立花和希 堂本広 篠原達也 三嶋啓太 倉田道久


Web拍手ありがとうシリーズ第四弾
クリスマス特別企画 「聖夜」シリーズ



立花和希の場合(星の王女)





「ねえ、お兄ちゃん。お母さんたち何時に着くって?」
クリスマスがやってくる。
12月に入ると赤と緑と白に街が覆われて、クリスマスのムードも盛り上がる。
そして、それは我が家にも変わりなく訪れた。
未来の身長より少し低めの、大きなモミの木を模倣したツリーの前に座り込み、
先ほどから、ああでもないこうでもない。っと悩みながら
クリスマスツリーにオーナメントを飾っていた、未来がこちらを振り返った。
彼女の動きにあわせて長くて柔らかな髪が、ふわりと揺れる。
一瞬その姿に見惚れてしまったが、そうとは悟られないように平静を装って時計を見た。
最近、未来は一段と綺麗になってきた。
恋人と呼べる関係になって数ヶ月。
年齢のせいなのか、僕との関係が未来を変えてきたのか、
綺麗になっていく未来を見ているのは、嬉しい反面気が気じゃない。
僕以外の男の前でも、そんな顔を見せているのかい?
訊けないのは、僕の情けないプライドのせい。
いつでも未来より落ち着いて、未来をリードしていきたい。
こんな風に意識している事自体、もうダメなのかもしれないけど。
「15時だったと思うけど、迎えに行くかい?」
「う〜ん、飾りつけはまだ終わってないけど、
3ヶ月ぶりだし、やっぱり空港まで迎えに行きたいなって思って」
可愛らしく唇を尖らせながら考え込む様は、小さい頃から少しも変わっていない。
その幼い仕草が愛しくて、つい顔が綻んでしまう。
「じゃあ車を出す?どうせまだ23日なんだし、準備は急がないでもいいよ」
「でもお父さんとお母さんをびっくりさせたいじゃない?
驚くくらい綺麗に飾りつけしたいしぃ」
よほど両親が帰ってくるのが嬉しいのか、未来は一週間も前からクリスマスの準備に余念
がない。
ここ数年飾っていなかったツリーを探し出し、新しいオーナメントを揃え、電飾も購入してきて・・・
ただ問題は、材料は揃っても飾り付ける時間が無かった。という事。
僕も年末進行の仕事が忙しくなって、未来を手伝う暇が無かった。
未来自身、大学の事で忙しかったらしく、朝家を出て、
夜に帰ってきてそのまま寝てしまう。
なんていう生活が続いていたから仕方が無い。
そんな感じで迎えた、両親の帰国当日。
朝から未来は、大慌てだ。
僕も必然的にそれに巻き込まれる。
まあ、でも仕方の無い事だから諦めるしかない。
久しぶりの両親との再会を心底喜んでいる未来に水は差したくない。
未来ほど素直に表現できなくても、僕も実際両親に久しぶりに会えるのは嬉しい。
ただ、少し残念な事もあるけれど。
「う〜ん・・・飾りつけしてから迎えにいく!!」
自分に言い聞かせるようにして、断言すると、
未来はオーナメントを握り締めたまま立ち上がった。
いくつになっても子供っぽさが抜けないのは、僕の前だからだろうか?
無謀な提案に呆れながら、苦笑する。
「間に合わないよ」
「間に合わせるのーー」
「はいはい。わかりました」
「あ〜!なんだかやる気ないんだから、お兄ちゃんったら!」
拗ねたように頬を膨らませた未来が愛しくて、頭を撫でた。
ホントにね、どうしてこんなにお前を愛しいと思ってしまうのか。
自分でもわからないよ。
「・・・まあ、家族で過ごす最後のクリスマスになるだろうからね。僕も気合をいれるさ」
「最後??なんで?」
僕の言葉の意味を、本気でわかっていないのだろう未来は、
きょとんとした顔で目を丸くする。
「僕としては、恋人と2人っきりのクリスマス。ってのも味わってみたいんだけど?」
ずっと座り込んだままの未来の傍に膝をつき、柔らかな唇に軽くキスを落とした。
それだけで、未来は頬を真っ赤に染めて俯いた。
「いや?」
未来の返事は、聞かなくてもわかっていた。
僕のうぬぼれかもしれないけれど、未来も僕を好きで居てくれる。
だから、ここで拒否なんてしないよね?
「・・・いやじゃない。嬉しい・・・でもお母さんたちになんていうの?」
「僕と未来は愛し合ってます。って、言うのさ」
「えええええ!!!」
「違う?未来は僕を愛してない?僕はお前を愛してるよ」
「あ、あ、あ、愛してる・・・けどぉ」
未来は益々顔を紅潮させて、今にも消え入りそうなくらい、体をちぢこめた。
僕の言葉は、かなり本心から出た言葉ではあるけれど、
未来の反応が可愛いから、ちょっと意地悪な言い方になっているかもしれない。
好きな子に意地悪をしてしまうなんて、まるで小学生みたいな自分がおかしかった。
「じゃあ、ちゃんと父さんたちに話そう。クリスマスの夜にでもね」
「・・・うん」
「嬉しくない?」
「嬉しいよ!嬉しいけど・・・親に話すのって・・・ちょっと恥ずかしい・・・かな?」
「僕との事は恥ずかしいことなんだ」
「ち、違うよぉ!!そうじゃなくて・・・だって、だってぇ」
わざとらしく、悲しげな顔をしてみせると、未来は焦って否定してくる。
今にも泣き出してしまいそうな真っ赤な顔が、愛しくて、可愛くて。
ついつい、噴出してしまった。
「あああーーーーーー!!!もーーお兄ちゃんったら、私をからかってるんでしょ!!
ばかばかばかばかぁーーー!!!」
やっと気がついた未来は、怒って顔をそらせてしまった。
「ごめん。ごめん。お前があんまり可愛いから」
笑いをこらえながら小さな背中を、後ろから抱きしめる。
腕の中にすっぽりと納まる柔らかな体を抱きしめると、愛おしさがこみ上げてきた。
未来を幸せにしたい。
だから、両親には認めてもらうしかない。
「話をするつもりなのは本当だよ。話して認めてもらおう」
「・・・認めてもらえなかったら?」
「その時は、お前を攫って逃げるさ」
「嘘」
「ホント。愛しているからね」
僕の言葉に、未来は黙ったまま頷いた。
僕たちの関係を続けていく為には、両親に認めてもらわなくてはいけない。
未来を愛したときから、それは決っていたことだった。
血の繋がりはなくても、両親を大切に思っている未来の気持ちを思うと
本気で攫っていくわけにはいかないだろう。
だから、意地でも認めさせなくてはいけない。
未来の幸せのために。
未来の笑顔を守る為に。
「来年のクリスマスは、2人っきりで過ごそう。愛しているよ」




【了】






Web拍手ありがとうシリーズ第四弾
クリスマス特別企画 「聖夜」シリーズ



堂本広の場合(星の王女)




「ふえ〜くっしゅぃ!!」
吹き荒ぶ木枯らしの中、寒さに震えながらくしゃみをひとつ。
今日もバイトは忙しかった。
てーか、店長も人使い荒すぎだっつーの。
時間外勤務もいいところだぜ。
これじゃあ、デートする時間もあったもんじゃねぇ。
もう12月だしさ、大学は休みにはいったのにさ。
俺は一回も未来とデートしてねーぞ!!
ちくしょーーー!俺の青春を返せーーー!!
とは、雇われ者なのでいえません。
言ったら即行職無し決定。
うわーん、遊びたい。
でも金もほしい。
一番ほしいのは、未来といる時間だーーー。
なんて、心の中で嘆きながら家路につく。
いや、ほんとはね、叫びたいくらいなのよ?
だけどね、一人で、しかも夜中に叫びながら歩いてたら・・・
救急車呼ばれちゃうし。
キチ○イと間違えられちゃうし。
あーーーーーー!!!もう!
ストレスたまるぞーーーー!!!
「堂本くん」
ああ、ほら、幻聴まで聞こえてきた。
未来が俺を呼んでるよ。
付き合ってるくせに、ろくに一緒にいる時間が取れないなんて
極悪非道の恋人だもんなぁ。
きっと寂しい想いをさせてるよなぁ。
でもさぁ、俺も寂しいんだってば。
「堂本くん?」
また聞こえる。
やっぱ未来が呼んでるんだろうか?
一人寂しく俺を呼んでくれているんだろうか?
未来ーーー俺もお前と入れなくて寂しいんだぞーーー。
「堂本くんってば!」
しつこい幻聴だ。
おや?声だけじゃないぞ。
なんだ、未来がいるぞ。
俺ってば幻覚まで見えてるの?
いや〜ん、末期症状?
「未来がいるぅ〜・・・」
幻覚でもなんでもいい。
久しぶりに見る未来は、やっぱり可愛かった。
色白の肌に、黒目勝ちな大きな瞳。
瞳を縁取る長い睫毛、ふっくらと柔らかそうな唇。
全てが可愛い!
もう食べちゃいたいくらい可愛い!
これが俺の彼女なんだーーって世界中に言いふらしたいほど可愛い。
がしっと、抱きしめる。
おや?何か変だぞ?
幻覚の癖になんで触れるんだ?
しかも温かいし、柔らかい。
あれれれれ?
「ちょ、ちょっと!堂本くん??」
「・・・あれ?未来?本物?」
「もぉ〜何言ってるのぉ?さっきからいるのに」
驚いたことに、幻覚と思ったら本物だった。
「なんでいるんだ?」
驚いた拍子に腕を緩めたら、未来は怒ったような顔をしていた。
「・・・迎えに来たの。最近会えないから!・・・ダメだった?」
最後の方だけ、悲しそうな顔。
うう、可愛い。
「だめじゃないけどさ。こんな時間に一人で歩くなんて危ないだろ」
「・・・ごめんなさい」
しゅんっと、うなだれる未来が微笑ましくて、また抱きしめた。
うん、お前も寂しかったんだよな。
だから会いに来てくれたんだよな。
「けど、うれしい。ありがとな」
素直にそういうと、未来が嬉しそうに微笑んだ。
「うん。バイトお疲れ様」
俺がお前を好きなように、お前も俺を好きでいてくれるんだな。
なんて、ちょっと実感出来て、かなり嬉しい。
「ごめんな、最近忙しくて。あ、でもクリスマスは空けてあるから
どっか行こうな!」
「え?仕事大丈夫なの?」
「休みは取ってある。だから意地でも休む」
クリスマスに休みをとるからこそ、今の忙しさなのである。
未来を心配させたくないから言わないけど・・・
やっぱさ、恋人としては意地があるじゃん。
クリスマスはさ、一緒に過ごしたいだろ。
「じゃあ、ケーキ焼こうかな、久しぶりに」
「マジで?すっげーうれしい。俺、チョコがいいな」
「えー苺と生クリームがいいー」
「むう、それも捨てがたいけどさぁ・・・あ、行きたいところとかあるか?」
なんてたわいも無い会話をしながら、手を繋いで歩き出す。
手から伝わる未来の体温は優しい。
未来の家に行く道をたどりながら、寒いのに温かい気持ちになって幸せだった。
手を繋ぎながら歩こう。
クリスマスの夜も。
一緒に遊んで、一緒にケーキを食べて。
一日中一緒に過ごそう。
そして、一緒に眠ろう。
クリスマスは特別だなんて、ちょっとおかしいけどさ。
お前と一緒にいられるなら、本当はいつでもいいんだけどさ。
いつだって、一緒にいたいんだけど。
だけど・・・やっぱクリスマスが恋人たちのイベントになってるんだから・・・
一緒に過ごしたいんだ。
もしもこれで休みが潰れたら・・・恨むぜ店長。




【了】






Web拍手ありがとうシリーズ第四弾
クリスマス特別企画 「聖夜」シリーズ



篠原達也の場合(星の王女)




クリスマスの夜は忙しい。
恋人がいないのか、ホストに恋人を求めているのか
どちらにせよ、店にはいつもの倍の人が溢れる。
店側もそれを見越してイベントなどを打ち立てるので、こちらの身が持たない。
ホストという職業は、趣味と実益を兼ねて始めたものだが
さすがに今日はうんざりしてしまう。
きつい香水と酒と煙草と化粧品の香りが店を埋め尽くし、
僕までその香りに浸ってしまっていた。
早く家に帰りたい。
普段はめったに思わないことを思ってしまう。
「それじゃあ、また。待ってるよ」
最後の客を送り出し、僕はため息をつく。
最近、客と一緒に帰る事をしなくなった。
理由は・・・実はある。
いや、自分ではそんな事を気にしているつもりはなかったけど・・・
彼女を抱いたあの日からだ。
彼女を好きなのか、悩んだ時期もあった。
でも今は心から言える。
僕は彼女を大切に思っている。
ホストという職業は、卒業までやめるつもりはなかった。
これほど割のいいバイトは滅多に無いから。
だけど、彼女を傷つけているのもわかっている。
彼女を大切だといいながら、自分の我侭を通す僕はかなりのエゴイストだろう。
恋人といいながら、こんな日も一緒に過ごせないのだから。
いつか、そんな僕を彼女が捨てる日が来るかもしれない。
考えたくはないけれど、そんな日が来てもおかしくは無い。
だから、それまでは精一杯彼女を大切にしたい。
ただし、僕なりに。っという枕詞がついてしまう。
本当に僕は、なんて我侭なんだろう。
それに振り回される彼女が可哀相だと思う反面、もう手放せない僕がいる。
彼女に出会うまで、これほど人を好きになれるものだとは知らなかった。
いつもいつも、好きになられる方だったから。
受動態の恋ばかりだったから。
手早く帰り支度を整えて、店をでる。
家に帰ったところで、未来がいるわけではない。
遅くなるから、っと遊びに来てもいいかと聞いた彼女の申し出を断ったのは僕だ。
だけど・・・
店からそう遠くない自宅には、タクシーで20分もしないうちに着く。
それなのに、気がはやってしまう。
もしかしたら、いるかもしれない。
なんて、莫迦な期待で胸を膨らませた。
今まで『恋人』っという関係は、常に僕を縛り付けるものだった。
うっとうしくも感じた事があった。
だけど、ねえ、なんでだろう?
君になら縛られてもいい、なんて思ってしまうんだ。
不思議だね。
タクシーから降りて、自宅のあるマンションを見上げる。
もう深夜も回り、すでに明け方といってもいい時間。
ほとんどの家の明かりは消えて、目の前には黒い大きな塊が聳え立つ。
僕の部屋もそれに習い、真っ暗だった。
そう、未来がいるはずはないんだ。
自分でもおかしくなるくらい落胆してしまう。
誰かが待ってくれている。
それは幸せな事。
そして、少し悲しい事。
期待して裏切られる自分がいるから。
暗澹とした気分のまま、部屋の鍵を開けた。
一筋の光も灯していない部屋の電気をつけた時、奇跡が起きた。
「・・・未来・・・」
リビングのソファーの腰掛けたまま、寝入ってしまっている彼女。
待っていてくれたんだ。
浮き足だった街の中、浮き足立った僕がいる。
初めて心から愛しいと思った恋人。
「んっ・・・篠原君?おかえりなさい」
まぶしさに目を細めながら、ゆっくりと開かれる瞼にキスを落とす。
「ありがとう、待っていてくれたんだね」
「うん・・・でも結局寝ちゃった・・・」
まだとろんとした表情のまま、未来はゆっくりと微笑む。
柔らかい笑顔に僕も微笑み返した。
「起こしてちゃって、ごめん」
再度キスをして、サイドボードに手を伸ばす。
上においてあった箱の中から、プラチナで出来た
繊細なデザインのネックレスを取り出した。
未来の為に用意してあったクリスマスプレゼント。
線の細い彼女に良く似合うだろう。
未来の長い髪をかきあげて、それをつける。
「プレゼント。遅くなってごめんね、この埋め合わせは必ずするから」
「ううん、いいの。すごい・・・サンタさんみたいね」
ふふっと小さく笑みを漏らし、未来は指でそのネックレスを弄る。
「・・・でも・・・ごめんなさい・・・なんだかとても眠い・・・の・・・」
言い終わる前に、再び夢の中へと戻っていく。
「おやすみ、未来。よい夢を」
愛しいと、心のそこから思う。
彼女に微笑んでもらえるだけで、何故こんなに幸せな気分になるのだろう。
「メリークリスマス」
起こさないように、柔らかな髪を撫でながら額にゆっくりと口付ける。
まるで神聖な儀式のように。
明日、今の出来事を未来は覚えているだろうか。




【了】






Web拍手ありがとうシリーズ第四弾
クリスマス特別企画 「聖夜」シリーズ



三嶋啓太の場合(オリジナル@煙草)




12月にはいると、途端に街は落ち着きを無くす。
バカみたいに飾り立てたショーウィンドウ。
昼間は存在感がないのに、夜になると色づく木々のネオン。
浮かれた街の空気は、人間にも伝染するのか。
それとも、浮かれた人間が、街を浮かれさせるのか・・・
どっちにしろ、12月ほどうっとうしい月は無い。
そりゃ、10代や20代の頃は、街の喧騒の中騒いだり、
恋人と過ごしたりはしていたが・・・どうも最近は、恋人すらもいない。
いまやクリスマスなんて、ただ仕事が年末進行で忙しくなるだけの季節だ。
それに・・・今年からは、妙にうるさい小姑付きだ。
今年の春から一緒に暮らす事になった姪の美咲。
小さい時から、ずっと俺にべったりだったあいつも、もう18歳。
『啓太兄ちゃん』と可愛らしく呼んでくれた姪は、生意気盛り。
今では呼び捨てで『啓太』だ。
俺のほうが12も年上なんだぞ!っと怒ると『叔父さん』っと呼ぶので性質が悪い。
最近では、煙草なんか吸うようになりやがって・・・あの不良娘め。
ま、それについては俺が原因の一端なんで、強くもいえないが・・・
酔った勢いで、煙草なんて勧めるんじゃなかった・・・
どうにかやめさせないと、俺が姉貴に殺される。
大事な一人娘なんだから。っと釘を刺されているしなぁ。
俺より一回り年上の姉には、小さい頃から頭が上がらない。
血は繋がっていないとはいえ、かなり世話になったのは事実だ。
血よりも濃い繋がりってのは、確かにあると思う。
俺だって、美咲が生まれた日の事は、よく覚えている。
俺はまだ小学生だった。
これはオフレコだが、生まれたばかりのあいつの事を『赤猿』なんて思ったっけ。
だけど・・・しばらくして、実家に遊びに来た姉貴がつれてきた赤ん坊は
始めて見た時とは、全然違っていた。
小さな顔に、大きな目。ふんわりとした巻き毛は、柔らかかった。
じっとこちらを見る瞳は、俺の動きを追ってめまぐるしく動いた。
小さな手が俺の指を握り締めたとき、なんだか幸せな気分になったのを覚えている。
姉貴の家と実家が近かったせいもあって、何かといっちゃー一緒に過ごした。
一年すぎ、二年過ぎ・・・春、夏、秋、冬。
俺が大学に出る年になるまで、ずっと一緒に過ごした。
そういえば、その頃はずっと美咲にクリスマスプレゼントを贈っていたな。
ぬいぐるみやら人形やら、学生のバイトや小遣いで買えるような
安物ばっかりだったけど、美咲は嬉しそうに受け取ってくれた。
懐かしいな・・・あいつ、あの頃はあんなに素直だったくせに。
ふっと笑いがこみ上げてくる。
素直だったけど、昔から負けず嫌いだったっけ。
ちょっといじっぱりで、憎まれ口を叩いて・・・変わったと思っていたけど、
そんなところは今も一緒だ。
だけど、俺にだけは我侭を言うんだよな。
姉貴も働いていたから、俺が面倒を見ることが多かったからか、
美咲は昔から、無条件で俺に甘えてくる。
憎まれ口を叩くような、可愛くないやりかただけど、見方を変えたら結構可愛い奴だ。
俺に懐いていた美咲は、しょっちゅう手紙をくれたり、
休みの度に遊びに着たりしたので、俺たちの関係は変わらなかった。
だけど、俺が社会人になって、忙しくなったのをきっかけに
連絡が途絶えがちになったのは、8年ほど前。
そりゃ、8年も里帰りしていなかったわけじゃないから、会ったりもしていたけど
思春期を迎えた美咲は、俺よりも友達と遊びに行く方を選んでいたので
昔のように、一緒に遊んだりした記憶は少ない。
それで今年、大学に入るんで一緒に暮らすことになった美咲と久しぶりに会って驚いた。
俺の記憶の中では、まだまだガキだった美咲は、随分綺麗な女の子に成長していたんだ。
しかも、かなりの俺好み。
う〜ん、血は繋がってないとはいえ、叔父と姪だ。
と、自分に何度言い聞かせたか・・・
会社帰りの駅までの道のりは、遠い。
歩きながら吐いた煙草の煙は、いつの間にか息の白さと混じっていた。
早くうちに帰ろう。
美咲の顔が頭をかすめる。
もうすぐクリスマス。
今年は、ちょっとだけ世間の喧騒の中浮かれてみようか?
恋人ではないけれど、誰よりも大切な女の子にプレゼントをあげよう。
いつしかやめてしまった分の埋め合わせもかねて。
18になるんだし、今までとは違うものがいいかな?
服は・・・サイズがわからない。
アクセサリー・・・は、ちょっと特別過ぎるよな。
靴は・・・履いた感じ大切だから、選ぶなら一緒がいい。
でも、驚かせたいからなぁ・・・
煙草のカートン?
いや、姉貴にも美咲にも殺されかねんな、そんなのは。
う〜ん・・・やっぱ、ぬいぐるみにするべきか・・・色気はないけど。
『いくつだと思ってんのよ!』なんて、怒るかな?



【了】






Web拍手ありがとうシリーズ第四弾
クリスマス特別企画 「聖夜」シリーズ



倉田道久の場合(オリジナル@目隠しの恋)





拝啓

寒冷の候、いかがお過ごしでしょうか。
日増しに寒さの募る頃になってまいりました。
12月に入ると、途端に寒くなります。
冬の身が引き締まるような寒さは、小気味いい緊張感を与えてくれるようで
中々のものです。
最近、ご連絡を取る機会が少なくなってきましたが、お元気でしょうか?
ああ、そうそう。
12月は慌しい季節なんですよ。
学期末テストや、その追試。
それに伴う成績表を作らなければなりません。
教師になると、学生のように休み前だからと浮かれる事も出来ないんです。
ですが、それもまた楽しいのです。
がんばる学生の応援はしたいものですし、がんばっている子たちを見るのは
とても好きです。
ただ、生徒との距離の取り方は未だに下手ですけどね。
まあ、正式に教職についてまだ2年です。
焦ることなく、のんびりと行こうと思っていますよ。
そういえば、今学年度に入ってから、一人の生徒と仲良くなりました。
きっかけは、些細な事だったのですが、
元気いっぱいの彼女には、いつも勇気付けられているのです。
彼女のあのバイタリティーはどこからくるのでしょうか?
明るく元気で、喜怒哀楽の激しい彼女には、驚かされる事も多々あります。
見ているだけで、こちらも幸せな気分になるのです。
彼女のような人は、貴重だと思います。
僕も見習いたいものです。
ああ、話がそれてしまいましたね。
そういえば、年末年始はどのように過ごされますか?
僕はこれと言って予定も無く、
のんびりと本でも読みながら休日を過ごそうと思っています。
こんな事をいうと、あなたは『クリスマスは?』っと怒るのでしょうね。
ですが、今は恋人もいませんし、一人ものには関係のないイベントなのですよ。
しかし、不思議なものですね。
クリスマスといえば、本来はイエス・キリストの生誕を祝う日なのに
日本ではすっかり恋人たちのイベントになってしまっています。
クリスマス本番は25日なのですが、世間では24日のクリスマス・イヴが本番のようです。
書いていて思い出しました。
同じような事を昔あなたに話したら、『ジジクサイ』と怒られましたっけ。
懐かしいですね。
恋人たちのイベント。っという考え方は少し理解しがたいですが、
クリスマスが近づくと街が煌びやかになるのは嬉しいですね。
冬は空気が澄んでいるので、光が遠くまで届いて美しい色合いをみせます。
恋人ができたら、確かにあの中を一緒に歩きたいっと思うのは自然かもしれません。
『それなら恋人を作れ!』っと、また怒られそうですね。
昔から、あなたには怒られてばかりのような気がします。
実は・・・恋愛、っという訳ではないですが、気になっている人はいます。
その事で、少しお話を聞いていただきたいのですが・・・近々お時間をいただけますか?
あなたなら、恋愛の事なら乗り気で相談を受けてくれそうですね。
失礼。莫迦にしているわけではないのですよ。
先ほど話した生徒と同じで、あなたのバイタリティー溢れる考え方には
僕はいつも関心しているのですから。
尊敬しているといっても過言ではありません。
相談にのってほしいから煽てているわけではありませんので
その旨はご了承くださいね。
気になる人っというのは、その生徒のことなんですが・・・
いえ、教師の立場としていけない事なのはわかっているのです。
ですが・・・
ああ、書くと長くなりそうです。
出来れば、会ってお話したいので、
その時に詳しいお話はさせていただきたいと思います。
乾燥した空気が喉を痛める季節です。
最近では、性質の悪い風邪も流行っているようなので、お気をつけください。
それでは、ご多忙のところお手数をおかけしますが、
よいお返事がいただける様、心待ちにしております。

敬具


2004年12月6日 倉田道久




【了】









SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送