強く儚く、そして淡い想い〜和希の場合






それは突然目に入ってきた。
今まで気付きもしなかった。
制服のスカートから伸びた、白く艶かしい腿
ほんのりと赤く、色づいた唇。
膨らんだ胸。
まだ子供だ、そう思っていた少女は、
すでに大人への変化を始めていたのだ。





6月も後半、季節は夏に差しかかろうとしていた。
梅雨も明け、太陽の日差しが日に日に強くなる。
夏は暑いので苦手だ。
春が一番いい季節だと思う。
じっとりと絡みつくような暑さに、ウンザリしながら
和希は構内を歩いていた。
目的地は図書館。
別に理由はない、冷房が効いていて涼しいからだ。
少し調べものをしたい、というのもあったのだが・・・
「たーちばっなくん!」
聞き覚えのある声に振り返る。
「こんにちは、吾妻木さん」
先日友人に誘われた飲み会で知り合った、吾妻木薫がそこにいた。
数人の学生の輪の中から、手を振ってこちらに近づいてくる。
結構飛び切りの美人に入る部類の彼女に、どうやら僕は、気に入られているらしい。
知り合ってからは、ちょくちょく話をするようになっていた。
「そんなに急いで、どこ行くの?」
「ちょっと図書館にね。暑いでしょ、他は」
「確かに図書館は涼しいけど・・・急ぎの用事?」
ぱっちりした、大きな瞳。
少し釣り目がちだが、はっきり物を言う彼女らしい瞳。
口元にはいつも笑みを絶やさない。
甘い声に、熟れた肢体。
それでも、必要以上に媚びる様子は無い。
彼女には、女性としても友人としても好感が持てた。
「急ぎではないよ、涼みたいだけ。そういう吾妻木さんは?」
「私は、立花君を見かけたので、合コンのお誘いに」
悪戯っぽくウィンクをされた。
「あまりそういうの得意じゃないんだけどね」
微笑みながら、やんわりと断る。
酒は嫌いじゃない。
ただ、騒がしい雰囲気が好きになれないだけ。
「もーいつもそう言って断るんだから!たまには付き合ってよね。
立花君が居るのと居ないのとじゃ、女の子の集まりが違うのよ」
「そんなこといわれても、ね。大体、女の子が集まらなくったって
吾妻木さんは、困らないでしょ」
「困るのよー。女の子が居ないと寂しいじゃない!
男とだけ飲みに行っても、狼の中に羊を投げ込むようなものよぉ」
「相変わらずだね」
「もちろん、可愛い女の子は大歓迎ですもの」
フフフと、吾妻木は笑う。
「でも正直、今は無理だよ。両親が仕事で海外にいるんだ
あまり遅くまで妹を一人にしておけない」
これは事実。
「また妹さん!まったく、相変わらずのシスコンぶりねぇ」
呆れたように吾妻木は肩を落とした。
それでも、『妹』が理由では和希が意思を変えるはずは無い。
「わっかりました。じゃあ、次は絶対よ」
とため息を漏らした。
「考慮しておきます」
シスコンという言葉に、あえて反論はしない。
自分でもそう思うので。
はっきり言って、自覚してしまうほどの兄バカだと思う。
だって、未来はとびきり可愛いじゃないか。
「ところで、妹さんって中学生だっけ?」
「そうだけど・・・?」
「そろそろ帰って来るんじゃない?もう5時よ」
「えっ?もうそんな時間?」
吾妻木は自分の腕時計を、和希の前にさらした。
時刻は5時を過ぎた所。
もっと早い時間だと思っていた・・
本当にもう夏だなぁ、こんな時間まで日が落ちないなんて
「夏は日が落ちるのが遅いんだから」
からかう様に微笑む吾妻木に、和希は失笑した。
どうやら、考えを読まれてしまったらしい。
このところ、夕飯の準備を任せっぱなしだったので、今日は、未来よりも早く帰ろうと思っていた。
まだ日が高いから、と、図書館で涼もうとしていたが、予定変更だな。
「じゃあ、そろそろ帰ろうかな。夕飯作らなくちゃ」
「えーー?立花君って、料理もするの?」
「勿論しますよ。いい男でしょ?」
「ほんと、顔も性格もよくて、料理もできて優しくて・・・いい男ね」
冗談に冗談で返されたのか、それとも本気で言っているのか
「じゃあ、また今度ね」
吾妻木はそういうと、笑顔で友人の輪に帰って行った。





スーパーに寄って、買い物でもしてこようか、と思ったが
この時間はどこも混んでいるのでやめた。
家にある材料で何か作れるだろう。
今日は何を作ろう。
未来の好きなものを思い浮かべながら歩いていた、その時。
夕日に照らされながら、歩いてくる男女に目を奪われた。
いや、正確にはその少女に目を奪われたのだ。
少年に負ぶされている、少女。
怪我をしているのか、右の足首には包帯が巻かれている。
少年の背におぶわれた、少女のスカートは捲り上げられて、太ももの半ばまで見えていた。
白く細い、その艶かしい脚に眼を奪われる。
「あっ!お兄ちゃん!」
少女が手を振る。
呼ばれて初めて、それが妹の未来だと気が付いた。
「未来・・・?」
僕は、妹を・・・
カッと体の内側が熱くなる。
未来に女性を感じるなんて。
この子は妹なのに・・・
「どうしたんだ?」
そんな劣情を気取られないように、勤めて平静を装い二人に近づく。
「こんにちは、和希さん」
男の方は、康平だった。
和希もよく知っている、未来の幼馴染。
大きくなったな、なんて思いながらも、彼の手が未来の脚に触れているのに、むっとした。
「こっちにおいで、未来」
出来るだけ早く康平から引き離したくて、未来に手を差し伸べた。
頷いて、未来は和希の腕の中に納まる。
背中に右腕を回し、左腕を未来の太腿の後ろから回す。
そして、歩けないであろう未来を抱きとめた。
しかし・・・この子は、こんなに柔らかかったか?
疑問と劣情。
柔らかい胸の感触と、腿の感触が、官能を刺激した。
「ちょっと、捻挫しちゃって・・・コウ君に送ってもらったの」
腕を回し、密着した未来が、和希の首筋でささやくようにいう。
怒られるとでも思っているのか、小声で。
そして、その吐息が和希の首筋を撫でた。
ぞくっと、快感が走る。
ほんのり赤く色づいた唇が、和希の首筋に軽く触れた。
それだけのことだったのに
小さい頃から、何度もそうやって抱いていたのに
違う、これは違う。
妹にこんな風に感じるなんて・・・
「そう、ありがとう康平。あとはぼくが連れて行くよ」
こんな気持ちを気付かれないように、康平に笑顔を向ける。
すると康平は、
「あ、はい・・・」
と言って下を向いて唇を噛んでいる様だった。
嫉妬しているのか?兄の僕に?
康平が未来の事を好きなのは、知っていた。
というよりも、気付いていた。
相当鈍い未来以外の人間は、気付くだろう程度の好意を
康平は昔から未来に向けていたのだから。
何を嫉妬することがあるのか、僕は兄。
お前は幼馴染。
兄は男にはなりえないけれど、
幼馴染は男になりえるだろうに。
無意識にそんな事を考えて、ドキリとした。
僕は未来に、男として思われたいのか?
まさか・・・未来は妹なのに
腕の中の少女に、今まで女を感じたことは無かった。
そう、今の今までは
だがどうだ、彼女はすでに子供から大人へと変わろうとしている。
柔らかな肢体に、甘い声。
あの吾妻木の様に・・・
そしていつしか、僕以外の男の元へ行くのだろうか・・・
いやだ。
「じゃあ、俺。これで・・・」
康平の言葉に、ハッとして我に返った。
「えっ、ああ・・・ありがとう」
その言葉を康平が聴いていたかは分からない。
彼は、さっと振り向いて走り出した。
「コウ君、ありがとう!」
未来の声に振り返った康平は、笑顔で手を振り返す。
未来が全て・・・康平の笑顔がそう語っているようだった。
「ねえ、お兄ちゃん、怒ってる?」
息さえかかりそうな至近距離に、未来の顔
今まで妹としか思っていなかった。
でも、改めてみると美しく整った顔をしている。
まだ幼い顔付きだけれど、今に美しく咲き誇る。
いうなれば、ほころびかけた可憐な蕾。
可愛い、それだけだと思っていたのに
「おにいちゃん・・・?」
くるくると色を変える瞳に、今は不安そうな色が浮かんでいる。
「怒ってなんかないよ、どうして?」
勤めて、兄の平静を装う。
気付かれてはいけない、未来を怖がらせたくない。
「だって、なんか変。じーっとこっちを睨んでるみたい」
「ごめん、未来の顔に傷が付いてないかみてたんだよ」
笑いながらその頬にキスをした。
「もーお兄ちゃんもコウ君と同じこというぅーーどうせ、未来はブスですよぉーーだぁ」
「何言ってるの、未来は可愛いよ。世界一可愛い
だって、僕の妹だもの。可愛い顔に傷が付いたらいやだからだよ」
『僕の妹だもの』そこを強調してから、もう一度、その頬にキスを降らせた。
「痛くないかい?一体どうしたんだい?」
いつもの行為。
だけど、いつもと違う僕の心。
何でだろう、こんな行為、今まで何回もしてきた。
他の女を抱いた時だって、こんなにどきどきしなかった。
「階段から落ちちゃったの・・・」
もごもごと言い辛そうに未来は俯いた。
「何かあった?お兄ちゃんには言えないこと?」
ささやきに、未来は首を横に振る。
「んーっとね、コウ君が好きだって女の子と言い合いになって・・・
間違えて階段を踏み外しちゃったの・・・」
収まっていたはずの嫉妬心が、ちろりとまた首をもたげた。
「・・・未来は康平が好きなの?」
抑揚の無い声で、未来を怖がらせないように・・・
もしこれで、そうだと答えられたら・・・自分はどうするんだろう。
「ちがうよー、コウ君は幼馴染だもん」
口を尖らせた未来に、どうやら嘘はないらしい。
ほっと息をついて、3度目のキスを未来の頬に降らせた。
「じゃあ、康平から逃げてなさい。康平は寂しがるかもしれないけど、
お兄ちゃんは、未来のことが心配だ」
やきもちから出た言葉、だろうと思う。
意識はしていなかったけれど
「心配性ー。もーおにいちゃんたらぁ、だーい好き」
未来の腕が、和希の首に絡まり、ぎゅっと抱きしめられた。
「僕も、大好きだよ。未来」
もしかしたら、妹なんかじゃなく、一人の女性としてかも知れないけど
「今日は怪我人の未来のために、お兄ちゃんが腕を振るいましょう。何が食べたい?」
「お兄ちゃんの作ったものって、何でも美味しいもん。なんでも食べる」
屈託の無い笑顔の少女。
「そんなに食べてばっかりいたら、子豚になるぞ」
「うぅぅぅーーー意地悪ぅぅ」
「あはは、ごめんごめん。嘘だよ。未来は子豚でも可愛いよ」
「なんか違うぅぅ」
「嘘だって」
おでこにキスをすると、未来が赤い顔をしてこちらを見つめた。
どうしたの?と目で問いかけると、未来は真っ赤になって俯いた。
「なんか、今日のお兄ちゃん。スキンシップ過剰・・・」
「そうかなぁ?いや?」
「んーん、お兄ちゃん大好きだから、嬉しい」
「それは光栄。さあ、我が家に向かおう」
絡みつく未来の肢体を優しく抱きしめながら、
和希は初めて、少女を女なのだと意識した。



【了】
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◆◆◆◆◆◆◆◆一言◆◆◆◆◆◆◆◆
ゲーム中では、小さい頃から未来が好きだったと、言ってるお兄ちゃん
が!変えてしまいましたよ(笑)
だって、幼稚園児に萌えられたら、おいらのお兄ちゃんは変態に(笑)
ええ、私ってば歯止めが利かない人間なのです(マテ)
これは、シリーズ化して書きたい話です。
お兄ちゃんが、未来ちゃんへの愛を確認する過程を!(笑)
なんだか、私の脳内では、ゲームが始まる前の話しが渦巻いています。
これもお兄ちゃんへの愛ゆえ(笑)






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