恋心




最近、お兄ちゃんの様子がおかしい。
突然抱きしめられたかと思うと、今度はイライラしていたり。
何だかよくわからない。
さっきだって、怒られてしまった。
確かに、中学生にもなってバスタオル一枚だったのは
怒られても仕方なかったかも知れないけど・・・
何だかすごくイライラしてるみたい。
お兄ちゃんと一緒に食べようと思ってご飯を作って待ってたのに、
どうして部屋に一人で帰って行っちゃったんだろう。
私には言えない事なのかな。
「やっぱり、彼女ができたからかなぁ」
何だか寂しい気持ちになって、まだ整理していない
写真の束を引き出しからだした。
この間の遠足の写真。
そのうち10枚は、お兄ちゃんと一緒に撮った写真。
余ったから。なんてお兄ちゃんには言ったけど
本当はお兄ちゃんと一緒の写真が欲しかったんだ。
お兄ちゃんが大学生になってからは
一緒に出かけることはあっても、写真を撮ったことがなかったから。
友達にその話をしたら、ブラコンだって笑われたけど
写真を見せたら納得してくれた。
『こんなカッコいいお兄ちゃんだったら、ブラコンにもなるね』
なんて、笑いながら。
けど、その後の話が嫌な感じだった。
『うちのお兄ちゃんは、こんなにかっこよくないけど
今度結婚するんだ。未来のお兄ちゃんもいつか結婚するんだから
早く兄離れしなきゃ』
兄離れなんて、考えたことない。
お兄ちゃんは、ずっと傍にいてくれるって約束してくれたから。
そんな事考えられないって言ったら、未来は子供だって笑われて
お兄ちゃんくらいカッコいいなら
彼女が居ないわけ無いって断言されてしまった。
分かってる。お兄ちゃんはかっこいいもん。
昔から、バレンタインや誕生日の時は
プレゼントをたくさん貰ってきてた。
それに・・・・
「未来、起きてる?入るよ」
コンコンとノックの音がして、お兄ちゃんが入ってきた。
やばい。
お兄ちゃんとの写真を見ていたなんて知られたら
お兄ちゃんにまで、ブラコンだって笑われちゃう。
そんなの恥ずかしくて、私は机の上に覆いかぶさって写真を隠した。
「なに?なにを隠したの?」
目ざといお兄ちゃんは、それに気が付いて覗き込んでくる。
だめだめ、こんなの見せてられない。
お兄ちゃんにまで笑われたら、恥ずかしくて死んじゃう。
必死で隠していたつもりだったのに、お兄ちゃんはどこからか
ひょいっと写真を取り上げてしまった。
「あーーーだめーーー返してぇ」
必死で取り返そうとしたのに、お兄ちゃんは私の手をよけて、写真をみてしまった。
もーー恥ずかしい。
絶対笑われちゃう。
そう思ったのに、写真を見たお兄ちゃんの表情は一瞬硬くなった。
「康平の写真か・・・未来は康平のことが好きなんだね。
お兄ちゃんにも教えてくれないなんて、冷たいな」
「え?違うよーそんなんじゃないってば」
返してくれた写真に写っていたのは、遠足の時のコウ君との写真。
よかった、お兄ちゃんの写真じゃない。
でもなんで、コウ君の写真だったらコウ君のことが好きってことになるの?
「隠さなくてもいいさ。それとも、お兄ちゃんにはいえない?
悲しいな・・・未来は、お兄ちゃんのことを信用してくれないのか」
お兄ちゃんの言葉に、思わずむっとしてしまう。
全然信用してない。
「違うってば!そんなんじゃないの・・・第一、お兄ちゃんだって
未来には何も話してくれないじゃない」
お兄ちゃんの写真を机の上のもので適当に隠してから
後ろを振り向く。
お兄ちゃんと向き合う形になると、お兄ちゃんの瞳が悲しそうに見えた。
けどね、お兄ちゃん。私は知ってる。
この間、女の人と歩いてたよね。
美人だった。
とっても仲よさそうにして、腕まで組んでたんだから
あれはきっと彼女だよね。
「友達が言ってたもん。お兄ちゃんくらいかっこいいなら
彼女がいないわけないって。私、そんな話聞いた事無い。
お兄ちゃんだって、未来に隠し事してるじゃない」
「いちいち、妹にそんなこという兄はいないさ」
彼女のことを話してくれるんじゃないかって、期待したのに
お兄ちゃんは、それを無視して、さらりと流してしまった。
ひどいよ。
「じゃあ、未来も言わない」
意地になってるのわかってるけど、お兄ちゃんが悪いんだ。
「ダメ、言いなさい」
「い・や・だ!お兄ちゃん、卑怯!ばかばかばか」
命令されたらいつも従うとは限らないんだから。
絶対言わない。
何だかお兄ちゃんに拒絶されているような気がして
涙がでそうだ。
「未来?」
そっぽを向いて俯いた私の頬に、お兄ちゃんの大きな手がふれる。
顔を上げられて、目の前にあったのはお兄ちゃんの顔。
怒ってるんじゃなくて、心配している目。
私の心の底まで見透かしてしまいそうな目。
優しい優しいお兄ちゃん。
大好きなお兄ちゃん。
ずっと未来の傍にいてくれる?
「友達のお兄ちゃんが、結婚するんだって・・・
お兄ちゃんもいつか、恋人を連れてきて結婚するの?未来の傍を離れちゃうの?」
それだけいうと、我慢しきれなくなって涙が溢れた。
そんな日が来るかもしれないけど
でも、嫌だ。
私の頬にお兄ちゃんの指があたり、涙を拭っていく。
お兄ちゃんは、少し驚いたような顔をしたけど、すぐに優しい微笑みに戻ってる。
「ばかだな。僕はいつもお前の傍にいるよ。約束しただろう?」
そんなの信じられないよ。
「絶対?」
「絶対だよ」
強く言い切られて、無理だとはわかっていても安心した。
まだまだ先のことだよね。
そう信じていいよね。
お兄ちゃんが私を抱きしめてくれた。
いつもこの腕の中で、私は安心できる。
「うん、約束だね。お兄ちゃん大好き」
お兄ちゃんの腰に手を回して、抱きしめ返すと
大きな手が、私の頭を撫でてくれた。
お兄ちゃん大好き。
いつかは恋人のものになってしまうかもしれないけど
今だけは私の傍にいてね。




「ねえ未来、あなた、和希がいなくても大丈夫?」
久しぶりに帰ってきたお母さんとの朝食。
お父さんは、休みだからってまだ寝てる。
今日は平日だけど、海外出張から帰ってきたばかりの2人は
しばらくは休暇だ、といってここ何日か家にいた。
お兄ちゃんは用があるとかで、早めに大学へ行ったらしい。
「お兄ちゃん、どこかいっちゃうの?」
トーストを飲み込んでから、私は首をかしげた。
旅行にでも行くのかな?でもそんな話聞いてない。
「大学の近くで一人暮らししたいって、言っているのよ
前から考えていたんですって」
お母さんの言葉に、頭が真っ白になる。
何それ?
この間ずっと傍にいるって、約束してくれたばかりなのに
「あの子もね、仕事と大学で忙しいから、
大学の近くに住みたいって気持ちも分かるんだけど・・・
私たちもよく長期出張してしまうし・・・あなたを一人にはしたくないわ」
お母さんは、右手を頬にあてて困ったようにため息をついた。
やだやだやだやだ。
そんなのやだ。
その後、ご飯は喉を通らなかった。




嘘つき!
お兄ちゃんの嘘つき!
今日はずっとそれだけしか考えられなかった。
授業も友達との話も、全然頭に入らない。
むしゃくしゃした気持ちで、家路に着く。
ずんずんと歩いているんだろうな。
とりあえず、今日はお兄ちゃんを捕まえて文句をいってやる。
そう決めていた。
「おーい、未来ー」
「コウ君。今帰り?」
走って追いかけてきたのか、コウ君の息はちょっと上がっている。
「お前、歩くの早すぎ。追いつけないかと思った」
へへへっと笑うコウ君。
「ねえ、コウ君。コウ君も大人になったら一人暮らししたい?」
コウ君に話してみよう。
またブラコンだって笑われるかもしれないけど。
「え?ああ、そうだな。一人暮らししたら彼女も部屋に呼べるし」
彼女を部屋に呼ぶ?
お兄ちゃんもそれが目的なの?
未来が邪魔なの?
「そんな理由なんて変!信じられない」
「なんだよ、和希さんが一人暮らししたいって言ってるのか?」
珍しく勘のいいコウ君に、私は黙って頷いた。
「そっかー和希さんもてそうだもんな。彼女いるんだ」
「そんなんじゃないもん!お兄ちゃんは、ずっと私の傍に居てくれるって
言ってたもん」
強く反論すると、コウ君は呆れた顔になった。
「おっまえ、あいかわらずのブラコンな。
彼女が出来て、『私あなたと一緒にいたいわ』なんて言われてみろ
妹との約束なんて反古だよ、反古」
ヒラヒラと手を振るコウ君が憎らしい。
分かってるよ。
分かってるけど、傍にいるってこの間いってくれたばかりなのに。
「コウ君の意地悪・・・」
「意地悪でいってんじゃねぇよ。お前もブラコン卒業して
他の男に目をむけろっての。恋人でもないんだから
いつまでも和希さんべったりじゃダメだろ」
恋人って言葉に、胸がヅキンと痛んだ。
妹だから、いつかは離れないといけないなんて
そんなの悲しい。
私はお兄ちゃんが好きなのに・・・
その夜。
文句を言ってやろうと思っていたのに、
兄ちゃんはいつまでたっても帰ってこなかった。




一人暮らしの話を聞いてから、もう一週間。
私は、いつまでたってもお兄ちゃんと話を出来ないでいた。
何だか避けられているんじゃないかと思うくらい。
朝は早く出かけてしまうし、夜は遅くにしか帰ってこない。
私が話しかけても、忙しいからと、どこかへ行ってしまう。
こんな事今まで一度もなかった。
寂しくて、寂しくて。
何だか泣いてしまいそうだった。
そして、そんな夜。
眠っていたのに、ギイっとドアが開いたような気がして目が覚めた。
薄目を開けると、月の明かりに照らされてお兄ちゃんが立っている。
私が眠ったのは12時過ぎ。
あれから何時間たっているのか分からないけど
こんな夜中に、しかも私が寝ているときに
お兄ちゃんが部屋に入ってくるなんて初めてだった。
なんだか、ドキドキした。
怖いような、切ないような。
不思議な気持ち。
目を覚ましているのがばれない様に
私は必死で寝たフリを続けた。
「未来・・・」
お兄ちゃんが、ベッドの傍に跪き私の頭を撫でる。
いつもの甘いムスクの香りと、お酒とタバコの匂い。
お兄ちゃん、酔ってるのかな。
そう思っていたら、唇に柔らかいものがあたった。
キスされているのだ、と気づくのに少し時間がかかってしまう。
お兄ちゃんが私にキスをしている。
びっくりしたけど、嬉しい。
何故?何故お兄ちゃんにキスされて嬉しいの。
私はそうされたかったの?
戸惑っていたら、唇が離れた。
そして、少し間を置いてから、また唇が重なる。
でも、さっきと違う。
さっきは触れるだけの優しいキス。
今度は、唇を唇がなぞるようなキス。
そして、ゆっくりと舌が私の唇を割ってきた。
心臓が壊れてしまうかと思うほど、ドキドキしてる。
お兄ちゃんの舌が、私の舌を絡めとり
息が出来ないくらい、貪られる。
だんだん頭がぼうっとしてきて、何も考えられなくて
お兄ちゃんの舌の感触だけが全てになっていく。
少しのお酒とタバコの味がする。
「んっ・・・ふうん・・・」
たまらず揚げてしまった声が、なんだか自分の物ではない気がした。
その声に反応して、お兄ちゃんはゆっくりと唇を離す。
目を開けると、お兄ちゃんの唇と私の唇を銀の糸が繋げているのが見えた。
お兄ちゃんはそれを舌で舐め取り、責めるような目で私を見ている。
綺麗な男の人だ・・・初めてそう思った。
「やっぱり、起きてた・・・どうして嫌がらないの?」
どうして?わからない・・・でも嬉しかった。
「・・・・嬉しかったから」
素直に答えたのに、お兄ちゃんは驚いて目を見開く。
そして、何かを考え込むようなしぐさをしてから、ため息をついた。
「・・・ごめん・・・酔っていたんだ」
立ち上がって行ってしまおうとしたお兄ちゃんの腕を、私は反射的に掴んでいた。
「お兄ちゃん・・・うちを出て行ってしまうの?
未来を置いていくの?」
「・・・ごめん」
何も答えずに謝って、そのまま腕を放されてしまう。
それ以上何も言わないで、お兄ちゃんは部屋を出て行ってしまった。
追いかけることは出来る、でも今はきっと拒絶されてしまう。
そんなのいや。
ねえ、お兄ちゃん。
私はお兄ちゃんが好き。
キスされて嬉しかったの。
そんなの妹としておかしいよね。
私、お兄ちゃんの事男の人として好きなのかな。
ねぇ、お兄ちゃん。
これが恋なの?
お兄ちゃんにキスされた唇に、まだ温もりが残っていた。
その唇に手を這わせて、思った。
私、お兄ちゃんが好き。
妹としてじゃなく、一人の女の子として、お兄ちゃんのことが好き。


                                             【了】
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◆◆◆◆◆◆◆◆一言◆◆◆◆◆◆◆◆

寝ている所を襲ってはいけません(笑)
だけどね、何故そこでおしたおさん!!
根性無いぞーーー兄ーーーーー!!!
と、思った私は穢れている?(T▽T)



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