そこに存在するもの 2




翌日、いつもの様に未来を迎えに行った。
未来は、毎朝時間通りに玄関先に現れる。
だけど、今日は居なかった。
チャイムを鳴らしても出てこない。
電話をしても出ない。
逃げたな・・・うん、完璧逃げられた。
逃げられましたよ、おい。
そりゃあ、確かにさ、俺は無神経だったかもしれん。
俺の見えてる和希さんは、未来には見えないわけで、
未来の知ってる和希さんを、俺は知らない。
だからさ、未来の苦しみなんて全然わかんらんよ。
・・・ちくしょーーー、何で俺なんだよ。
確かに仲の良い兄妹だってきいてたさ、
でも、未来が和希さんの事を好きだってのは
聞いたことねぇぞ。
和希さんだって、未来の事絶対妹以上に思ってる。
で、その事実を知ってるのも、多分俺だけ。
和希さんの幽霊が見えるのも、多分俺だけ。
俺なんかしたか?
そんなん、しらねぇーよ!!
って、叫んで放っておきたい。
・・・いや、でも、違うだろ。俺。
俺だけだから、俺しか知らない事だから。
俺しかやれない事ってある。
多分、きっとある。
未来が動き出せるように、和希さんが安心できるように。
まあ、だからと言って、和希さんが言うように、
未来と恋人になるってのは、保留だな。
とりあえず、和希さんと話してみたい。
あの人が何を思っているのか知りたい。
幽霊と話してみたいなんて、思う俺って、ちょっと変かねぇ。
未来は真面目だから、一人でも大学に行っただろうか。
それとも、桜の丘にいるんだろうか。
俺の足は、桜の丘に向っていた。
今から行くと、遅刻覚悟なわけだが、いつもの事だ。
勉強よりも大切なものって、きっとあるだろ。
お人よしなのかねぇ。




「言う気かい?」
俺の予想ビンゴ。
俺って偉い。
やっぱ、桜の丘にいたか。
桜の丘への途中。もう少しで桜が見渡せるって場所に
和希さんはいた。
きっと未来は、あの木の下にいるんだろう。
「和希さんは、どうしてほしいんっすか?」
俺の言葉に、和希さんは悲しげに微笑んだ。
「知って欲しいって、思うこともあるよ。
あの子の傍にいるんだって、伝えたいと思った事は何度もある。
だけど・・・それを伝えてどうするんだい?
今の僕には、あの子を抱きしめてあげる事は出来ない。
愛していると、伝える声さえ持てないんだ」
未来を悲しませるだけだ。
寂しげな幽霊は、深いため息をついて、空を仰いだ。
俺にとっては、こんなにリアルな人だけど、
他の誰にも気付いてもらえない人。
なぁ、和希さん。ごめん、俺あんたの寂しさなんて
全然理解してなかったんだな。
「俺が間に立てばいいじゃないですか。
俺、いいっすよ。それで、未来が笑ってくれるなら」
和希さんが、安心できるなら。
2人とも、なんでそんなに悲しいんだよ。
「・・・ホントに君は・・・いい奴だね」
驚いたように目を見開いた和希さんは、泣きそうな悲しげな顔で笑った。
俺はそんなにいい奴じゃない。
利用されるのなんて、本当は大嫌いだ。
だけどさ、こんな状況の2人を放って置けるか?
「俺、いい奴じゃないっすよ。ただ俺しか出来ない事があるのに
それを無視するなんて、後味悪いじゃないっすか」
「いい奴だよ。君の存在には助けられてる。
そうじゃなきゃ、2年もこの状態でいられたわけない」
弱弱しく微笑む和希さん。こんな彼を見たことがない。
「君がいなかったら・・・僕は未来を連れて行ってしまっただろうね」
その言葉は、冗談ではないだろう。
この人は、そんな冗談を言う人じゃない。
「呆れた?」
強い意志をこめて、首を横に振った。
やっぱ、今の状況を変えないとどうしようもない。
「気持ち・・・少しはわかります」
思い出したのは、高校時代。
好きだった子がいた。
でも幼馴染の彼女だった。
あいつのことで、彼女が悩むたびに相談にのって、話を聞いて。
好きだと告げられないまま、友達として傍にいたあの頃。
つらかったけど、あのときが一番幸せだったと思う。
しばらくして、彼女が俺を選んだ後よりは・・・
彼女に好きだと告げられて、有頂天になった俺は
すぐさま彼女と関係を持ってた・・・幼馴染の事なんて忘れて。
そして、予想通りの一波乱。
結果的に、俺は友人も好きな人も失ったんだ。
彼女の事を、さらってしまいたかったけど、
彼女とキスするたびに、幼馴染の顔が浮かんできて
好きだという気持ちと、罪悪感が混在した時間。
逃げて、逃げて。大学も離れた場所に移った。
あれ以来、あいつらと連絡は取ってない。
ああ、俺が未来のことを女としてみなかったのは、
あの事があったからなんだ。
初めて自覚したけど・・・最初からコウの好きな子だって聞いてたから。
『俺の幼馴染、今度紹介する。可愛いけど、惚れるなよ』
なんて、紹介される前にコウに釘を刺されたんだっけ。
俺ってば、単純なのかね。
「未来は、木の傍にいるよ。話す?今の状況だと
僕の事を話したって、信用してもらえないだろうけど」
「和希さん次第です」
「・・・僕も、どうして欲しいのか、よくわからないんだ」
苦しいねぇ、和希さん。
ふっと見上げると、青い空の向こうに桜の木が見えた。
儚さはない、青々とした緑が力強い。
あの木みたいに、真っ直ぐ伸びる事が出来たのなら
俺も、和希さんも、未来も、誰も悩まなかったのかもしれない。
でもさ、人間ってそういうもんだよな。
「俺もわかんねぇっす。でも未来とは話さないと
昨日泣かしちまったから」
俺の言葉に、和希さんはまた寂しげに微笑んだ。
「うん、そうだね」
その言葉と同時に、和希さんの姿が風の中に溶けるようにして消えていった。
幽霊・・・だもんな・・・
うん、そういうことも出来るだろうけど
和希さん・・・真面目な時になんだけど、やっぱ怖いっす。




件のお姫様は、桜の木の下で寝転がっていた。
昨日と同じ場所に。
和希さんが息を引き取ったという場所。
未来の水色のスカートの裾が風に揺れている。
目を瞑って何を考えている?
さっきまで話していた和希さんの姿は、今どこにもない。
どこかで見ているのか、それとも離れてしまったのか。
話すか、話さないかは、俺の判断にゆだねるってことか?
おいおい、ちょっと責任重大すぎるっすよ。
「・・・未来・・・」
なんて声をかければいいのかわからなくて、とりあえず名前を呼んでみる。
無視されたらそれまでだけど、俺の呼びかけに、未来は閉じていた瞼を開いた。
大きくてキレイな瞳が、俺を映している。
上半身を起して、彼女はこちらを向いた。
その表情には、すごく覚えがある。
大学に入ってすぐの頃、そんな顔をしていたな。
陰のある表情。
そんな顔させたくなくて、俺結構がんばってたのになぁ
今は俺がそんな顔させる原因を作ってるのか。
「堂本く・・・ん・・・昨日は、ごめんなさい」
「寝てないのか?」
顔色が、かなり悪い。目も赤く腫れている。
「寝るのが怖いの・・・またお兄ちゃんの夢を見そうで
ごめんね、昨日はあんな事言ったりして」
今日の未来は、いつにもまして儚げだった。
そう、さっきの和希さんみたいに、風に溶けてしまうんじゃないかって
錯覚しそうになる。
「いいよ、気にすんな。俺こそごめんな、無神経な事言った」
とりあえず、未来の傍に腰掛ける。
芝生の感触がひんやりとしていて気持ちいい。
「初めてよ、あんな事人に言ったの。私って堂本くんに甘えちゃってるみたい。
ごめんね、迷惑でしょ」
自嘲的な笑みは、自分を責めている証拠だ。
俺は、そんな顔させたいわけじゃない。
笑っていてほしいんだ。
「気にすんな。俺はお前の事大事な友達だと思ってる。
だからさ、愚痴りたい時は俺に愚痴れよ。何でも聞いてやる」
利用されても構わないと心底思う。
俺は和希さんも、未来も好きだよ。
コウに対して、罪悪感がないわけじゃない。
でも、いいよな。これは恋愛感情じゃない。
ぶっちゃけ同情なのかもしれないけどさ。
「堂本君は、優しいね。だから言えちゃうのかな」
「まあな、頼りになるだろ?」
笑って欲しくて、冗談めかしてそういったのに、
未来は微笑みながら頷いた。
「ホントに、頼りにしてる。お兄ちゃんとは違うけど、
堂本くんといると、とっても安心できるんだ。
ねえ、私がお兄ちゃんを思う気持ちって、間違ってる?」
「好きな気持ちに、間違いなんてあるかよ」
嘘だな・・・なんて思っても、未来には言えない。
俺はよく知ってる。好きになっちゃいけない相手がいるって事。
間違った恋愛感情ってのがある事。
けどさ、これ以上未来を追い詰めてどうしようってんだよ。
「お兄ちゃんの傍に行きたいって気持ちは?」
そんな目で見るなよ、すがるような目でみるな。
俺、間違ってないって言いそうになる。
後追いなんて、愚の骨頂だと思ってるのに、
今の未来を見ていると、間違ってないって、言いそうになる。
だから、俺は何も言えなかった。
ただ黙って未来をみつめる事しか出来ない。
力になるなんて言ってるくせに、何もいえないじゃん俺。
頼りになんてなってない。
「・・・ごめんね、馬鹿なこと聞いてる。お兄ちゃんにも自分の分まで生きろって
言われたのにね・・・私ってどうしてこうなんだろ」
「・・・幸せになれるよ、お前は。お前はいい奴だから・・・きっと幸せになれる」
そんな言葉が欲しいわけじゃないだろう。
でも、どんな言葉が欲しいのかもわからない。
俺がもっと器用だったら、大人だったら、
もっと気の利いた言葉も言えるんだろうけど、俺はガキで気も利かなくて
ただ未来の傍に居る事しか出来ない。
「ありがとう・・・」
お礼なんていらない、だから笑顔が欲しい。
そんな悲しそうな笑顔じゃなくて、心の底からの笑顔。
周りの人間には、笑っていて欲しいんだ。
これは俺のエゴだけど・・・
和希さんにも、未来にも笑っていて欲しい。
和希さんは幽霊だけどさ。
ああ、生きているうちに会いたかった。
そしたら俺、あの人のこと兄貴みたいに慕ってたんじゃないかな。
和希さん、俺もう言っちゃってもいいかな?
未来に、あんたが傍にいるって伝えてもいいかな?
今の俺には、それが最良の道じゃないかと思えるんだ。
確かに今の未来は、和希さんが傍にいるって聞いたら
後を追いかねないけど、だけど・・・
俺が見てるから、俺が支えになるから。
2人の間に立って、2人が笑えるようになるまで頑張るからさ。
だから、言ってもいいよな。
このまま2人がすれ違って行くのを黙ってみてなんかいられねぇよ。
「未来・・・あのさ・・・」
なんて言えばいいんだろう、どこから説明すればいいんだろう。
お前の傍には、和希さんがいる。
言葉は不便だ。
俺は不器用だから、上手く説明出来ない。
言葉なんて使わないでも、気持ちが伝わるなんて
都合のいいものはこの世に存在しないんだけどな・・・

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◆◆◆◆◆◆◆◆一言◆◆◆◆◆◆◆◆

先生!つらいです!!!
もう、ビックリするほどつらいっす!!
うわ〜ん、堂本くんでシリアスつらいよぅ、ママン(涙
明るい堂本くんを求めていた皆さん
ごめんなさい、この話は全般的にシリアスです。
シリアスか?シリアスなのか?
まあ、テーマは重い・・・つもり(汗
あ〜まあ、またこんなところで続き、ええ続きます
今ですね、この話って2通りのラストを考えていて
どうしようかな〜と思っているわけですが
まあ、最終話だけ分岐になるかもしれません。
ええ、どの分岐かはまだ言いませんが(バレバレだろ
しかも、これ、プロット書いてません(爆
脳内設定のみです。
なぜならば、どっちのラストに仕様か悩んでいるから
なので、分岐するとしたら、最終話だけと書いたけど
違うかも〜自分の書いている話の中で
一番予想がつかないです(笑)






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