そこに存在するもの 1






見えてしまいました。
見えてしまいましたよ。
今まで19年間生きてきた中で、始めて。
いや、初めて。
っつか、最初で最後にしてくれ。
儚げな少女を抱きしめるような青年・・・・の・・・影が!!
ぼやけてるし!透けてるし!
後ろの景色見えてますぜ、旦那!
なんて、話しかけたくもありません(涙)
俺、堂本広。19歳
もうすぐ大学に入ってから一年が経とうとしていた3月
生まれて初めて、幽霊と言うものをみました。




「それでね、未来がね」
「話しかけないでくれませんか・・・」
「え?何、堂本君?」
上記の会話。
一番最初が、立花和希の言葉
二番目が、俺。
で、三番目は、和希さんの妹で、俺の友人の立花未来。
「いや、なんでもねぇ・・・はい、なんでもないです」
二年程前に亡くなったらしい和希さんは、俺にしか見えない。
なんせ幽霊ですから。
今まで霊感なんて無かった俺だが、何故だか和希さんの姿が見える。
理由は不明。
でも、見えるんだから仕方が無い。
初めて見たのは、19歳の冬。
その時、すでに俺は未来とは友人だった。
とはいっても、今ほど打ち解けた仲ではなく、まあ、一緒に遊んだりもする友人の幼馴染。
ただ、見るたんびに暗い顔をして沈んでいたんで
おっしゃ、これは俺の仕事だ!女の子には笑顔を!って思って、がんばっていた。
そんな時期。
たまたま通りかかった桜の丘で、未来をみつけ
この寒い中なにしてんだ?と声をかけようとして、止まった。
花も葉っぱもつけてない、味気ない桜の大木の下で泣いていた未来。
そして、その未来を切なげな顔で抱きしめる青年。
の、霊を見たのだ。
何の因果か、それからずっと俺はこの幽霊が見える。
他の幽霊はみたこともないのに。
最初は気づかれないようにしていたが、
和希さんは、大変勘の良い方らしく・・・見えていたのがバレた。
『君、もしかして僕が見える?』
その問いかけに、俺は反応してしまった。
まさか声まで聴こえるなんて思わなかったから、かなりビビッた。
『嬉しいな。今まで誰も気づいてくれなかったんだよね。未来も』
それからというもの、この人は事在るごとに俺に話しかけてくる。
すでに写真で、彼が未来の兄だと知っていた俺は、
その人を無碍にも出来なくて、一応会話らしいことをしていた。
まあ、悪い人ではない。
むしろ、気持ちの良い人だ。
妹にベタ甘なのは置いといて、知識も豊富だし、会話もうまい。
その上これだけ顔がいいんだから、もてただろうなと思うし
習いたい人だ。
俺は結構この人が好きだ・・・・が、だが、しかし!
和希さんは、誰にも見えない、聴こえない。
この人との会話は、はたから見たら俺の独り言なのである。
『最近お前、なんか一人でブツブツ言ってないか?ちょっと怖いぞ』
とは、親友コウの言葉(泣)
その旨を和希さんには伝えてあるのだが
一向にやめてくれる気配はなかった。
「どうしたの、どこか具合悪い?」
黙り込んだ俺の顔を、未来が覗き込んできた。
うん、未来は可愛いと思う。
和希さんがシスコンになるのも、コウが幼馴染以上の気持ちを抱くのも
まあ、分かる。
周りの男どもだって、未来狙いの奴は多い。
しかし、なんとも本人が激ニブなので、警戒心がない。
悪い男に捕まらないように、とのことで、俺はこのお姫様の警護を承っている。
誰からって、それはもちろん、彼女の兄と幼馴染からだ。
コウはサッカーの練習が忙しい。
和希さんは、幽霊だ。
必然的に、家が近い俺が、大学の行きも帰りも一緒になるわけだが
その道中の、この妹バカのしゃべることしゃべること
つい幽霊だって忘れてしまって会話して
周りに不振がられること数十回。
「疲れてる?どこかで休む?無理はダメだよ」
「そうそう、無理はダメだよ。悩みがあるならお兄さんに言ってみなさい。
聞いてあげるから」
いやもう、ノープロブレム。
野郎に心配されても嬉しくないです。
ってか、あなたが原因です(泣)
「あー平気平気。気にするな」
何だか脱力してしまうが、未来に心配かけたくないので、
無理やり引きつった笑顔をうかべる。
しかし、何で未来には見えないんだろう。
初めて会話してからしばらくして、
『未来に、伝えましょうか?和希さんが傍に居るって』
俺の申し出に、和希さんは寂しそうな笑顔で首を横に振った。
理由はわからない。
訊いてはいけないような気がして、それからその話題は出していない。
でもね、でもね、和希さん。
俺的には、未来に伝えてもらいたいです。
そしたら、こんなおかしな状況から少しは抜けられます。
「未来に話したら、心配するからね。僕がいつまでも成仏してないって
泣いてしまうかもしれない。泣かせたくないんだ」
人の心を読んだのか?幽霊にそんな芸当が出来るのか!?
そんな俺の視線を感じたのか、件の幽霊はおかしそうに声を上げて笑った。
「わかりやすいんだよ、君は。未来といい勝負だ」
意地の悪い笑顔を浮かべるこの人が、未来の言う優しい兄と同一人物とは・・・
妹の前でばっか、良いカッコしてたんだな。
「お前の兄ちゃんさぁ・・・実はすっげーー性格悪かっただろ」
「ええ!?何それ!?ひっどーい。堂本君でも、そんな事言ったら許さないから」
「そうそう、僕は果てしなくいい男ですよ」
うわ、もぉ・・・自分で言うかねこの人は。
確かにいい男ですけどもね・・・ええ、いい男だろうともさ。
こんちくしょう。
未来がぶうたれて、早足で先にずんずんと進んでいくのを
俺は脱力した身体で必死に追いかけた。
和希さんは、そんな俺たちが面白いのか、腹を抱えて笑っている。




「で?なんでここにいるんですか?」
午後の時間が空いたので、俺は今図書館にいる。
ここは涼しいし、静かだし。
寝るにはうってつけの場所だ。
さて、寝よう。
と、思ったときに目の前に、男にしておくには惜しい美人の顔があった。
でも、後ろが微妙に透けてます。
こんなの怖いです。
さすがに慣れてきましたが、いきなりは心臓に悪いです。
「やあ、今からお昼寝?優雅だねぇ」
からかう様な口調、シニカルな微笑み。
絶対この人二重人格だし!
未来の話じゃ、優しく微笑む人だっていうけど、しんじらんねぇ
「あれ?未来は?」
きょろきょろと当たりを見回すが、未来の姿は見えない。
「今は授業中。ちょっと君と話がしたくてね」
滅多に未来の傍から離れないのに、珍しいこともあるもんだ。
「話、ですか?なんでまた」
「人前で僕に話しかけられるの嫌がるでしょ。いつもは未来もいるしね」
ええ、嫌です。気づいているならやめてください。
マジで頼みますよ、お兄さん。
「堂本君さ、未来のことどう思ってる?」
さっきまでのふざけた口調と打って変わって、
和希さんは真剣な面持ちで、俺の向かいの椅子に座った。
幽霊なのに座れるのか、とかは、すでに慣れてしまっているのでどうでもいい。
「どうって・・・友達ですけど」
「それだけ?女の子としては、みてない?」
何を言っているんだ、この人は
「未来は友達ですよ。それ以上でもそれ以下でもない。
大体、コウの奴が未来のこと好きなのに、俺がどうこういえないですって」
未来のことを、女として見たことはない。
コウの奴に、未来を紹介してもらった時から、
あいつがこの女の子の事が好きなんだなって、思ったから。
親友の好きな子ってのは、俺の中で恋愛対象からはずされていた。
「康平ねぇ・・・・・・康平じゃだめなんだよ。あいつは僕を意識しすぎる。
あいつにはあいつのよさがあるのに、全然それに気づかないで、
僕が未来に接していたようにしようって心がけて・・・で、失敗してる」
「ひでぇ・・・そこまで言わなくても」
「事実だから、仕方ないさ。それに、未来が康平のこと男としてみてないからね
康平には可哀想だけど」
確かに、そういわれればそうなんですがね・・・
「僕はね、未来が可愛いんだよ。だから、心配なんだ・・・
誰か、未来を任せられる男がいればいいんだけど」
寂しそうに微笑む和希さんは、どこか儚げで、このまま消えてしまいそうだ。
「そこで、君なんかどうかなってこと」
「はぁ?俺?」
「うん、僕は結構君が気に入っているんだよ。
君なら安心出来そうだしね」
ニコニコニコニコ、なんか嘘っぽい笑顔ですよ、和希さん・・・
「からかってるんっすか?・・・・」
「まさか!本気さ。僕もいつまでもこの状況じゃいられない」
「成仏するんですか!?」
ちょっと嬉しい。
「まだ、先のことだよ」
俺の心中を読み取った和希さんが、ニヤリと口の端をあげた。
この人は・・・・・・・・俺をからかうのを生きがい(幽霊だけど)にしているのか?
和希さんは、良い人だけど・・・・良い人だけど・・・・
一緒に居るとどうも、脱力感が拭えない。




俺は今、未来の提案で桜の丘に居る。
夏も本番の、この時期
春の散り行く桜の儚さと違う、青々とした緑をたたえる力強い大木。
同じ木なのに、こうも印象が違うと
この丘が同じ場所とは思えなくなるな
「ごめんね、堂本君まで連れてきちゃって」
緑の下で、言葉とは裏腹の晴れ晴れした笑顔で未来がいう。
子供みたいに無邪気な未来は、スカートを履いているくせに
ためらいも無く、桜の下で寝そべった。
今日の未来は、なんだか元気がない。
普段より、よく笑うし、よく話す。
でも、どこか上の空だった。
和希さんの様子もどこかおかしい。
未来が寝そべったのをみて、はっと息を呑み、辛そうな顔をしたのを、
俺は見逃さなかった。
「ここでね。丁度今私が寝ている場所で、
お兄ちゃんは永遠の眠りについた・・・今日ね・・・お兄ちゃんの夢をみたの・・・」
寂しげな囁き。
それで元気がなかったのか。
「どんな夢みたんだ?」
未来の口からは、たまにしか兄の名前はでない。
でも、どんな時も思っているんだろうなってのは感じる。
和希さんを見ても分かる。
とても仲の良い兄妹だったんだろう。
「迎えに来てくれる夢・・・あ〜あ、迎えに来てくれないかな」
「ばっか、何言ってんだよ、お前」
「私ね・・・・お兄ちゃんのこと好きなの・・・男の人として
そう気づいた時には、お兄ちゃんは死んじゃってた。
バカよね、私・・・居なくなってから気づいても遅いのに」
未来の告白に、少し驚きはしたが、血が繋がってないってのは聞いていた。
和希さんはいい男だし、かなり未来に甘かったんだろう。
好きになるな、ってほうが無理だ。
「どうしてもね、伝えたいの。大好きって、愛してるって・・・
だから知りたい・・・お兄ちゃんがどう思ってたのか・・・
ごめん、何言ってるんだろうね。こんな事言われても困るよね」
勢いをつけて起き上がり、膝を抱えて微笑んだ未来の顔は
少しつつけば泣きだしそうだ。
「お前の傍にいるよ、和希さんは。そういう人だろ
傍に居て、ずっとお前が幸せになれるように祈ってる人だよ」
事実、ついさっきそう言っていた。
「堂本君に、何が分かるの・・・」
こちらを睨んだ未来の瞳から、涙がこぼれている。
え?地雷踏んじゃった?
「お兄ちゃんの事、知らないくせに!
会ったことも無いあなたが、どうして分かるの?
好きな人に会えない気持ちがどうしてわかるの?」
堰を切ったように、嗚咽交じりの怒りが俺にぶつけられた。
知ってるんだよ、今もここにいるんだよ。
そういってやりたいけど、和希さんは黙ったまま
悲しそうにこちらを見ているだけだった。
未来に何かあれば、見えなくても感じ取られなくても傍に居たいからと
抱きしめている彼が、今は動こうとしなかった。
「愛しているなら・・・少しでも女の子として愛してくれているなら、
迎えにきてって・・・何度もこの木の下でお願いした。
妹としてでもいいから、迎えに着てってお願いしたの。
それが出来ないなら・・・せめて・・・姿を見せて・・・声を聞かせてって・・・」
「未来・・・」
いつも大人しい彼女の激情に圧倒され、俺は何もいえない。
よくこの丘に来るのは知っていた。
でも、そんな事考えていたなんて、ちっとも知らなかった。
「夢の中で、お兄ちゃんがどんどん遠くに行ってしまうの。
待って、て言っても、離れていくのよ・・・お兄ちゃんの姿が・・・
もう2年経ったわ。この桜も2回咲いて、散っていった・・・
うちの中から、お兄ちゃんの気配がどんどん消えていくの・・・
・・・いつか、私もお兄ちゃんの年を追い越して、年を取って・・・それで
忘れていくの?記憶の中のお兄ちゃんも曖昧になって・・・声も思い出せなくなって・・・
そんなのいや!絶えられない!」
泣きながら一気にまくし立てて、未来は丘を駆け下りていく。
「未来!」
彼女の名を呼んだのは、和希さんだった。
俺にはこんなにも鮮明に聴こえる声を、彼女は二年間失っていたんだ。
そして、これからも・・・
小さくなっていく未来と、それを追う和希さんの姿を見ながら、
俺は、何も出来ずにただ立ちすくんでいた。




悩んでいる時は、とりあえず筋トレ!
これは俺の決まりごと。
腹筋を繰り返す。
汗がだらだらと、額から、背中から滴って、
いつもならこれくらい疲れたら、いい感じに寝られた。
けど今日は、未来の叫び声が耳を離れない。
『堂本君に、何が分かるの・・・』
うん、わかんないよ。
全然、お前の苦しみとかって、わかってやれないよ。
けど、お前が苦しい分、それ以上に和希さんだって苦しんでるんだ
お前は見えないかもしれないけど
手に届く距離にいても、触れ合えない和希さんの苦しみ。
未来の今日の告白をきいて、俺は初めて理解した。
和希さんが、なんで未来に自分の存在をかくしたかったか・・・
傍にいる、何ていわれたら、未来は速攻で死を選びかねない。
「せつないねぇ・・・」
和希さんも、未来のことを妹以上に思ってたのかもな。
切な過ぎる・・・
俺は神様なんて信じちゃいない。
祈ることなんて、滅多に無い。
初詣くらいなもんだ。
でもさ、本当に神様がいるんなら訊いてみたい。
何で、和希さんを死なせちまったのか。
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◆◆◆◆◆◆◆◆一言◆◆◆◆◆◆◆◆

お兄ちゃん幽霊にしちゃったよ!おいおい(笑)
ごめん、しかも、続く・・・(^^;
いや、続きものにする気はなかったんですが、
この話の続き・・・まだ自分の中で迷ってまして
選択肢は2つ・・・どうしよう・・・
ところで、私の書く堂本君は、どうしてこんなにオバカだんだろう?
すっごく書きやすいのですが・・・
堂本君萌えな方、すみません(汗




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