が来て安心安心。震えるのが止まるまでこうしててやるからさ。
安心しろよ」
取り繕った俺の言葉に、俺自身が突っ込みをいれる。
俺が一番安心できねーって!
それなのに未来は動くのをやめて、俺の肩に頭を乗せた。
「うん、ごめん・・・ちょっと怖かった」
安堵のため息をつく。
そんなに信用すんなよ。
お前が俺のこと、なんとも思ってないのは知ってるけどさ。
なんだか、嬉しいような悲しいような
複雑で難解な気分だ。
「ばーか」
俺がな。
お願いです。俺の意思と関係ない俺の一部。
大きくなってくれるなよ。
「ほら!おハルもコウも心配してるんだからな。行くぞ」
未来の肌が名残惜しい。
でもね、これ以上は耐えられませんって、男として。
告げられない想いが、どんどん膨れ上がって
いつかお前にぶつけてしまうかもしれないけど
それでも今は・・・友達のままでいたい。
手を差し出すと、未来は微笑んでその手を取った。
コウ達と合流するまで、俺たちは手を繋いでた。




その日
未来はお礼だと言って、海の家でラーメンを奢ってくれた。
夏の海で食うラーメンはまた格別だ。
別に俺は、食い物で釣られるような安い男じゃないけど、
それでも、今のこんな男と女だけど友達って距離は
意外と心地いい。
とりあえずは、未来に警戒心を覚えてほしいなぁ
なんて思いながら、ラーメンを食いつつ説教をする。
未来はそれにいちいち頷きながら、あやまり続けるが
「堂本くんがいてくれてよかった」
なんて、満面の笑みで言う。
あのねぇ、お嬢さん。
俺だって男なのよ・・・
ちくしょーーーーーーーー海のばかやろーーーーー!!
帰り際に海に向って叫んだ俺に
おハルとコウが白い目を向けてきた。


【了】



◆◆◆◆◆◆◆◆一言◆◆◆◆◆◆◆◆

1000hitを踏んでくれた、桃さまのリクエスト「夏のお嬢さん」いかがだったでしょう?
「ギャグ系のちょっとH系でお願いします?もちろんヒロ視点。」
とのリクエストで、書いてみました♪

ギャフン、ごめんなさい。H系はやはり私の力量では・・・
未来ちゃんの水着姿にどっきどきってなことで、H系・・・・だめっすね(--;
リクエストに御答え出来たかどうかは謎ですが、この作品を桃様捧げさせて頂きます♪


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