間違いだらけの僕へ






妹だと思っていた。
12歳の時、突然できた僕の妹。
6つ下のその子は、大きな目に期待と不安を浮かべて
我が家に連れて来られた。
「僕、和希。今日から君のお兄ちゃんになるんだ」
差し出した僕の手を、おずおずと握り返す様が可愛くて、
守ってあげよう。
そう思ったのを覚えている。
その気持ちは、今でも同じ。
守ってあげたい、幸せになってもらいたい。
それなのに、僕の気持ちは、変わってしまった。
8年経った今、僕は彼女を妹だとは思えなくなっていた。
僕は、彼女に恋をしている。




大学が終わって、少し時間がたってからの帰宅。
日はすでに沈んでおり、時計の針は、8時をさしている。
この頃、家に帰るのが時折辛い。
両親はまた海外に出張しており、家は未来と2人きり。
まだ中学生の未来を一人にしてはおけない。
だから、早く帰らなくてはいけないのだが・・・
家路に着く和希の足取りは重かった。
2人きり、という状況は、今の和希にとって苦痛でしかない。
愛しい妹・・・いや、愛しい少女。
中学にはいり、急激に女らしくなった未来に
和希は恋心をもってしまったのだ。
今まで妹としか意識していなかった少女が
女性なのだと気が付いた時、和希の状況は一変した。
ベタベタのシスコンなどと、自他共に認めていた状況。
周りからは、少し変だといわれるくらいにしていたスキンシップの軽いキス。
彼女の頬に、額に触れるだけのキスは、兄としてしていた時よりも、数倍に鼓動を早めた。
少し赤い唇に、自分のそれを重ねたくて、
細く白い身体を抱きしめたくて。
「こんなのは、間違ってるよ・・・」
和希は、深いため息をつく。
兄として慕ってくれる少女。
彼女の信頼を壊してしまいそうになる自分。
そんなのは間違っている。
「お兄ちゃん・・・か・・・」
どうしようもない自分が、情けなくて、
和希はまた、ため息をついた。





「ただいま」
「あ、お兄ちゃん!おかえりなさい」
玄関のドアを開けた瞬間、和希の腕に飛びついてきた未来。
いつもの光景。
が、その格好に和希は、ぎょっとして身を引いた。
少女の姿。風呂上りなのだろう。
裸体にバスタオルを巻きつけただけの、何もまとっていない姿。
膨らみ始めた胸の谷間が、見えている。
長い髪は、まだ乾いていなくて、そこからの雫が、胸元に流れる。
「何て格好をしているんだ、未来!」
少し強めの口調で、その姿を見ないようにして家に入った。
「お前ももう中学生だろう。家の中だからって、そんな格好でうろつくんじゃない」
未来は和希の事を、兄だとしか思っていない。
だからこそ、風呂上りに帰ってきた兄を迎えるため
服も着ずに玄関に着たのだろう。
だが、和希は未来とは違う。
恋をしている少女のそんな姿を見せられたら・・・
理性がどこかへ飛んでいってしまいそうだ。
抱きしめて、キスをして、その全てを奪いたくなる。
ヒドイ兄だ、自分でも思う。
妹の姿に、欲情しているなんて。
「ごめんなさい・・・」
苛立った和希の口調に、未来はしゅんとうな垂れた。
「・・・いや・・・僕のほうこそ強く言い過ぎたね。
でもね、未来。僕が一人だったからいいものの、友達とか連れてきていたら
恥ずかしいのは未来なんだよ?」
苛立つ気持ちを抑えながら、和希は未来に微笑んだ。
自分の中にある、劣情に、無邪気な未来に。
その苛立ちは、和希の我がままで、やはり間違っているのだ
そう認識せざるを得ない。
「さ、着替えておいで」
いつもの優しい兄の様子に安心したのか
嬉しそうにうなずいて、脱衣所へ戻る未来。
その後姿。
バスタオルから覗かせる白い背中、細い足。
その薄い布越しの肌は、どんな味がするのだろう。
掴まえてしまいたい衝動を抑えつつ、和希はまたため息をつく。
最近ため息を付く回数が増えた。
ため息をつくと、幸せが逃げてしまう、そういったのは誰なんだろうか
誰でもいい、教えてほしい。
幸せになりたい、でも幸せになれない。
僕がこの気持ちに気づいてしまったから。
人は、どうしようもない時、ため息をつく以外に
何が出来るというのだろう。
未来に兄としてしか思われていない
そんなことは気づいている。
家にいると、今日のように無邪気な未来の姿が
それをまざまざと和希に教えてくれる。
だから、家に帰るのが辛かった。
無防備な未来。
兄だから、兄の前だからこそ、これほど無防備になるのだろう。
それは信頼
兄妹としての。
こんな気持ちがなくなってしまえばいい。
ただの妹として、未来を愛していけたのなら。
それが一番幸せだというのに。
想いは日に日に強くなる。
美しく、女性として成長しはじめてくる未来の姿に
心を奪われる。
そして、和希の事を、兄としてしか思っていない未来に
苛立ちをぶつけてしまう。
こんなことは、間違っているのだ。
この気持ちを忘れさせてくれるのなら、なんだってやるだろう。
和希は強く、そう願った。
「お兄ちゃん、ごはんは?」
脱衣所から出てきた未来の姿は、
白いTシャツにジーンズ地のショートパンツ。
露出度は高いが、先ほどの格好に比べたらずいぶんマシだ。
だが、それでも和希の欲望を刺激するには十分だった。
「いや、食べてきたからいらない」
そっけなく答えた和希をみて、未来は口を尖らせた。
「ご飯作って、まってたのにー」
「ごめん。ちょっとやることがあるから、部屋にいるよ」
この欲望を未来に気づかれてはならない。
短くそういって、未来とは目をあわさずにリビングをでた。
「あ、お兄ちゃん」
呼びかけに、振り返りもせずに。




さっきの態度は拙かった・・・
一時間ほどが経過しただろうか、
やっと気持ちの落ち着いてきた和希は、自分の行動に深く反省していた。
未来は、とても寂しがりやだ。
生い立ちゆえか、人に嫌われるのを極端に怖がる。
そんな未来のことを、一番知っている自分があんな態度をとってしまった。
本当に、最近は反省することばかりだ。
あの後、未来は一人で食事をとったのだろうか。
後悔というインクが、和希の心に広がる。
あやまらなくては、いけない。
和希は立ち上がって部屋をでた。
下の階に人のいる気配は感じられない。
自室にいるのだろう。
隣の未来の部屋の前にたち、呼吸をしてからコンコンと軽くノックした。
「未来、起きてる?入るよ」
返事を待たずに、ドアを開けると、机の前に座っていた未来が
あわてて何かを隠しているのが見えた。
「なに?なにを隠したの?」
あわてる未来が可愛くて、和希の悪戯心が刺激される。
「だめーだめ。みちゃだめ」
机の上に覆いかぶさるようにして、何かを隠す未来の上から
机の上を覗き込む。
隠れてしまっていてよく分からないが、どうやら写真の束らしかった。
未来の腕のはしから見えるそれを、一枚抜き取る。
「あーーーだめーーー返してぇ」
顔を真っ赤にして騒ぐ未来は、可愛い。
ほほ笑ましく思った。
しかし、その写真をみて、和希は一瞬とまどう。
康平の写真だったのだ。
未来と2人で、仲よさそうに写っている。
数ヶ月前、未来に聞いたことがある
『康平が好きなのか』と、その時は否定していたが、今は違うのかもしれない。
そうでなければ、こんな写真を恥ずかしそうに隠すわけがない。
「康平の写真か・・・未来は康平のことが好きなんだね。
お兄ちゃんにも教えてくれないなんて、冷たいな」
嫉妬に狂った心を隠し、写真を未来へ返した。
「え?違うよーそんなんじゃないってば」
写真を受け取りながら、未来は拗ねたように口を尖らす。
だが、そんな言葉は信じられない。
「隠さなくてもいいさ。それとも、お兄ちゃんにはいえない?
悲しいな・・・未来は、お兄ちゃんのことを信用してくれないのか」
凶暴になった気持ちを気づかれないように、必死で優しい兄を演じる。
「違うってば!そんなんじゃないの・・・第一、お兄ちゃんだって
未来には何も話してくれないじゃない」
ばさばさと、そこらのノートやなにかで、机の上の写真の束を隠しながら
未来は、和希の方を向き直った。
「友達が言ってたもん。お兄ちゃんくらいかっこいいなら
彼女がいないわけないって。私、そんな話聞いた事無い。
お兄ちゃんだって、未来に隠し事してるじゃない」
先ほどのこともあり、未来は機嫌が悪かったのだろう
その声に怒気がはらんでいる。
「いちいち、妹にそんなこという兄はいないさ」
女性と付き合ったことはある。
だが、どれも本気にはなれなかった。
いつも彼女よりも、妹に重点を置いていたのだから
うまくいくわけが無い。
未来への気持ちに気が付いたのは数ヶ月前。
それなのに、昔から自分は、彼女よりも未来を大切にしていたのだ
自覚が無かっただけで、自分の心は昔から未来に支配されていたのだろう。
「じゃあ、未来も言わない」
「ダメ、言いなさい」
「い・や・だ!お兄ちゃん、卑怯!ばかばかばか」
一体友人に何を吹き込まれたのか・・・
膨れた顔で、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
どうやら、話をしたくないほどご機嫌斜めになってしまったらしい。
「未来?」
その顔に手を当てて、こちらを向かせると、未来の顔は、今にも泣き出しそうに崩れる。
「友達のお兄ちゃんが、結婚するんだって・・・
お兄ちゃんもいつか、恋人を連れてきて結婚するの?未来の傍を離れちゃうの?」
大きな瞳から、涙がこぼれる。
その涙に唇を這わせて、キスをしてしまいたい。
僕が好きなのは、お前だよ。そう伝えたい。
だけど、それは無理な話。
「ばかだな。僕はいつもお前の傍にいるよ。約束しただろう?」
優しい兄の仮面を和希は外すことが出来ない。
未来の為に、いとおしい少女の為に。
その信頼を裏切らないために。
「絶対?」
「絶対だよ」
そういって、未来を抱き寄せる。
兄として・・・
「うん、約束だね。お兄ちゃん大好き」
未来の腕が、和希の首に絡まる。
激しくなる動悸。
気づかないでほしい。
もうそろそろ、限界だな・・・
未来の頭を撫でながら、和希はそう思った。




「父さん、話があるんだけど」
「ああ、どうした。改まった話か?」
海外出張から帰ってきた父が、リビングのソファーに座っている。
出張から帰ってきた父と母は、しばらくの休暇をゆったりと過ごしていた。
両親が帰ってきて、和希は前々から迷っていた事をきりだした。
「うん、実は僕・・・大学の近くで一人暮らしをしようと思うんだけど
許してもらえるかな」
妹の未来に、欲情する僕。
恋人のように、嫉妬してしまう僕。
無邪気な未来に、苛立ちを覚えてしまう僕。
だからこそ、傍にいる約束を守れない僕。
未来の傍から離れなくてはいけない。
間違いだらけの僕には、それしか選択肢はなかった。                          

【了】
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◆◆◆◆◆◆◆◆一言◆◆◆◆◆◆◆◆

未来ちゃん・・・いくらなんでも
バスタオル一枚でおにいちゃんを誘惑するのはやめましょう(笑)
しかしあれね、折角R18のサイトを立ち上げたのに
そんな小説微塵もかいてねぇ(笑)
くう・・・阿呆でラブラブな話を書きたいのに!
バカップルな2人が書きたいのに・・・
まだまだ先の話



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