そこに存在するもの  10




「愛してる」
言葉と同時に、柔らかい唇にふれる。
かするだけの優しいキスなのに、何故これほど切ない気持ちになるんだろう?
俺が俺として、初めて未来にするキスだからだろうか?
愛してる。
この気持ちは、嘘じゃない。
だから、未来・・・




「愛しているよ、未来」
和希さんは、同じ言葉を何度も繰り返した。
今まで伝えられなかった分の気持ちを、精一杯伝えようとしているのがよくわかる。
俺の声のはずなのに、和希さんの声に聞こえてくるのは気のせいだろうか。
ずっと、ずっと、未来を愛していた和希さん。
誰よりも大切な女性として、未来を守っていた和希さん。
和希さんと離れて、やっと気持ちに気付いた未来。
2人の心が、通じ合ったんだ。
問題は、死が2人を別ってしまった事。
俺の体を借りて、未来を抱きしめる腕を手に入れた和希さんの
切なさと喜びと悲しみが、伝わってきた。
それは体を共有しているからだろう。
見たこともない小さな未来が、頭の中を過ぎる。
一年が一秒で過ぎる勢いで、記憶の中の未来は成長していく。
やせっぽっちで目の大きな幼い女の子が、ランドセルを背負って、制服を着て。
どんどん綺麗になっていく。
まぶしいくらいに・・・
その顔はいつも笑顔で、その瞳はこちらを信頼しきっていた。
甘えん坊で、ちょっと我侭で、だけど優しくて、素直な少女。
愛しい。
素直にそう思った。
とても大切だった。
その笑顔を守る為なら、自分の気持ちすらも捻じ曲げてしまえるほど
未来を愛していた。
ああ、これは和希さんの記憶だ。
俺は、こんな未来を見たことがない。
記憶の中の未来は、和希さんだけに見せていたのであろう顔で、笑いかけてくる。
愛しくないはずがなかった。
2人はこんなに惹かれ合っていたんだ。
頭では、理解していたさ。
未来も和希さんも愛し合ってるんだって。
だけど、こうやって記憶を垣間見ると、なおさら思ってしまう。
和希さんが死んで良い訳ない。
この人は、生きて・・・未来の傍にいるべきだったんだ。
「いつの間にか、お前を一人の女の子として好きになっていたよ。
どんどん綺麗になっていくお前がまぶしくて・・・愛してた。
お前が僕を兄として慕ってくれていたから、伝えることは出来なかったけどね」
その存在を確かめるように、指で未来の頬を撫でながら和希さんは囁いた。
体を共有している今、はっきりと和希さんの気持ちが伝わってくる。
この人は、こんなにも未来を愛している、と。
「・・・ごめんなさい。お兄ちゃんがいなくなって、初めて気がついたの。
私もお兄ちゃんを愛してる・・・大好き」
指に頬を寄せて、体を持たせかけてくる未来の重さが幸せだった。
抱きしめられる。
この体があることが、嬉しかった。
馬鹿だ、とは思うさ。
だけど、今の俺は、和希さんでもある。
ひとつの体に、二つの心。
そして俺は、和希さんの心に引きずられてる。
わかっちゃいるんだ。
だけど、でも・・・未来を愛しいと思う気持ちは、もう止められない。
この気持ちが、和希さんのものなのか、俺のものなのか・・・どちらでも構わない。
未来を幸せにしたい。
それだけが、願い。
それは祈りにも近い願望。
世の中の辛い事、汚いところ、全てから未来を遠ざけたかった。
彼女の笑顔が曇る事の無いように。
「愛してる」
自然と口をついて出た言葉は、和希さんの物なのか、俺の物なのか・・・
柔らかな唇を指でなぞると、未来はぴくりと体を振るわせた。
化粧をしているわけでもないのに薄紅色に色付いた唇は、温かく柔らかい。
少しだけ開いた唇が、キスを誘っているようだった。
抗う気はない。
ただ促されるまま、唇を重ねる。
それはとても神聖な儀式のようだ。
何度も何度も、その温かさを確認するようにキスを繰り返すと
次第に未来の唇から、甘い吐息が漏れ始める。
はじめてみる女の顔をした未来に、気持ちも昂った。
自分の物にしたい。
キスをする場所を唇から、頬、首筋へと移動していく。
細い体を抱き寄せながらする行為は、動きを制限されるけれど
この体から離れることは苦痛でしかなく、少しの煩わしさすらも幸せに感じられた。
「愛してる」
もう一度、耳元で囁く。
目を閉じたまま、うっとりと身を任せる未来の薄手のパジャマのボタンをはずすと
白くきめの細かい胸元が露わになる。
おびえさせないように、優しくそのふくらみに手を当てると、細い体が小さく震えた。
「んっ・・・」
愛しい彼女の唇から、甘い吐息が漏れる。
「本当に愛しているんだ」
何度伝えても伝えきれない思い。
言葉なんかじゃ言い尽くせない想い。
少しでも、未来にわかってもらいたかった。
彼女の事をこんなにも求めているんだと。
すべすべとした手触りのいい背中に腕を伸ばし、ブラのホックをはずすと
豊かな胸が露わになった。
「・・・はずかしい・・・」
真っ赤な顔をして、顔をそらす未来が可愛らしい。
ふっと笑みを漏らすと、そのふくらみに唇を寄せる。
「やっ・・・」
小さく呟いた未来の唇から、吐息が漏れる。
未来の小さな動きにあわせて、柔らかな胸が揺れる。
逃がさないように、その動きを追いながら、
すでに硬くなっているその先端を口に含んだ。
「あっ・・・んっ・・・」
力の抜けた未来を、そっとベッドに寝かせると
柔らかな絹糸のような髪が、ふわりとベッドに広がる。
柔らかな感触を楽しみながら、その髪に触れた。
髪の一本から、指の爪まで、全てが愛しい。
こんな気持ちになったのは、初めてだった。
彼女の白い胸元に、何度も口付けて所有の証を残していく。
最初は円を描くようにして、敏感な突起を辺りを触る。
唇の動きに合わせて彼女の息遣いが徐々に荒くなるのがわかった。
快楽が彼女を支配していく。
そして、快楽に支配される彼女に、また支配される自分が居る。
まるで媚薬のような甘い彼女の声。
好きだ。
もう止められなかった。
ただ彼女を抱きたかった。
ボタンをはずした上着を腕から剥ぎ取り、続け様にズボンもひき下ろす。
未来のわずかに紅潮した白い脚が、外気に晒される。
室内光の青白さが、その肌をさらに輝かせて見せた。
扇情的な眺めをひとしきり見つめて後、その内股に手を這わせる。
「んっ・・・」
性急なのはわかっているさ。
だけど、暴れ狂うようなこの欲情を沈めるために、
未来を少しでも感じていたい。
「綺麗だ・・・お前の全てが愛しい」
囁きに、未来は薄目を開けてトロンとした眼差しで俺をみた。
「私も愛してる・・・お兄ちゃん」
それは冷や水を浴びせられたような、一言だった。
そう、今の俺は未来にとって和希さんでしかない。
俺は、今・・・やっと未来のことが好きだと気がついた。
この気持ちは、和希さんの気持ちに触発されたものなのかもしれないけど
だけど・・・俺は未来の事が好きだ。
やっと・・・気がついたんだ。
気がついた気持ちの赴くまま、未来を求めた。
未来も抵抗しないで受け入れてくれたつもりになっていた。
けど、未来が受け入れているのは、俺じゃない。
俺の中に居る和希さんなんだ。
未来の瞳には俺が映っているはずなのに、未来が見ているのは俺の向こう側。
目では感じる事の出来ない、最愛の男。
俺の心は、まるでしぼんだ風船のように微動だに出来なかった。
でも、俺の体は俺の意思とは関係無しに未来を求めていた。
動かしているのは、和希さん。
未来が求めているのも、和希さん。
俺は未来を抱きたい。
だから、このままでいいのかもしれない・・・
好きな女を抱ける。
それは幸せな事だ。
このまま、和希さんに身を委ねれば俺の願いは叶う。
だけど・・・本当にそれでいいのか?
止ったままの俺を取り残し、目の前では情事が続けられる。
未来の吐く甘い吐息もそのままに・・・
「あっ・・・やぁ・・・お兄・・・ちゃん・・・だ・・・めぇ・・・」
ショーツ越しに秘部をなでられ、未来が体をくねらせる。
俺の体の下で・・・
すでに濡れたそこの感触は、温かく湿っていた。
それすらもわかるのに・・・ここに俺は必要ない。
「可愛いよ、未来。大好きだよ」
耳元で囁くと、未来の腕が俺の首に回って来て抱きしめられた。
「お兄ちゃん。お兄ちゃん・・・未来も大好き・・・」
和希さんへの愛の言葉を囁く未来。
いやだ・・・こんなのいやだ。
確かに、俺は2人の幸せを願ったさ。
未来が笑っていられるのならいいと思った。
だけど・・・好きな女が他の男に抱かれているのを見せられるなんて嫌だ。
体は俺の物だ。
だけど、未来が求めているのは和希さん。
俺じゃない、俺じゃないんだ。
俺の手が和希さんの意思で動く。
未来のショーツをひき下ろそうと・・・
ダメだ。
やめてくれ。
お願いだ。
嫌だ。
「俺だって未来が好きなんだ!未来を抱く時は俺の意思でだ!」
そう強く思ったとき、ふっと体が軽くなるのを感じた。
体の中を何か冷たいものが走り去っていくような感覚がして、
どっと力が抜ける。
「・・・堂本・・・くん・・・?」
ついさっきまでのうっとりした表情とは全然違う、驚いた顔をして未来がこちらを見ている。
「・・・俺・・・戻ったのか・・・?」
首に回されていた未来の腕が、力をなくしぱたりっとベッドに落ちる。
その顔がくしゃりっとゆがむと、頬を涙がつたう。
「・・・お兄ちゃんじゃなくなったんだね・・・」
泣き崩れる未来の体から離れ、辺りを見回すとベッドの傍に和希さんが立っていた。
「ごめん・・・和希さん、未来・・・」
「誤る事なんかない。悪いのは僕だよ。君の体を勝手に使ってしまった・・・ごめん。
けど・・・やっと未来の事を好きだと言ってくれたね。
安心した、これで未来を任せられる」
和希さんは沈痛な面持ちで、無理やり唇の端を吊り上げ笑顔を作る。
「俺は未来を好きだ。だけど・・・俺・・・あんたも好きだよ!
だからごめん。俺・・・」
「ありがとう・・・でもね・・・僕ももうそろそろ眠りたいんだ」
浮かんだ笑顔は、優しい兄のものだった。
未来を諦めるっと、言っているのだろう。
「・・・和希さん・・・?」
「今まで本当にありがとう。未来を頼むよ、堂本くん」
笑みを浮かべたまま、和希さんの姿が空気に溶けていく。
「和希さん!!」
呼びかけに、答える声はない。
今までだってこうやって消えていく事はあった。
だけど、呼べばすぐに現れてくれた。
「和希さん!!どこ行ったんだよ?・・・どこ行くんだよ!!
まだ消えないでくれ・・・お願いだから!!」
ベッドから立ち上がり、宙に向かって叫ぶ。
答える声はなかった。
「・・・どうしたの?お兄ちゃん、消えちゃったの?」
ベッドの上で、はだけたパジャマの襟を直しながら
未来がきょとんとした顔でこちらを見ている。
「堂本くん?」
答えられなかった。
消えたんだ・・・和希さんは消えた。
眠りたい・・・そう言ったんだ・・・
「堂本くん!?」
何かを感じたのか、切羽詰った声が俺を呼ぶ。
揺れる瞳から目をそらし、足元を見つめる。
俺が・・・拒絶したからなのか?
「いや・・・お兄ちゃん!!お兄ちゃん出てきて!!
見えなくてもいいの!傍にいてくれるだけでいいの!
だから・・・出てきてぇ!!」
静かな部屋の中、泣き叫ぶ悲痛な声が響く。
どうする事も出来なくて、俺はただその体を抱きしめた。
強く腕に力を込めて。
未来は、さっきのように俺に身を任せることはしない。
未来が許したのは、和希さんだったからなんだ。
泣き叫び暴れる未来を抱きしめながら、強く感じていた。
泣かせたかったわけじゃない。
消えてほしかったわけじゃない。
その日を最後に、俺が和希さんを見る事は無かった。




強く願った。
みんなの幸せを。
その気持ちは嘘じゃなく、本心からのものだった。
だけど俺が選んだのは・・・自分の気持ち。
今でもあの日のことを後悔しない日は無い。



【続】
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◆◆◆◆◆◆◆◆一言◆◆◆◆◆◆◆◆

泥沼ですね。
はい、そうです。
もうこの話がどのようにして終わるのか
自分でもわかりませーん。
しかし、これ以降兄がかけませーん。
うわーんヽ(`Д´)ノ ウワァァァン
しかし、このシーンを思い浮かんだとき
ギャグ調だったとは、口が裂けてもいえない。
「いや!やめて!和希さん!やめてくれぇぇー!!」
と、堂本君が悲痛な叫びを上げる笑い話だったとは言えない
(めちゃめちゃ言ってるじゃーん)






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