おやすみ




シャワーを浴びて、歯も磨いた。
服装は・・・まあ、そんなに気取っても仕方ないから
いつもよりはちょっとだけ気を使った格好をした。
それでも、ジーンズなんですが・・・
約束の時間は10時。
現在9時35分。
未来の家までは10分かからないから、今出ても少し早い。
だーけーど!
俺ってばもう準備万端!
いよ!早い男!
・・・なんか嫌な表現だ・・・出来る男に変えよう。
なんてバカなことを考えながら、冷蔵庫からコーラのペットボトルを取り出す。
グラスに入れるのが面倒くさいので、そのままラッパのみだ。
どうせ一人暮らし。
俺の他に飲む奴なんていなから気にしない。
ペットボトルのキャップを閉めて冷蔵庫に戻す。
で、また時間を確認。
まだ5分と経ってないけど、10分前についても遅れるよりはましだろう。
財布と携帯をポケットにしまって、玄関に向かう。
なんていったって、初デート。
遅れるわけには行きません。




「よう!っはよ」
玄関のドアを開けて、顔を覗かせた未来に向かって
最高級の笑顔を向けた。
うん、未来は今日も可愛い。
七分丈のジーンズに、白のTシャツ。
Tシャツの柄が朱色のちょっと和風な感じで、いつもとは違う印象を受ける。
いや、一番違うのは髪型だ。
高めの位置で一つにまとめた髪は、ポニーテール。
うなじに流れる後れ毛が、色っぽい。
今日のデートは遊園地だから、わりと動きやすい格好を選んだようだ。
めったにみれないパンツルックの未来は、新鮮でどきっとした。
「おはよう。時間より早かったね」
「あ、わりぃ・・・早すぎたか?」
「ううん、準備はもう出来てたから」
照れくさそうに頬を赤く染めて、俯く未来は・・・可愛すぎ。
俺のほうが照れちまうって。
「じゃ、行こうか」
くいっと首を動かして合図すると、未来は笑顔で頷く。
やっぱかわいーーー。俺の彼女。
『彼女』って響きが、また何ともいいね。
そりゃ、俺だって今まで付き合った女がいなかったわけじゃないさ。
Hだってしたことあるしさ。
そんな基準で物を話すと、未来に嫌われそうだから絶対に口には出さないけど。
だけど、こんなにドキドキするのって久しぶりだ。
あー俺って幸せ。
幸せすぎて、しまりの無い顔になっちまいそうだ。
家の鍵を閉めてる未来を尻目に、ニタニタ笑うなんて・・・変態か!?
俺は変態なのか!?
いやいや、彼女が可愛けりゃ〜それも仕方ないのよ。
彼女、彼女、彼女。
頭の中でエンドレスにリピートする。
俺の彼女『立花未来』。
幸せにする。そう約束したのに・・・なんか、俺のほうが幸せすぎる。
幸せにしてもらってるのは、きっと俺のほう。
ああ、やっぱり俺って幸せ者。
きっと今日は、顔の締りが効かないだろうなぁ。
なんて事を考えながら、目的地へ向かって出発する。
車が無いから電車だけど・・・まあ、学生っぽくていいっしょ?
駅へ向かう道のり。
何度も未来の手を握ろうって考えた。
だけど行動の出来ない俺。
照れてるんだと自分でも自覚してる。
一線も越えちまったってーのにさぁ。
だけど・・・あの夜以来、俺達に甘い行為は何も無い。
あの日は、俺が突っ走っちまってたから・・・
本当に未来も俺を好きで居てくれるんだろうか?
なんて、不安もあって・・・俺は何も出来ないでいた。




楽しい時間ってのは、あっという間に過ぎちまうもん。
そんな事は人生20数年で、嫌って言うほどわかってはいた。
嫌な事はゆっくりとしか進まないくせに、楽しい事はあっという間。
時間の流れが変わるわけじゃないのに、人の感覚ってのはおかしなものだ。
そりゃ、当然っと言えば当然なんだろう。
人間ってのは、自分に都合のいいようにしか感じられない生き物だ。
いや、都合がいいように感じられるんなら、嫌な事があっという間で、
楽しい事がゆっくり進んでくれればいいのにさ。
なんてとやかく言っても、やっぱり楽しい事はあっという間だ。
いつの間にか、遊園地も閉演時間に近づいていた。
遊園地デートお決まりのコースは、殆ど回りつくした。
コーヒーカップにも乗ったし、ジェットコースターにも乗った。
お化け屋敷にも入ったし、ミラーハウスにだって入った。
デートコースというよりも、遊園地内の乗り物は乗りつくしたって感じだ。
締めに観覧車に乗った頃には、陽も傾いて辺りをオレンジ色の優しい光が覆っていた。
もう帰らなくちゃいけない。
寂しいような、哀愁のような気持ちを乗せて観覧車は回る。
このまま時が止ってしまえばいいのに。
なんて乙女チックな俺の想いとは裏腹に、観覧車から降りたと同時に
閉演を告げる園内放送が流れた。
「そろそろ、帰らなくちゃな」
ホントは帰りたくない。
だけど、やっぱり決りは決まりなんだ。
今日が終われば会えなくなるわけじゃない。
それなのに、俺ってば女々しいヤツだぜ。
「うん、そうだね」
同じ気持ちで居てくれるのか、未来の言葉もどことなく歯切れが悪い。
まあ、俺の気のせいかもしれないけど。
そう思わせるのは、俺が別れたくないから。
明日はまた会える。
わかりきった事なのに・・・
デートの後は会う前より寂しい。
なんて歌ってる曲があった。
うん、確かに寂しいね。
離れたくないなんて、ガキっぽい事思っちまうよ。
もう二十歳も過ぎた大人なのにねぇ。
「ね、堂本くん」
遊園地から出てすぐ、未来がにこにこと話しかけてくる。
おいおい、やっぱりさっきのは幻覚なのか?
お前は寂しくないのかよ・・・俺だけが女々しいの?
あ、ちょっと泣けてきた。
だけど、そんな思考は微塵も出さずに、俺は何気なく未来に眼をやる。
目だけで『何?』と語りかけながら。
だってさ、言葉を吐いたら女々しい事いいそうじゃん?
そりゃ、今までの友達づきあいで、俺がどんなヤツなのかってのは
未来もわかっちゃいるだろうけど、
付き合って最初のうちは少しくらいかっこつけてもいいっしょ?
「この後どうする?」
この後?
この後って・・・帰るだけじゃ?
「晩御飯。何か予定ある?」
ああ、晩御飯!夕飯ね。
何を言われてるのかわからなかった俺の間抜け面に、未来は一筋の希望を投げかけた。
そうだよ、まだ終わりじゃないじゃん。
飯とか食いにいって、ちょっと酒とか呑んで
その後いい感じになる!これぞまさしくデートの王道。
そこまで考えて、ちらりと財布の中身が気になりだした。
う〜ん・・・ちょ〜っと心もとないですが・・・多分大丈夫。
あ、けど・・・初デートなんだし、下手なとこには連れて行けないよな。
ファーストフードはもってのほかだし、ファミレスも避けたい。
だからといって、高級フランス料理なんて食えるわけもなく・・・
やっぱ居酒屋?
酒も呑めるし、一石二鳥?
けど、それって大丈夫か?
高校生ならさ、お手軽にファーストフードとかでもよかったんだ。
大学に入ってから、まともに付き合ったことなんてないからなぁ。
巷の大学生が、こんな時どこに行くのかわからん。
ああ、俺ってば今までお子ちゃまな恋愛しかした事なかったのね。
うわ〜ん、神様助けて。
おいら、どうすればいいっすか?
「どうもとく〜ん?」
思考の迷宮を彷徨っていた俺は、可愛らしく名前を呼ばれて現実に舞い戻った。
目の前には、大きな未来の瞳がある。
「あ、ごめん。なんか食いたいもんある?どこ行こうか・・・あ〜高いとこは無理だけど」
現実味のない神様に頼るよりも、未来に選択肢を託す。
そりゃ、後半の台詞は言いたくなかったさ。
何がかっこつけるだ。俺の馬鹿。
だけど、やっぱり現実問題金がない。
日頃あんなにバイトに明け暮れてるというのに・・・俺ってば甲斐性なし。
「だから、その話なんだけど。うちに来ない?今日のお礼に御飯作ってあげる」
味は保障しないけどね。
照れたような笑いを浮かべ、小声で囁く。
可愛すぎだってば!つーか、お前を食べたい!
ああ、俺って煩悩の塊です。
はい、ごめんなさい。
「けど、お前だって疲れてるだろ?いいよ、無理しないでどっかで食ってこうぜ」
かっこつけ野郎。
どこかで俺をなじる声が聞こえる。
きっと幻聴。
いいの、俺は未来の前ではかっこつけたいの。
出来るだけ。
「ん〜今日は全部堂本くんがおごってくれたでしょ?そのお礼だよ。
私なら大丈夫。お礼させて?ね」
「いや、それはさ・・・俺が誘ったわけだし。俺が奢るって決めてたから。
んな事気にするなよ。バイトの鬼のヒロくんだぜ?少しくらいは大丈夫だって」
「ダーメ。奢られてばっかりじゃ悪いよ。それに、何のためにバイトしてるの?
遊ぶためだけじゃないでしょ?」
言い切られて、言葉に詰まる。
確かに、遊ぶためだけにバイトしてるわけじゃない。
学費は親が持ってくれてるとはいえ、生活費やその他は全部自分でまかなってるんだ。
バイトバイトと明け暮れてても、豪遊できるほど余裕があるわけじゃない。
今だって、メシ食ってホテル行ったら(これは内緒だけど)
財布の中身はすっからかんになること請け合いだった。
「じゃ、お言葉に甘えてもいいか?」
「うん。帰りにスーパーに寄ろうね」
飛び切りの未来の笑顔が眩しくて、心の中がほんわかと温かくなるのを感じる。
こういうのって、なんか・・・いいよな。
帰り道。
食べ物の好みや、好き嫌いの話で盛り上がった。
俺はわりと何でも食べれる方だったが、未来は納豆やねばねばしたものが苦手らしい。
『美容にいいんだぞ』っと言ってやったら。
『わかってる』と、唇を尖らせた未来が可愛かった。
スーパーによって、2人であれやこれやと食材を買い込む。
なんだか新婚夫婦のようだな〜と一人でにやけていたら、
未来も同じ気持ちだったと後から聞いた。
似たもの同志なのか、バカップルなのか。
幸せな気分なんだから、どっちでもいいけどな。
帰り道では、自然にお互いの手を握っていた。
2人の距離が少し縮まったようで、また嬉しくなった。
俺ってやっぱガキなのか?




夕飯のメニューは、ラザニアとシーフードサラダと、野菜たっぷりのミネストローネ。
あとガーリックトーストに、俺が好きだからとサイコロステーキまで用意してくれた。
う〜ん、山海の幸。
俺って幸せ。
前から知ってはいたが、未来の料理の腕はかなり良い。
以前、コウやおハルと集まって鍋パーティーやった時も、
準備は殆ど未来がやってたっけ。
一人暮らしだから、と未来は言うが
同じ一人暮らしでも、俺とは雲泥の差だった。
作るのを手伝おうとしたら、座っていてと言われたので
まるで『待て』をされている忠犬よろしく、リビングでまったりと過ごした。
んで、食べ終わって皿洗いだけでも・・・と、台所にたっている。
実は、皿洗いは得意。
つーか、色々なバイトをした経験のおかげ。
ってかね、居酒屋とかでもバイトしてたから、それ程料理の腕も悪くないと思う。
まあ、自分で作るよりも作ってもらう方がおいしく感じられるもんだけど。
そうそう、お蔭様で今日はおいしかったです。
あ、でも人に作ってもらったから、おいしかったってだけじゃなくて
未来は本当に腕がいい。
下手なお店で出されるものよりも、おいしかったりする。
・・・惚れた欲目・・・かな?
いや、でも・・・マジでおいしいと思うんだけど。
「おっし、こっちは終わったぞ〜」
リビングで片付けをしていた未来に向かって声をかける。
「ありがとー。こっちも終わった。お蔭様で助かりました」
ニコニコと台拭きを片手に戻ってきた未来は、バレッタで纏めていた髪を解いた。
今日一日、ポニーテールで過ごしていた未来の髪は、少しあとが付いていたが
それでも、ふわりと柔らかそうな髪が宙を舞うのを見て、どきっとした。
がーー!雑念を捨てろ!俺!
いや、でも・・・付き合ってるからOK?
葛藤する二つの心。
ぐっはーん。俺ってばどうしよう。
ここは未来の家で〜未来は一人暮らしで〜俺らは付き合ってて。
こ、こ、こ、これは行くしかない!?
つーか、行くべき!?
行かなきゃ男じゃない!?
行け!行くんだ!堂本広!
「堂本君?」
黙りこくった俺を不審に思ったのか、未来の大きな瞳が至近距離でこっちを覗いてる。
なんつー大きな目だ。
髪と同じで、色素の薄い瞳に俺の陰が映ってるのがわかる。
ってくらい、俺らは接近していた。
ついつい、体が勝手に動いてしまう。
柔らかな白い頬に手を添えて、軽くキスをした。
未来は少し驚いた顔をしたが、すぐに微笑んでくれたんで
それが嬉しくて、もう一度キスをした。
軽く何度も口付ける。
未来の腰を抱き寄せて、キスを深いものにしていくと
まだ慣れていない未来は、微かに身を捩じらせた。
そして、俺はあの夜を思い出す。
柔らかな肢体。
俺を包み込んでくれる、温かな未来の中。
あ、元気になっちゃった。
あっはっはーまあ、男の悲しいサガってやつさね。
抱き寄せた未来も、硬くなったそれに気がついたらしく。
「あっ・・・」
と声をあげて、真っ赤な顔をした。
あーーー!!!もうっ!やっぱ可愛いなぁーオイ!
心の中で叫ぶと、俺は更に強く未来を抱き寄せた。
唇を舌で割って、探し当てた彼女の舌にからめる。
不慣れな未来も、それに答えようと必死だ。
ああ、可愛い。
もー食べちゃいたい。
つーか、食べさせていただきます。
わーい。いただきまーす。
俺の阿呆な思考を未来に悟られちゃーなんねぇ。
ま、口に出さなきゃばれないだろうけどな。
口付けする場所を、少しずつずらす。
耳元に、首筋に、そして胸元に。
Tシャツの下から手を入れると、未来の体がびくっと跳ねた。
くっはーたまらん、たまらんよ、その初々しい反応が!
つーか、俺はオヤジか。
心の中で一人突っ込み。
だって、ほら。
俺の邪まな考えは、未来には伝えたくないからな。
「あ、あ、あの・・・ど、ど、堂本くん・・・あのっ」
「ん〜?」
俺を押し返そうと、未来の腕に力がこもるが
そんな事を許していたら、男はつとまんないっしょ?
むしろ、ここでひいたら男がすたるってもんよ。
まあ、今日一日汗をかいたからシャワーを浴びたいとでも言うんだろうが。
待ってられません。
もう俺って、暴走特急並の勢いです。
止りません。
「あの、あの・・・ね・・・」
俺の腕の中で、必死で逃げようと体をくねらせる未来。
逃がさねぇーってば。
「ん〜?」
愛撫を続けながら、それでもとりあえず返事をする。
「・・・あの、あっ!」
ブラのフォックをはずすと、未来の体がこわばった。
「ど、ど、ど、堂本君!あの、私・・・きょ、今日・・・あの」
「ん〜?」
生返事を返しながら、開放された胸の頂上を指で探り当てる。
そしてそこに愛撫を加えようとした時、未来の悲鳴のような
っても、別に絶叫じゃないけど、声が台所で響いた。
「わ、わ、私今日生理なのっ!」
ぴたっと、俺の手が止る。
「マジ・・・?」
愛撫を止めて未来の顔を見ると、真っ赤な顔が頷いた。
いや・・・あのね、俺は別に生理中でもかまわんのよ?
未来のなら汚いとかおもわねぇし。
今の俺は暴走特急だし?
汚れるのが気になるんなら、タオルを敷くとか、風呂場に行くとか
色々方法はあるわけだ。
が、しかし。
よく考えろ、俺。
未来はまだ二回目。
まだ不慣れな彼女に、そんな事していいのか?
いや、よくないだろう。
・・・うふ・・・あはは、俺ってばバットタイミーング。
ちょっと、泣きたい。
つーか、よく考えたらここも台所だ。
何を考えている!俺ってば。
まあ、ほら・・・暴走特急は暴走してるから、どうしようもないわけで・・・
でもーでもー暴走したいけどぉー・・・無理だよなぁ。
内心ため息をつく。
そう、内心だ。
未来に悟られちゃなんねぇ。
傷ついちゃうかもしれねぇし。
ってか、体が目当てで付き合ってるわけじゃない。
そりゃー男ですから、やりたいって気持ちはあるけど・・・
未来に無理をさせたくない。
「じゃあ、仕方ないか。ごめんな、言い出しづらかっただろ」
彼女を傷つけたくないから、努めて優しい顔で笑いかける。
腕から力を抜いて彼女を解放すると、未来は安心したような表情を浮かべた。
「ごめん、ね?」
上目使いで俺を見る未来の目は、恥ずかしさのためか、
それとも先ほどまで加えられていた愛撫のせいか、微かに潤んでいた。
まあ、多分恥ずかしかったんだと思うけどなぁー
自分がそんなテクニシャンだとは思わんしぃ〜
あ、俺ってばちょっとやさぐれてる。
うふふ、あはは。
心の中で、乾いた笑いが響くぜ。
「気にすんなって」
くしゃっと頭を撫でてやると、彼女は安心した嬉しげな笑顔を浮かべる。
うん、そりゃぁしたくないちゃー嘘になるけど・・・こんな顔を見えるのは嬉しいさ。
ああ、必死でかけた暴走特急のブレーキがまた壊れそうだ。
いかん、いかんよ、俺。
理性が、性欲にブレーキをかける。
が、いつまたブレーキが壊れるとも限らない。
今日はもう帰ろうかな〜なんて考えが頭を過ぎる。
つーか、今の状況は辛いっす。
いや、男の生理現象なんですが・・・
けど、今すぐ帰るって言ったら・・・未来は落ち込むだろうなぁ。
泣きたい気分を抑えながら、しばらく二人でテレビをみたりして過ごした。
プチ拷問?



「そろそろ帰るかな」
時計の針は、十時を回っていた。
あれから二時間・・・よく耐えたよ、理性さん。
「あ、もうこんな時間」
立ち上がった俺に習って、未来も立ち上がった。
「あっという間だな」
後半は拷問でしたが・・・
「さて、明日っからまた怒涛の平日が始まる〜」
「そろそろテストもあるしね」
「やめい、それを思い出させるな」
たわいもない会話をしながら、二人で玄関に向かった。
靴を履いて、未来に向き合う。
「じゃ、また明日」
「うん、おやすみなさい。気をつけてね」
玄関の段差のせいで、いつもより身長差のない俺たち。
かがまなくても、目と目が合う。
すっと近づいてキスをする。
触れるだけのかすかなキス。
こんなん国によっちゃー挨拶みたいなもんだ。
まあ、これくらいは許されるだろ?
不意をつかれた未来は、真っ赤な顔をしている。
「それじゃ、おやすみ。俺が出たら直ぐに鍵をかけろよ」
呆然としたままの未来を残し、玄関をでた。
しばらくして、ガチャっと鍵の閉まる音を確認してから歩き出す。
「・・・おやすみ、か」
ぽそっと呟く。
いつか・・・ベッドの中で言いたい台詞だよなぁ。
はぁっと深いため息が出た。
あ〜あ・・・今日こそはって思ってたのになぁ。
まあ、仕方がないけどさ。
こんなんで、いつになったら二回目が出来るんだろう?
つーか、ベッドの中で『おやすみ』なんて、夢のまた夢って気がしてきた。
また深いため息をつく。
ま、焦らない焦らない。
焦って未来を傷つけちゃ、元も子もない。
先は長い・・・長いといいな、うん、長く続かせるさ。
ずっと、ずっとね。
ベッドの中で『おやすみ』が、日常で出来るように。
俺は歩き出す。
未来と一緒の、ずっと先を見つめて。
ああ、それまで持ってくれよ・・・俺の理性さん。




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