Web拍手ありがとうシリーズ第二弾
「花火」シリーズ
堂本広の場合
やばい・・・ぜってぇ怒ってる。
浴衣の波を掻き分けて、足早に目的地に向かう。
未来と待ち合わせた場所。
約束の時間は、もうとっくに過ぎていた。
『一緒に花火を見ようね』
嬉しそうに言っていた未来を思い出す。
花火が始まるのは7時からで、
バイトが終わるのが6時半。
直で向かえば十分間に合うはずだった。
未来の家まで迎えに行ったら、花火に間に合わないからと
久しぶりに待ち合わせをする事になった。
出店を回ったりは出来ないけど、花火は一緒に見れる。
俺だって楽しみにしてたさ・・・けど・・・
今の時刻は、9時を回っていた。
花火はもう終わった時刻。
祭りのための人の多さで、バイトが長引いちまった。
待ってるかなぁ・・・
さっきから携帯をならしても取らない。
怒ってるんだよなぁ・・・やっぱり。
帰路に着く浴衣の人波に逆流して歩きながら、
深いため息をついた。
『花火は、桜の丘でみようね。特等席なんだ』
死んだ兄と毎年行っていた場所。
毎年見ていた花火。
兄が死んでから、初めて行くんだと寂しそうに話してくれたっけ。
それなのに、それなのに・・・俺のバカ!
なんでこんな日に遅れちまうんだよ!
家に帰っているかもしれないけど、
バイト先からは、未来の家よりも待ち合わせ場所の方が近い。
一応待ち合わせ場所に向かったんだけど・・・
目的地について、あたりを見回す。
人人、人で溢れかえっている・・・やっぱりいねぇ。
帰ってしまわれたのね・・・未来さん。
「堂本君!」
泣きたい気持ちでため息をついた時、
大好きな声に名前を呼ばれた。
「未来!!ごめん!俺・・・」
うわっ・・・何こいつ・・・めちゃめちゃ綺麗なんですけど。
振り向いた先には、浴衣姿の未来がいた。
クリーム色の布に、赤い花と紫色の蝶が光りながら飛んでいる。
そんな柄の浴衣。
普通は紺とかの浴衣が多いなか、未来の姿は人目を引いた。
高く結い上げられた髪。
纏められなかった一部が、うなじに流れていて、壮絶に色っぽい!
生きててよかった。
いや、違う!そうじゃねぇ!
謝れよ、俺!
「お疲れ様、バイト長引いたみたいだね」
ふんわりと微笑まれて、抱きしめたくなる。
が、寸でのところで持ちこたえる。
こんな人ごみの中でのラブシーンなんて、こっぱずかしい。
俺のキャラじゃねぇって。
「うん・・・ごめんな・・・花火見れなくて」
「ううん、私はみちゃったし」
一緒に見れなくて、残念だったけどね。
と、寂しそうに呟く未来を、抱きしめたい。
でも、そんな事したら怒られるだろうなぁ。
「携帯取らないからさ、怒ってると思った」
「え?嘘!?・・・ごめんなさい、音がうるさくて気づかなかったみたい」
焦って巾着袋から携帯を取り出して、着信を確認しながら
未来がすまなそうに謝る。
2時間も遅れたら、謝るのは普通、俺の方だろう?
可愛いな〜こいつ。
「でもね、あのね・・・お詫びってわけじゃないんだけど、
今花火買って来たの」
ほら、っとビニール袋の中の手持ち花火を見せる。
「打ち上げ花火はだめでも、これなら一緒に出来るでしょ?」
赤い顔をして、照れながら無邪気に微笑まれる。
あ〜もう!
キャラじゃなくてもいい、怒られてもいい!
俺の理性さん、さようなら。
両腕を伸ばして、未来の細い腰を引き寄せる。
抱きしめて、肩に顔を埋めた。
「きゃ、ど、ど、堂本君??」
「お前・・・可愛すぎ。俺の心臓を破壊する気か?」
冗談めかして言ったけど、かなりの本心です。
可愛すぎて、可愛すぎて・・・死にそう。
こんなに可愛い女が他にいるか?
いや、いない!
ってか、居るんならつれて来い!勝負だ!
「あの・・・えっと・・・」
きょろきょろと周りを気にしながら、未来は口ごもる。
可愛いと言われて照れているのと、
人前で抱きしめられた恥ずかしさとで、挙動不振になっていて
そのさまがまた、かわいらしい。
綺麗で、可愛くて、素直で優しい。
そんな未来を狙っている奴がいっぱい居るのを俺は知ってる。
いつまで俺の傍に居てくれるのか、気が気じゃない。
だけど、今は・・・未来は俺のものだ。
とりあえず、明日はバイトも大学も休みだし、
独占できるだけ、独占してやる。
まあ、誰にも渡す気はないけど・・・
俺がこんなにこいつにほれてるって、こいつは分かってるかな?
「サンキュ。今から一緒にやるか?」
顔を上げて、未来を見つめながら微笑むと、
真っ赤な顔が、嬉しそうに頷いた。
【了】
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