大人の階段−約束






好きな人が出来ると、世界さえも違って見える。
そんな言葉を聴いたことがあるけれど
ちょっと前の私は、そんなの嘘だと思ってた。
ううん、確かに変わったけど、全然嬉しくなかった。
私の大好きな人は、私の事を妹としか見てくれなくて
好きだと言っても勘違いだって、やさしいけど冷たい言葉で
私を拒絶した。
誰よりも大好きなお兄ちゃん。
お兄ちゃんと結ばれた日から
本当の意味で、私の世界は変わったの。




「おはよう、起きて」
耳元で、優しい声が聴こえる。
いつもの声。
開けられたカーテンから日差しが差し込んでいて眩しい。
「んっ〜お兄ちゃん、おはよぉ」
まだとろんとした意識で、ふにゃふにゃしながら答える。
「大丈夫?無理させたかな・・・身体平気?」
私を気遣ってくれる声が、顔のすぐ目の前でしたと思ったら
キスが降って来た。
ふわぁぁぁ・・・・・なに?なんで???
驚いて目を開ける。
眠気なんてどこかへ吹っ飛んで行ってしまった。
「目、まん丸だ。まさか昨日のこと覚えてない、
なんていわないだろうね?」
お兄ちゃんが苦笑しながら私をみつめている。
その言葉で、急速に私の意識は覚醒した。
えっと、昨日の夜お兄ちゃんに好きだって言って、
それでお兄ちゃんも私の事好きだって言ってくれて
それで・・・それで・・・私、お兄ちゃんのものになったんだ!!
顔が火照るのを感じた。
「真っ赤になってるよ。まいったな、朝食の準備できてるんだけど
そんな格好でそんな顔されたら、またお前が欲しくなる」
そんな格好といわれて、裸だってことに気が付いた。
朝、一度目が覚めた時はお兄ちゃんも裸で恥ずかしかったけど
肌の感触が気持ちよくって・・・
愛してるって抱きしめられて、嬉しくて気持ちよくて
私はまた眠っちゃったけど、お兄ちゃんはそのまま起きてたんだ。
すっごく恥ずかしい。
やだやだやだやだ。
恥ずかしくって、お兄ちゃんと顔が合わせられない。
私は布団の中に潜り込んだ。
「未来?身体つらい?」
そんなんじゃないのーそうじゃないの。
恥ずかしくて死にそうだよぉ。
「顔見せて」
優しく囁くお兄ちゃんの声は、布団のすぐ傍から聴こえる。
お兄ちゃんの手が布団にかかったのが分かった。
「だめーだめなの。お兄ちゃんは、あっちにいってて」
布団の中で叫ぶ。
子供っぽいってわかってるけど、本当にはずかしいんだもん。
「あっちいってって・・・ここは僕の部屋なんだけど・・・・
そう、そっちがその気なら、実力行使にでるよ」
その言葉が終わる前に、バッっと布団を引き剥がされた。
何も着てないのにーーー裸なのにーーー
「やぁ!!バカバカ・・・」
泣きそうになって抗議しようと上を向いたら、
布団の代わりにお兄ちゃんが覆いかぶさってきた。
男の人にしては長い髪が頬をくすぐる。
「やっと、顔が見れた」
溶けそうなほど優しい微笑みを浮かべたお兄ちゃん。
大好きな人。
裸の私を抱きしめて、キスをされると
昨日の甘い感覚が、身体の中に甦ってきた。
深いキスは恋人の証で、私の心も身体も
お兄ちゃんを求めて喜んでいる。
唇から、頬に額に、お兄ちゃんの唇が移動しながらキスを降らせる。
首筋にキスをされて、身体の中の甘い感覚が熱を帯びるのを感じて
私の身体はブルッと震えた。
「はい、おしまい。いつまでもこの格好だと風邪ひくぞ」
突然離された温もりの代わりに、ベッドカバーが私に巻かれた。
なんで?なんで続けてくれないの?
「お兄ちゃん・・・?」
「あ〜ほら、そんな泣きそうな顔しない。
僕だってこのまま続けてしまいたいけど、未来がつらいだろ?」
なだめる様に言われても、意味が分からない。
つらくなんかない。お兄ちゃんに触れられるのはとっても好き
女の子として好きでいてもらえるって、信じられるの。
「・・・つらくないよぉ」
途中でやめちゃうなんて、お兄ちゃんは意地悪だ。
ベッドに腰掛けてるお兄ちゃんを、寝転がったまま睨みつけた。
「じゃあ、立ち上がってごらん」
深いため息の後、そう言われて巻きつけられたベッドカバーで
裸の身体を隠しながら、しぶしぶ立ち上がる。
あれ、あれれれ。足に力が入らない。
寝てたときは気が付かなかったけど、下半身が何だか変な感じ。
だるくて、力が入らない。
「ほら、やっぱりつらいんじゃないか」
よろけた私の身体を、立ち上がって支えてくれたお兄ちゃんが
勝ち誇ったように笑う。
「うううーーー違うもん、立ってから気が付いたんだもん」
「初めてだったんだから、つらいのは当たり前だよ、無理しない。
僕もお前に無理させたくない」
頬にキスされる。
お兄ちゃんの腕が、ベッドカバー越しに私の腰に触れていて
なんだかその部分だけが、熱を持っているみたい。
「でも、夜はどうなるかわからないけどね」
耳元で囁かれる。熱い吐息が耳を掠めてぞくっとした快感が
電流のように流れた。
震えた私を力強い腕が抱き寄せる。
柔らかな唇と、温かい舌が、耳を這い、首筋から胸へと
花の様な痕を残しながら移って行く。
たまにきつく吸われて、私の身体はまた熱を帯び始める。
「さてっと、ご飯が冷める前に下に行こうか。
ほら、未来も着替えないと」
また突然愛撫が終了される。
「むぅぅぅぅ・・・お兄ちゃんのばかぁぁ」
絶対私で遊んでる!
「はいはい」
私の抗議は、さらりと流されてしまった。
お兄ちゃんは、そのまま私を部屋の前まで連れて行ってくれて
着替えが終わるまで、ドアの前で待っていてくれた。
お兄ちゃんの手を借りてそのままキッチンに向ったんだけど
その間中、ずっとお兄ちゃんの手が私の腰に回っていて
力が入らなくて抵抗できないのをいい事に、
唇が私の感じるところを刺激していた。
今まで気づかなかったけど、お兄ちゃんってすっごい意地悪じゃない?
その上、かなりエッチだよ。




やっぱり身体がだるい。
朝ごはんを食べ終わって、リビングのソファに寝転がった。
朝ごはんっていっても、もう昼前だからブランチだけど
座っているのもなんだかつらい。
後片付けまでお兄ちゃんに任せてしまって
すっごく心苦しいんだけど、身体が言うことをきかないんだもん。
「大丈夫?」
片づけが終わったのか、お兄ちゃんはタオルで手を拭きながら
キッチンから出てきた。
「ん〜だいじょ〜ぶぅ」
一度だるさを認識してしまったら、もう身体全体がだるい。
力の抜けた声で『大丈夫』っていっても信憑性がないね。
「ごめんね、激しかったかな・・・」
そ、そういうことをさらっと言って欲しくないよ。
また恥ずかしくなってくる。
「嬉しかったから・・・いいの」
「また紅くなってる。ほんとに可愛いね、お前は」
隣に腰掛けたお兄ちゃんの手が、私の頭を撫でてくれる。
そういえば、こういうの久しぶり。
あの冬の日に私が告白してから、ずっと触れ合いがなかったよね。
お兄ちゃんに避けられて、すごく悲しかったんだから。
でもいいや、今は幸せだし。
頭を撫でてくれる大きな優しい手は、私のもの。
妹としてじゃなくて、恋人として。
ずっと一緒にいられるよね。
「お兄ちゃん」
「なに?」
「あのね、大好きだよ」
すっごく好き。
「僕も愛してるよ・・・ところで、未来。起きられる?」
甘い時間を楽しみたかったのに、お兄ちゃんって無情・・・
「なんでー?」
「出かけようと思うんだけど、一緒に行くかい?」
「どこいくの?」
「・・・聞きたい?」
「聞きたい・・・」
お兄ちゃんの顔が、すっごく意地悪そうに微笑んでる。
聞きたいけど、聞きたくないような気もする。
「これ、クリーニングに出すついでに、買い物でも行こうかと思ってね」
がさがさと、ソファの傍においてあった紙袋から、
見慣れない服をとりだした。
それは、しわくちゃになった私の高校の新しい制服だった。
「誰かさんがこれを着て誘惑するもんだから、汚しちゃったんだよ」
「あ、う、だっ・・・だって、だって」
お兄ちゃんが、それを着たら大人っぽく見えるっていうから。
少しでも大人に見られたかったんだもん。
子供じゃないって、言いたかったんだもん。
色々言いたいことはあるのに、恥ずかしすぎて言葉が出てこない。
そうだよね、こんなの着て、あんなことしちゃったんだよね。
うううう・・・思い出しただけで死んじゃいそう。
「まあ、僕は嬉しかったから。で、行く?留守番する?」
「・・・一緒に行く・・・」
クリーニング屋さんにそんなの出すの恥ずかしいけど
お兄ちゃんと一緒にいたいよ。




出かける準備をしていると、体がしゃんとした。
あんなにだるかったのが嘘みたい。
外は暖かくて、春の風が桜の花びらを連れてくる。
クリーニング屋さんによって、商店街でちょっと買い物をしてから
私とお兄ちゃんは桜の丘に向っていた。
昨日約束したもんね。
今年もあの丘でお花見しようって。
でも昨日とはちょっと違うことがある。
私とお兄ちゃん、手を繋いでいるんだ。
指と指を絡めて手を繋ぐ、恋人同士の繋ぎ方だねって言ったら
恋人同士だろ?ってお兄ちゃんが笑った。
それだけでもう、幸せだった。
「うわぁ〜もう満開だねぇ」
まだ頂上にはついていないけれど、向こう側に大きな桜の木と
その満開のピンクの花びらが見える。
「お花見日和だな」
「うん」
幸せすぎて嘘みたい。
・・・夢、じゃないよね。
昨日までこんな事になるなんて、想像も出来なかったよ。
「ピンクの絨毯だぁ」
丘の上に着くと、地面を花びらが覆っていた。
それなのに木にはまだ沢山の花が咲いている。
嬉しくなって、お兄ちゃんの手を離して木の方へ駆け出した。
「綺麗綺麗!」
「こら、そんなにはしゃぐと転ぶ・・・あっ!」
「きゃぁ」
バランスを崩して、桜の絨毯の上に転がる。
痛くはなかったけど、子供みたいで恥ずかしい。
私って、どうしてこうドジなんだろう・・・
「未来、大丈夫か?」
あわてて駆け寄ってきたお兄ちゃんに抱き起こされた。
「だ、大丈夫・・・」
「花びらだらけだ」
「えぇぇ??」
本当だ、髪も服も桜の花びらだらけ
お気に入りの白いワンピースだったのにぃ・・・
「そうしてると、花嫁さんのヴェールみたいだな」
華奢で大きな手が、私の髪に触れて花びらを拾い上げる。
眩しそうに目を細めるお兄ちゃんが、とても綺麗で
ドキドキした。
「お兄ちゃん・・・」
「ところで、未来。今朝から気になってたんだけど
僕はいつまで『おにいちゃん』?」
「え?だって、お兄ちゃんはお兄ちゃんだし」
「恋人なのに?名前で呼んで欲しいな」
名前・・・
「・・・和希・・・さん?」
うわっ・・・て、照れちゃう。
お兄ちゃんの名前を呼ぶのって、こんなに気恥ずかしいものなんだ。
「さんは、いらないけどね」
とても嬉しそうに笑ってくれるから、私まで嬉しくなった。
でも『和希さん』か・・・ん〜直せるかなぁ。
「だけど、本当に未来はドジだなぁ。何もないところで転べるんなんて
子供みたいだね」
「うううーーー子供じゃないもん、お兄ちゃんのバカ!・・・あっ」
「言ってるそばから、また『お兄ちゃん』か・・・直らないのかなぁ
恋人には名前で呼んでほしいんだけどなぁ」
わざとらしく嘆くお兄ちゃんが憎らしい。
本当に意地悪なんだから。
「だ、だってだって、ずっとお兄ちゃんて呼んでたんだもん!
いきなりは直せないよぉ」
「変わらないのかぁ・・・ちょっと寂しいかな」
本気で寂しそうな目をしてる。
そんな目をしないで、私も寂しくなるよ。
「ごめんなさ〜い、直すよぉ」
「何年かかるかな・・・せめて『あなた』か『パパ』になる前に
名前で呼べるようになるんだよ」
『あなた』か『パパ』・・・・それって、それって。
「・・・お兄ちゃん・・・それって」
プロポーズ?
「ごめんね、ムードも指輪も何もなくて
僕はそのつもりだって伝えたかったんだ。昨日言っただろ?
もう離さないって」
やっぱりこれって夢?
私、お兄ちゃんの事が好きすぎて、昨日から夢を見てるの?
「お前も僕も、まだ学生だし若いから無理だけど、
いつかはって考えてる。そのときに仕切りなおしさせて
お前が可愛くて、愛しくて、つい言っちゃったじゃないか」
照れてお兄ちゃんの頬が、かすかに赤くなってる。
「うれ・・・し・・・」
大好きだよ、お兄ちゃん。
でも声が震えてうまく言葉が出ない。
嬉しくて泣くって本当にあるんだね。
「ばかだな。何泣いてるんだ」
瞳から零れ落ちた涙が頬を伝う。
お兄ちゃんの指がそれを拭ってくれた。
「愛してるよ」
お兄ちゃんの言葉に、私はただただ頷いた。
「もう兄妹なんかじゃないけど・・・兄妹なんていえないけど
でも、僕たちは、今度こそ本当の家族になろう。
僕と、お前で、家族になるんだ。約束だよ」
嬉しくて嬉しくて、涙が止まらない。
止まらない涙を、お兄ちゃんの唇が拭っていく。
甘い痺れが身体に流れて、本当に私たちが恋人同士になったんだって
実感が出来た。
「夢・・・みたい・・・」
「覚めない夢だよ。僕だって、夢をみている気分だ。
でも、お前はここにいる。愛してる。
結婚式をするなら、ここでしたいな。
今の未来みたいに、桜色のヴェールをつけて・・・きっと綺麗だよ」
お兄ちゃんは目を細めて、遠い将来を思い浮かべる。
遠い未来の約束。
私とお兄ちゃんの約束。
大好き。
守ってね、必ず・・・夢にしないでね。
あ、でも私ももっと大人にならなくちゃ。
お兄ちゃんに負けてばかりだもん、ちょっとくやしい。
「ねえ、未来。身体、平気?」
「うん、どうして?」
「今夜もいいかな?お前に触れてると安心するんだ」
照れくさそうに笑うお兄ちゃんが、とても愛しい。
私たち、一緒なんだね。
「私も、お兄ちゃんに触れられるとすごく安心する」
「こ〜ら、またお兄ちゃんって呼んでるぞ」
笑いながら、どちらからともなく、抱き合ってキスをした。
数年後、ここでするだろう誓いのキスの、ちょっとした予行演習だねって
お兄ちゃんが笑って言った。



END
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◆◆◆◆◆◆◆◆一言◆◆◆◆◆◆◆◆

兄シリーズ完結です・・・こんなはずでは・・・
始める前から、この話の終わりはプロポーズでと決め手たんですね
で、プロットで長々と旅行中にプロポーズって計画が
しかもこんなに早くじゃなくて、未来ちゃんの高校卒業旅行で
それなのに〜〜それなのに〜〜
やった翌日に即プロポーズか!!
兄!兄ぃぃぃ!!気が早すぎ
暴走しすぎ(TT)
いいです、旅行のネタはいつか番外で書きますよ・・・ええ
未来ちゃんへの溢れんばかりの愛がそうさせたんだね
(涙





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