Web拍手ありがとうシリーズ第四弾
クリスマス特別企画 「聖夜」シリーズ
立花和希の場合(星の王女)
「ねえ、お兄ちゃん。お母さんたち何時に着くって?」
クリスマスがやってくる。
12月に入ると赤と緑と白に街が覆われて、クリスマスのムードも盛り上がる。
そして、それは我が家にも変わりなく訪れた。
未来の身長より少し低めの、大きなモミの木を模倣したツリーの前に座り込み、
先ほどから、ああでもないこうでもない。っと悩みながら
クリスマスツリーにオーナメントを飾っていた、未来がこちらを振り返った。
彼女の動きにあわせて長くて柔らかな髪が、ふわりと揺れる。
一瞬その姿に見惚れてしまったが、そうとは悟られないように平静を装って時計を見た。
最近、未来は一段と綺麗になってきた。
恋人と呼べる関係になって数ヶ月。
年齢のせいなのか、僕との関係が未来を変えてきたのか、
綺麗になっていく未来を見ているのは、嬉しい反面気が気じゃない。
僕以外の男の前でも、そんな顔を見せているのかい?
訊けないのは、僕の情けないプライドのせい。
いつでも未来より落ち着いて、未来をリードしていきたい。
こんな風に意識している事自体、もうダメなのかもしれないけど。
「15時だったと思うけど、迎えに行くかい?」
「う〜ん、飾りつけはまだ終わってないけど、
3ヶ月ぶりだし、やっぱり空港まで迎えに行きたいなって思って」
可愛らしく唇を尖らせながら考え込む様は、小さい頃から少しも変わっていない。
その幼い仕草が愛しくて、つい顔が綻んでしまう。
「じゃあ車を出す?どうせまだ23日なんだし、準備は急がないでもいいよ」
「でもお父さんとお母さんをびっくりさせたいじゃない?
驚くくらい綺麗に飾りつけしたいしぃ」
よほど両親が帰ってくるのが嬉しいのか、未来は一週間も前からクリスマスの準備に余念
がない。
ここ数年飾っていなかったツリーを探し出し、新しいオーナメントを揃え、電飾も購入してきて・・・
ただ問題は、材料は揃っても飾り付ける時間が無かった。という事。
僕も年末進行の仕事が忙しくなって、未来を手伝う暇が無かった。
未来自身、大学の事で忙しかったらしく、朝家を出て、
夜に帰ってきてそのまま寝てしまう。
なんていう生活が続いていたから仕方が無い。
そんな感じで迎えた、両親の帰国当日。
朝から未来は、大慌てだ。
僕も必然的にそれに巻き込まれる。
まあ、でも仕方の無い事だから諦めるしかない。
久しぶりの両親との再会を心底喜んでいる未来に水は差したくない。
未来ほど素直に表現できなくても、僕も実際両親に久しぶりに会えるのは嬉しい。
ただ、少し残念な事もあるけれど。
「う〜ん・・・飾りつけしてから迎えにいく!!」
自分に言い聞かせるようにして、断言すると、
未来はオーナメントを握り締めたまま立ち上がった。
いくつになっても子供っぽさが抜けないのは、僕の前だからだろうか?
無謀な提案に呆れながら、苦笑する。
「間に合わないよ」
「間に合わせるのーー」
「はいはい。わかりました」
「あ〜!なんだかやる気ないんだから、お兄ちゃんったら!」
拗ねたように頬を膨らませた未来が愛しくて、頭を撫でた。
ホントにね、どうしてこんなにお前を愛しいと思ってしまうのか。
自分でもわからないよ。
「・・・まあ、家族で過ごす最後のクリスマスになるだろうからね。僕も気合をいれるさ」
「最後??なんで?」
僕の言葉の意味を、本気でわかっていないのだろう未来は、
きょとんとした顔で目を丸くする。
「僕としては、恋人と2人っきりのクリスマス。ってのも味わってみたいんだけど?」
ずっと座り込んだままの未来の傍に膝をつき、柔らかな唇に軽くキスを落とした。
それだけで、未来は頬を真っ赤に染めて俯いた。
「いや?」
未来の返事は、聞かなくてもわかっていた。
僕のうぬぼれかもしれないけれど、未来も僕を好きで居てくれる。
だから、ここで拒否なんてしないよね?
「・・・いやじゃない。嬉しい・・・でもお母さんたちになんていうの?」
「僕と未来は愛し合ってます。って、言うのさ」
「えええええ!!!」
「違う?未来は僕を愛してない?僕はお前を愛してるよ」
「あ、あ、あ、愛してる・・・けどぉ」
未来は益々顔を紅潮させて、今にも消え入りそうなくらい、体をちぢこめた。
僕の言葉は、かなり本心から出た言葉ではあるけれど、
未来の反応が可愛いから、ちょっと意地悪な言い方になっているかもしれない。
好きな子に意地悪をしてしまうなんて、まるで小学生みたいな自分がおかしかった。
「じゃあ、ちゃんと父さんたちに話そう。クリスマスの夜にでもね」
「・・・うん」
「嬉しくない?」
「嬉しいよ!嬉しいけど・・・親に話すのって・・・ちょっと恥ずかしい・・・かな?」
「僕との事は恥ずかしいことなんだ」
「ち、違うよぉ!!そうじゃなくて・・・だって、だってぇ」
わざとらしく、悲しげな顔をしてみせると、未来は焦って否定してくる。
今にも泣き出してしまいそうな真っ赤な顔が、愛しくて、可愛くて。
ついつい、噴出してしまった。
「あああーーーーーー!!!もーーお兄ちゃんったら、私をからかってるんでしょ!!
ばかばかばかばかぁーーー!!!」
やっと気がついた未来は、怒って顔をそらせてしまった。
「ごめん。ごめん。お前があんまり可愛いから」
笑いをこらえながら小さな背中を、後ろから抱きしめる。
腕の中にすっぽりと納まる柔らかな体を抱きしめると、愛おしさがこみ上げてきた。
未来を幸せにしたい。
だから、両親には認めてもらうしかない。
「話をするつもりなのは本当だよ。話して認めてもらおう」
「・・・認めてもらえなかったら?」
「その時は、お前を攫って逃げるさ」
「嘘」
「ホント。愛しているからね」
僕の言葉に、未来は黙ったまま頷いた。
僕たちの関係を続けていく為には、両親に認めてもらわなくてはいけない。
未来を愛したときから、それは決っていたことだった。
血の繋がりはなくても、両親を大切に思っている未来の気持ちを思うと
本気で攫っていくわけにはいかないだろう。
だから、意地でも認めさせなくてはいけない。
未来の幸せのために。
未来の笑顔を守る為に。
「来年のクリスマスは、2人っきりで過ごそう。愛しているよ」
【了】
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