しあわせですか?




もう日差しが温かい。
まだ3月のはじめなのに、すっかり春らしくなってきてる。
買い物の帰り道。
何気なく、桜の丘に行こうと思ったのはそんな日。
桜の木は、まだ固い蕾をつけ始めたばかりのようだ。
この分なら、来月の頭には満開になりそう
よかった、予定通り。
こんな気持ちでここに立てるなんて・・・
不思議だね・・・やっぱりあの人のおかげかな。
お兄ちゃんを失って、何度目の桜だろう。
以前は悲しい気持ちにばかりなっていたけど、
今はこんなに穏やかだ。
お兄ちゃんを愛してる。
今でも変わらない気持ち。
でもね、あの人はそんな私の気持ちもわかってくれた。
そして、包み込んでくれた。
「あのね、お兄ちゃん・・・もう知ってると思うけど
未来はお嫁に行きます」
一ヵ月後、この桜の花が満開の頃に
あの人がいなかったら、私はこんな風には笑えてなかった。
あの人の心が私を包み込んでくれなかったら、
私はずっと、動き出せずにいた。
愛しい、最愛の人・・・
今日は久しぶりに早く帰れるらしいから、夕飯を作ってあげる約束をしてる。
今持ってる袋の中身は、あの人の好物を作るためのもの
ずっと自炊してたから、ちょっとは腕に自信があるけど
やっぱりお兄ちゃんの腕にはかなわないよ。
でもね、嬉しそうに食べてくれる顔が好き。
おいしいって、言ってくれる優しい目が好き。
お兄ちゃんを想っていた頃と、ちょっと違う
優しく包まれるような安心感。
「幸せ、ですか?」
突然呼びかけられて、驚いて後ろを振り向いた。
「おにいちゃん!!」
桜をはさむように、向こう側にお兄ちゃんが立っていた。
「え?お兄ちゃん?」
懐かしい声、懐かしい顔。
ああ、お兄ちゃんがいる。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!会いたかった」
たまらず抱きついた私を、その人は振り払わなかった。
「ぼくは、お兄ちゃんじゃないですよ。似てますか?」
そういわれて、気が付いた。
そうだ、お兄ちゃんであるはずが無いのに。
「ご、ごめんなさい」
多分今、真っ赤な顔をしている。
私って、バカだ・・・
よく見ると、やっぱりどこか違う。
ちょっとだけ、雰囲気が・・・でもとても似ている。
「兄に、死んだ兄に似ていて・・・すみません」
「いえいえ、いいですよ。こんな美人に抱きつかれたんだから、光栄だ」
恐縮している私の緊張をほぐすように、その人は笑った。
声も似てる。
ただ、お兄ちゃんよりも髪が短い。
そうよね、お兄ちゃんは男の人にしては髪が長かった。
「悪いことを思い出させたね。お兄さん、亡くなられたの・・・最近?」
「いえ、私が大学に入った年ですから、結構前です」
「ああ、じゃあ、その頃かな・・・君、ここでひとりで泣いてたでしょ?」
どきっとした、言い回しまで似てる。
「え?あの・・・兄がここで亡くなったもので・・・ここにはよく来てましたけど」
人に見られてたんだ・・・恥ずかしい。
「桜の下でね、綺麗な女の子が泣いてるんだ・・・
その時のぼくは声もかけられなくて、どうしたんだろうって、心配してたんだ。
で、今日ここにきたら、その女の子がいた」
「私・・・ですか?」
「勿論、そうだよ。初めて見た時と違って、今日は幸せそうに微笑んでた。
だから声を掛けられたんだ・・・それで、幸せ?」
なんだか、お兄ちゃんに尋ねられているような錯覚に陥りそう。
それほど、彼はお兄ちゃんに似ている。
「指輪、してるね・・・結婚するの?」
左の薬指にしている、婚約指輪に彼の手が触れる。
涙が出そう。
「来月に結婚するんです・・・とても大切な人と」
「そう。よかった、幸せなんだね」
「はい」
これ以上しゃべったら、泣き出してしまいそうだ。
お兄ちゃんとは別人だって、わかっているのに
あまりにもお兄ちゃんに似すぎているから
『お兄ちゃんがいなくなって、未来は寂しかったよ。
お兄ちゃんを愛していたから・・・でもね、今は幸せだよ。
未来のこと、分かってくれる人に巡りあえたんだよ』
そう言ってしまいそうになるよ。
大好きで、大好きで。
本当に死ぬほど焦がれた人。
あなたがいなければ、私はいなかった。
あなたがいなければ、私は生きていけなかった。
あなたが私の全てだった。
お兄ちゃん、愛していたよ。
「未来ーー」
不意に名前を呼ばれる。
今、愛している人の声。
「彼かな?行きなさい」
その人に促されて、私は愛しい人の元へと歩きだす。
「幸せに、幸せになるんだよ・・・」
その人の言葉に、私は強く頷いた。
ありがとう・・・・お兄ちゃん・・・
その日、私は、少しだけ彼の腕の中で泣いた。




ねえ、未来
お前は僕に、ありがとうと言うけれど
本当は僕のほうが、お前にそういわなくちゃならないんだ。
お前がいてくれて、お前のそばにいられて
僕がどんなに幸せだったか。
お前は知っているのだろうか・・・
お前の笑顔が、どんなに僕を幸せにしてくれていたか
お前は知っているんだろうか・・・・
お前がどんどん綺麗になって、戸惑ったこともあったけど
誰よりも、お前を愛していた。
そしてこれからも、未来だけを愛し続けているよ。
幸せにおなり、誰よりも大切な僕の・・・・・・妹・・・
ずっと・・・愛してるよ・・・


【了】
<<NOVELtop  <<BACK 



◆◆◆◆◆◆◆◆一言◆◆◆◆◆◆◆◆

このシリーズイタイ?
最後のお兄ちゃんのモノローグが書きたくて書きたくて
しかし、この桜の下で会った人
お兄ちゃんの幽霊なのか、
それとも某デザイナーなのか
私にもわからな〜い(笑)
しかし、予定以上に短くなりました。
もっと色々その人と話させる予定が・・・
未来ちゃんしゃべってくれないんだもんヽ(`Д´)ノ ウワァァァン





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送