立花和希 堂本広 篠原達也



Web拍手ありがとうシリーズ第二弾
「花火」シリーズ


立花和希の場合



「ちょ、ちょっと待ってよ〜お兄ちゃん」
カコカコと履きかけの下駄を鳴らしながら、浴衣姿の未来が
玄関から姿をだした。
別に離れたつもりはなくて、玄関の外で待っていただけなんだけど、
少し泣きそうな、情け無い顔をした未来が、とても可愛らしい。
「置いて行ったりしないから、ちゃんと下駄を履きなさい。
転んでも知らないよ?」
「うん、ちょっと待ってね」
「ああ、ほら、危ない」
下駄を履きなおそうとして、よろけた未来に腕を差し伸べる。
細くて華奢な体は、重さを感じさせない。
「ご、ごめんなさ〜い」
計算してやっているわけではない、と。
僕はよく知っているのだけど・・・そんな可愛い表情をされたら
注意もできやしないな。
「ありがと」
下駄を履くために、俯いて僕に体を預けていた未来は、
僕の腕から体を離して、ピンと背筋を伸ばした。
僕の見立てた浴衣は、未来を一層綺麗に見せる。
ちょっと、失敗だったかな。
こんな可愛らしい姿を他の男に見せるのはもったいない。
まあ、僕が傍にいれば安心だけど。
「じゃ、行こうか」
「うん!」
未来は、元気よく頷き、僕の腕に自分の腕を絡めてくる。
「えへへ、なんだかちょっと新鮮」
「何が?」
「浴衣姿のお兄ちゃん。はじめて見るもん」
嬉しそうに微笑んで、肩に擦り寄ってくるしぐさは、まるで猫のようだ。
「浴衣で花火を見たいって言ったのは、未来だろ?
お前がそう言うから作ったんじゃないか」
「うん、だから嬉しいの!私の特別な場所で、特別な人と一緒に過ごせるんだもん」
特別な場所・・・桜の丘。
赤ん坊の未来が置き去りにされた場所だった。
「つらくない?」
「え?何が?」
「あまりいい思い出じゃないだろ?あの場所は」
「辛くなんかないよ〜。だって、私があそこに捨てられたのは悲しいけど
でも、そうじゃなきゃ、お兄ちゃんに逢えなかったかもしれないでしょ?
だから、特別な場所なの」
捨て子だったなんて、辛いはずの過去だろうに、
未来はそれを笑い飛ばして微笑む。
強い子だと思う。
強くて、純粋で優しい。
僕の大切な未来。
妹として育ってきたけれど・・・今は大切な女性だ。
妹以上に・・・。
「そう、僕にとっても、あそこは大切な場所だね。
お前と僕をめぐり合わせてくれた場所だ。
こんな事を言ったら、酷いかもしれないけど、
お前があそこに居た事、僕は感謝してるんだよ?」
僕は、微笑んで未来の頭を優しく撫でた。
「お前に逢えなかったら・・・僕はどうしていたんだろうね?想像も出来ないな」
「私も・・・どうしてたんだろ?・・・ねえ、お兄ちゃん・・・」
「ん?なに?」
「あのね・・・ずっと、一緒にいてね?」
上目使いで、不安そうに僕を覗き込む未来の顔は、今にも泣きそうだった。
「当たり前だろ。僕がお前を離すわけ無いじゃないか」
「うん、離さないでね」
僕の腕に絡まっている未来の腕に、力がこもった。
何を想像したのだろうか?
僕が、未来の傍を離れるなんてありえないことなのに。
ゆっくりと歩いていた足をとめて、未来の顔を覗き込む。
「ずっと一緒だよ。だから、来年も再来年も、一緒にあの場所で花火を見よう。
僕と未来を逢わせてくれた大事な場所で、ね?」
おでこに優しいキスをおくると、未来が嬉しそうに微笑んだ。
ねえ、未来。
僕こそ、綺麗になっていくお前が離れていかないか不安に思っているんだよ?
そんな事、口には出さないけどね。


【了】






Web拍手ありがとうシリーズ第二弾
「花火」シリーズ



堂本広の場合


やばい・・・ぜってぇ怒ってる。
浴衣の波を掻き分けて、足早に目的地に向かう。
未来と待ち合わせた場所。
約束の時間は、もうとっくに過ぎていた。
『一緒に花火を見ようね』
嬉しそうに言っていた未来を思い出す。
花火が始まるのは7時からで、
バイトが終わるのが6時半。
直で向かえば十分間に合うはずだった。
未来の家まで迎えに行ったら、花火に間に合わないからと
久しぶりに待ち合わせをする事になった。
出店を回ったりは出来ないけど、花火は一緒に見れる。
俺だって楽しみにしてたさ・・・けど・・・
今の時刻は、9時を回っていた。
花火はもう終わった時刻。
祭りのための人の多さで、バイトが長引いちまった。
待ってるかなぁ・・・
さっきから携帯をならしても取らない。
怒ってるんだよなぁ・・・やっぱり。
帰路に着く浴衣の人波に逆流して歩きながら、
深いため息をついた。
『花火は、桜の丘でみようね。特等席なんだ』
死んだ兄と毎年行っていた場所。
毎年見ていた花火。
兄が死んでから、初めて行くんだと寂しそうに話してくれたっけ。
それなのに、それなのに・・・俺のバカ!
なんでこんな日に遅れちまうんだよ!
家に帰っているかもしれないけど、
バイト先からは、未来の家よりも待ち合わせ場所の方が近い。
一応待ち合わせ場所に向かったんだけど・・・
目的地について、あたりを見回す。
人人、人で溢れかえっている・・・やっぱりいねぇ。
帰ってしまわれたのね・・・未来さん。
「堂本君!」
泣きたい気持ちでため息をついた時、
大好きな声に名前を呼ばれた。
「未来!!ごめん!俺・・・」
うわっ・・・何こいつ・・・めちゃめちゃ綺麗なんですけど。
振り向いた先には、浴衣姿の未来がいた。
クリーム色の布に、赤い花と紫色の蝶が光りながら飛んでいる。
そんな柄の浴衣。
普通は紺とかの浴衣が多いなか、未来の姿は人目を引いた。
高く結い上げられた髪。
纏められなかった一部が、うなじに流れていて、壮絶に色っぽい!
生きててよかった。
いや、違う!そうじゃねぇ!
謝れよ、俺!
「お疲れ様、バイト長引いたみたいだね」
ふんわりと微笑まれて、抱きしめたくなる。
が、寸でのところで持ちこたえる。
こんな人ごみの中でのラブシーンなんて、こっぱずかしい。
俺のキャラじゃねぇって。
「うん・・・ごめんな・・・花火見れなくて」
「ううん、私はみちゃったし」
一緒に見れなくて、残念だったけどね。
と、寂しそうに呟く未来を、抱きしめたい。
でも、そんな事したら怒られるだろうなぁ。
「携帯取らないからさ、怒ってると思った」
「え?嘘!?・・・ごめんなさい、音がうるさくて気づかなかったみたい」
焦って巾着袋から携帯を取り出して、着信を確認しながら
未来がすまなそうに謝る。
2時間も遅れたら、謝るのは普通、俺の方だろう?
可愛いな〜こいつ。
「でもね、あのね・・・お詫びってわけじゃないんだけど、
今花火買って来たの」
ほら、っとビニール袋の中の手持ち花火を見せる。
「打ち上げ花火はだめでも、これなら一緒に出来るでしょ?」
赤い顔をして、照れながら無邪気に微笑まれる。
あ〜もう!
キャラじゃなくてもいい、怒られてもいい!
俺の理性さん、さようなら。
両腕を伸ばして、未来の細い腰を引き寄せる。
抱きしめて、肩に顔を埋めた。
「きゃ、ど、ど、堂本君??」
「お前・・・可愛すぎ。俺の心臓を破壊する気か?」
冗談めかして言ったけど、かなりの本心です。
可愛すぎて、可愛すぎて・・・死にそう。
こんなに可愛い女が他にいるか?
いや、いない!
ってか、居るんならつれて来い!勝負だ!
「あの・・・えっと・・・」
きょろきょろと周りを気にしながら、未来は口ごもる。
可愛いと言われて照れているのと、
人前で抱きしめられた恥ずかしさとで、挙動不振になっていて
そのさまがまた、かわいらしい。
綺麗で、可愛くて、素直で優しい。
そんな未来を狙っている奴がいっぱい居るのを俺は知ってる。
いつまで俺の傍に居てくれるのか、気が気じゃない。
だけど、今は・・・未来は俺のものだ。
とりあえず、明日はバイトも大学も休みだし、
独占できるだけ、独占してやる。
まあ、誰にも渡す気はないけど・・・
俺がこんなにこいつにほれてるって、こいつは分かってるかな?
「サンキュ。今から一緒にやるか?」
顔を上げて、未来を見つめながら微笑むと、
真っ赤な顔が、嬉しそうに頷いた。

【了】






Web拍手ありがとうシリーズ第二弾
「花火」シリーズ


篠原達也の場合



「え?今日お休みなの?」
「うん、久しぶりのね」
9日ぶりのバイトの休みを告げると、未来はいつも以上に嬉しそうな反応を見せた。
「ねえ、じゃあこれからお祭りに行かない?」
「お祭り?・・・ああ、確か花火大会があるんだっけ」
「そう、とっても綺麗に見える場所知ってるの」
立ち上がろうとす未来の腕を引いて、またベッドに戻す。
さっきまで抱いていた体は、柔らかく心地いい。
もう少しその余韻に浸っていたかった。
「もう!急がないと花火始まっちゃうわ」
「誰とも約束してないの?」
「約束?」
「友達とか、一緒に行く約束しなかった?」
腕からすり抜けていこうとする恋人を逃がさないように、
きつく抱きしめたまま、頬を撫でた。
「だって・・・篠原君、今日もバイトだと思ってたから・・・少しでも長く一緒にいたくて」
「断ったの?」
困った顔をして頷く未来。
その表情が、どれだけ男を夢中にさせているか・・・分かっていないだろう。
甘い唇をなめるようにしてキスをする。
「花火は何時から?」
「んっ・・・7時・・・」
軽いキスなのに、感じてしまったのか、身をくねらせて未来が答えた。
時計を見ると、もう7時を回っている。
「もう7時だよ?間に合わないんじゃない?」
言葉と同時に、ドンと花火の音が響いた。
意外と近い場所らしく、音はかなり大音量だ。
ベッドから立ち上がってブラインドを開けようと、手をかけた。
「や、篠原君・・・開けたら外から見えちゃう」
「大丈夫。うちのマンションより高い場所なんて、このあたりには無いだろ?」
しかも僕の部屋はその最上階だ。
どこからも見えるはずが無い。
ブラインドを開けると、花火の青や赤の光が部屋を照らした。
「わぁ、ここからもこんなに綺麗に見えるのね」
「ああ、すごいね。今まで知らなかった。今から準備して未来のお勧めの場所に行くより
ここで見た方がいいみたいだね」
振り向くと、ベッドの上で上半身を起こして、未来は窓の外を見ている。
前はシーツできちんと隠しているけれど、
シーツからはみ出た、肩や腕、脚の白い肌に、花火の光が反射していて、
普段とは違う艶っぽさがあった。
「未来」
名前を呼んで、ベッドに腰掛ける。
子供のように花火に気をとられている恋人は、ぼくの呼びかけに首だけをかしげる。
「これ、はずして」
言うと同時に、未来の体を隠していたシーツを奪い取る。
「やだ。篠原君、返して!」
「だめ、ほら、やっぱり綺麗だ。君は色が白いから、花火の光が反射してる」
「や・・・だめ」
真っ赤な顔をして、必死に両腕で体を隠そうとしている様が、
擦れていなくて可愛い。
そんな未来を見ていると、つい苛めたくなってしまうのは、僕の悪いくせだ。
「隠さないで」
手首を掴んで、両サイドに置く。
「は、花火が見れないよ」
「ぼくが見てる」
「そんな意地悪しちゃ、やだ」
「意地悪じゃないよ」
言いながら、本当は意地悪だと分かってはいるけれど。
「花火を見ながら、君を抱けるなんて、滅多に無いだろ?」
細い首筋に唇をはわせると、先ほどの余韻を残したままの体は、
びくっと快感に震えた。
「あっん・・・だめ」
すでに硬くなった胸の先端を指で弄びながら、薄く笑う。
蕩けきった未来の顔をみて、断られないのを確認してから
ぼくはわざとため息をつく。
「君が嫌なら、無理強いはしないよ・・・いや?」
「意地悪・・・」
困った顔をして未来は微笑んだ。
甘えた響きを含んだ声は、承諾の証。
「綺麗だよ」
柔らかい唇に深いキスをする。
花火の音と光で溢れる部屋に、未来の甘い吐息が響いたのは、
それからすぐのことだった。

【了】



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