そこに存在するもの3




「信じないかもしれないけど、俺…和希さんを知ってる」
幽霊が見えるなんて、多分信じてもらえない。
だから、慎重に言葉を選んだ。
知ってるのは事実だ。
「お兄ちゃんと会った事あるの?今までそんな事言わなかったじゃない」
「うん・・・ごめん、ちょっと言い辛くて・・・で、あのさ。
俺、和希さんの気持ち聞いてっからさ・・・あの」
何て言う・・・なんて伝える気だ、俺。
和希さんは、未来のこと愛してる。それはわかってるさ。
でも、俺の口からそんな事言っていいのか?
俺が伝えてもいい言葉なのか?
「堂本くん?」
未来が訝しげに俺を見てる。
だよな、こんな突然意味の分からない事いいだしてんだから
でも、でも・・・え〜い!!腹を括れ!堂本広!
俺しか伝えられる人間はいないんだ。今は言うべきだろ。
多分、きっと・・・だから、迷っているヒマなんてねぇ。
「和希さんは、お前の事愛してるよ。妹以上に思ってる。
だから、お前に幸せになって欲しいんだよ。そんな辛そうにすんなよな」
一気に捲くし立てた。なんで俺がどきどきしてんだ。
まったく・・・
「・・・本当に知ってるの?」
怒ったような疑ったような表情。眉根を顰めてる。
声の調子もいつもより低い。
怖いよ・・・未来さん・・・
「ホント!本当に知ってんだって。疑うなよな」
いや、疑うなって方が無理です。俺、怪しい事言ってます。
自覚はあるんだぞ〜!!でもほかに何て言えばいいんだよ。
和希さ〜〜ん、助けてーー。
ああ、幽霊に会いたいやら、話したいやら、
あまつさえ助けを求める俺って、どうなのよ?
「嘘つき・・・そんな慰めいらない・・・」
未来の大きな瞳から、涙がこぼれた。
泣かせたいわけじゃない、笑って欲しいのに。
追い詰めているのは、俺か・・・
「私は、お兄ちゃんの言葉で、お兄ちゃんの声で聞きたいの。
無理だってわかってるけど・・・だからそんな嘘の慰めいらない!」
未来は、搾り出すような声で叫んで、両手で顔を覆った。
「もういいよ・・・ごめん。つらい役目を押し付けた」
ふわりと風が動いたかと思うと、未来を包み込むようにして出てきた幽霊。
和希さんは、感じてもらえる事のない腕に未来を抱きしめた。
優しく辛そうな微笑みで。
未来を包む腕、未来だけを見つめる瞳。
「でも、和希さん・・・俺、本当のことしか言ってない。
だって、あんたは未来のこと好きじゃないか」
と、叫んで気が付く。はい馬鹿、俺の馬鹿。
未来いるのに、何叫んでんだ。
案の定、「和希さん」という言葉に、未来は弾かれたように顔を上げた。
「な、に・・・?何を言っているの?」
涙のこぼれる瞳は、瞬きするせずに俺をみつめる。
助けを求めて和希さんのほうに視線を向けると、
和希さんが、しかたないなぁってふうにため息をついて頷いた。
話していい・・・って、ことだよな。
「未来・・・俺、今からすっげぇ変な話するけど・・・信じてくれないか・・・」
そういって、未来の頭を撫でた。
和希さんの腕をすり抜けた俺の手は、感じるはずのない
和希さんの温もりを感じたような気がした。
「俺、和希さんが見えるんだ・・・いるんだよ、お前の傍に」
真剣に聞いて欲しい。
驚きに見開かれた未来の目は、こぼれるほど大きくて、そして綺麗だ。




信じてもらえない・・・とは思ってましたよ。
だけどね、無言で帰ることはないじゃないか。
またこのパターンですか!!
ちょっと落ち着けよな、未来。
俺は今までの、2年前からずっと見えてた和希さんの話を
なるべく丁寧に、なるべく分かりやすく未来に伝えた。
始めて和希さんを見た、あの春先の桜の木の下での事。
始めて話をした日の事。
未来の話を色々してくれる和希さんの事。
未来をいつも包んでいる和希さんの腕の事。
一生懸命伝えたつもりだった。
その間、未来は何も言わずに無言で俺の話に聞き入っていたんだ。
相槌を打つ事もなく、ただ黙った動かずに。
俺は話しながら、未来を見たり、和希さんを見たりしていたが
和希さんも何も言わなかった。
ただ、話を終えた後、しばらく沈黙が流れたかと思ったら
おもむろに未来が立ち上がった。
泣いてないけど、虚ろな表情で・・・
何も言わず、振り返りもせずに桜の丘を降りていく。
声をかけても、聴こえないのか、聴きたくないのか
黙って降りていった。
『ごめん』
一言だけあやまって、和希さんも未来の後を追う。
俺は、悪い事をしたのだろうか?
迎えに来て欲しい、そう願っていた未来の気持ちを踏み躙ったんだろうか。
とりあえず、今、俺は未来の家の前に立っていた。
未来が馬鹿なことをしないように、
見張っている義務が俺にはあると思ったから。
家の外にいて、見張ってるもくそもないが・・・
でもなんか、ストーカーっぽいっす、俺ってば。
チャイムを押す勇気がなくて、うろうろと玄関の前にいる
二十歳を過ぎた男なんて、ストーカー以外の何に見えるんだ。
近所の人に不振がられませんように・・・
もう何時間くらいここにいるだろう。
太陽はもうすぐ傾き始める。
今が冬でなくてよかった、冬だったら凍えてたぞ。
今日は学校さぼっちまったな。
ま、別にいいけどな。
玄関の階段に座って煙草に火をつけた。
普段は滅多に吸わないけど、イライラしちまうんだからしかたねぇ。
ここに居たってしょうがないのはわかってるけどさ。
それ以外に、何が出来るっていうんだ。
携帯を取り出して、未来の番号を押そうか、
それともこのままそっとしておいた方がいいのか。
何度も何度も繰り返す自問自答。
俺ってば、無力だね。
「和希さん・・・あんたならこんな時、どうするんだ?」
件の幽霊は、今何を思っているんだろう。
未来を悲しませた俺を怒ってるだろうか。
でも、最後にあの人は『ごめん』って言った。
何を指すごめんなのか、俺にはわかんねぇけどさ。
「なあ、和希さん・・・」
俺はどうすればいい?
「なんだい?」
「うぉぉ!!!」
突然話しかけられて、心臓が飛び上がるほど驚いた。
っつか、何でこの人はもっと普通に出てきてくれないんだ!!
俺を心臓発作でお仲間にする気か!?
「ひどいなぁ、そんなに驚かないでよ、傷つくなぁ」
おかしそうに笑いながら、和希さんは俺の隣に腰掛けた。
「驚きます。驚きますって」
驚いた拍子に落としちまった煙草を靴でもみ消した。
あ〜あ、まだ火をつけてすぐだったのに・・・
「さっきは、ごめん。君、ずっとここにいたんだ」
穏やかに微笑む和希さんに、少し苛立ちを覚えた。
あんな事あったのに、帰れるわけないじゃねぇか。
「あの、未来は・・・」
何よりも尋ねたかった事を口にする。
「寝てるよ・・・あの後すぐ、ベッドに入っちゃってね」
今まで、ずっと未来の寝顔を見ていたんだろうか。
声をかけたかっただろうに・・・いや、話しかけてたかもしれないな
未来に届かない声で、届かない言葉を
「まだ混乱してるかもしれないけど、大丈夫だよ。あの子は・・・」
和希さんは目を伏せて、何かを思い出しているようだ。
何かって、未来のことに決まってるけどさ。
「すみません。俺、何の役にも立ってない」
「君のせいじゃないさ、何で君にだけ僕が見えるのかはわからないけど
君には本当に感謝してるんだよ」
笑顔が切ないよ、和希さん。
俺、何が出来るかな・・・やっぱなんも出来ないのかな。
俺が泣いたらいけない、泣いたらいけないのに
目頭が熱くなった。
今まで生きてて、自分がこんなに情けないって思ったことない。
幼馴染を裏切った時だって、全てから逃げた時だって
こんなに情けない気持ちになったことなかった。
なぁ、俺に何が出来る?
目の前で、こんなに苦しんでいる人がいるのに
その人の苦しみを分かってやれるのは俺だけなのに。
何で俺は、何も出来ないんだ?
「ありがとう、君も休んだ方がいい。今日はもう大丈夫だよ」
皮肉屋で自信家の、いつもの和希さんはそこにはいなかった
優しくて、頼りになって、未来が話してた優しい兄貴だ。
「ごめ・・・俺、なんもできねぇ」
溢れてくる涙をとめることが出来ない。
二十歳過ぎた男が、何で道端で泣いてんだよ。
情けないにも程があるだろ。
そう思うのに、涙が止まらない。
俺が泣いていいはずない。本当に泣きたいのは和希さん、
そして、愛する人を永遠に失った未来。
「ありがとう」
俺より少しだけ背の高い和希さんの手が
俺の頭を優しく撫でた。
勿論感触なんか感じないけど、その優しい熱が伝わってくる気がする。
その温かさが、また俺の涙を誘った。
情けねぇって思うけど・・・思うけど、俺。
ごめん、和希さん
ごめん、未来
俺がこんな奴じゃなけりゃ、もっと上手く立ち回れたら
こんなにつらい思いをさせなかったのに。
俺は恥ずかしい程泣いた。
こんなに泣いたのは、ガキの頃以来ってくらい泣いてた。
そんな俺の頭を、和希さんは黙ったままずっと撫でてくれた。
俺、どうすればいい?
なあ、誰か教えてくれ。



【続】
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◆◆◆◆◆◆◆◆一言◆◆◆◆◆◆◆◆

何も言うまい・・・・・いや、ええまあ、一言
ごめんなさい、短いです(汗
あ〜ん、堂本く〜ん、どうするんですか
そして、兄の活躍を増やせません
っつか、幽霊が活躍も何もないが(笑)
しかし、ホントなんていうか
自分で書いてて思うんだが
このままBLに走りそうなほど、
何故に堂本は兄が好きなのか・・・(悩
ああ、きっとこの話では私が堂本君になりきってるから
私の兄好きが反映してるんだな(死







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