Web拍手ありがとうシリーズ第三弾
「夕焼け」シリーズ
堂本広の場合
心此処にあらず。
今の未来は、そんな表現がよく似合う。
待ち合わせしてた公園。
ブランコにのって、夕日をぼうっと眺めている未来は、
なんだかとても悲しそうな顔をしていた。
声を掛けるのをためらってしまうくらい・・・
今にも泣き出してしまいそうな顔。
そんな顔をされたら、抱きしめてしまいたくなる。
だけど・・・今の未来には近寄れない雰囲気があった。
元々未来は、可愛い顔をしていると思う。
美人系じゃないけど、整った顔をしているから、
俺の周りの男どもから、結構人気があったのは事実。
可愛すぎて高嶺の花だ。なんて言ってた奴もいたっけ。
俺は、あいつのドジな所もぼうっとしている所も知ってたから
気後れすることなんてなかったけど・・・
でも、今はちょっとあいつの言っていたことがわかる。
ありふれた公園で、ありふれた夕暮れ時。
だけど、未来の周りだけ違う空気が流れているみたいだ。
壊しちゃいけない世界。
触れたらすぐに壊れてしまいそうな、脆い世界。
そんな雰囲気だった。
「堂本くん?」
声を掛けられずに立ち尽くしていた俺に気がついた未来は
ぱっと顔をあげて笑顔を作った。
その笑顔が、不可侵の世界を壊していく。
だけど・・・なあ。なんでまだ悲しそうな顔してるんだ?
笑ってるくせに、泣きそうだぞ?
「よう、待ったか?」
いつもと変わらないように、笑って手を上げる。
「ううん、今来たところだから」
未来もいつもと変わらない答えを返してきた。
どんなに待ってたとしても、『今来た』って返事をする。
待ち合わせの時間に、どれだけ遅れてもそう答える。
気を使うな、って言ってやりたいけど、
なんか、そんなところまで可愛く感じちゃうんだよなぁ。
「で、なんかあったのか?」
隣のブランコに座って、何気なく切り出した。
つもりだってけど・・・ちょっと露骨か?
でもよぉ、やっぱそんな顔されてると気になるだろ。
「何か?」
未来は、何を訊かれたのかわからない、って顔できょとんとしてる。
う〜ん、この様子だと隠してるつもりはなさそうだし・・・
無意識か?
「泣きそうな顔してるだろ。何かあったなら話くらいは聞くぜ?」
「あっ・・・ううん・・・なんでもないの・・・ただ・・・」
「ただ?」
「思い出しちゃっただけだから」
お兄ちゃんのこと。
寂しそうに微笑みながら、ぽそっとようやく聞き取れるくらいの声で
死んでしまった兄を呼ぶ。
俺は会ったこと無いけど、未来やコウから聞いた話だと、
ものすげー未来を大事にしてた人だったらしい。
優しくて、大人で、未来のことを何でもわかってくれたとか。
「そっか・・・」
それ以上何も言えなかった。
俺の知らない人の事だから、俺には何も言えない。
ただわかるのは、未来が兄をすごく慕っていたってことだけ。
男としては、ちょっと妬けるけどな。
ま、兄貴にやきもち妬いたってしかたねぇ。
しかも、死んじまった人だ。
「夕日って不思議。普段はもう慣れっこになってるのに、
一人で夕日を見てたら、突然寂しくなったの」
微笑みを浮かべた未来の目から、涙がこぼれた。
綺麗な透明の・・・涙。
それを拭ってやってから、未来を抱きしめた。
華奢な体は、ちょっと力をいれたら折れてしまうんじゃないかってくらい細い。
俺が傍にいるって、伝えたかった。
二人の間にある、ブランコの鎖が邪魔だけどな。
「もうすぐ秋だからな。秋は人を感傷的にさせるんだってさ」
「そうね・・・」
「ま、俺の場合は感傷よりも食い気だけどな」
暗い空気を払うように、抱きしめた腕を緩めて、頭を撫でた。
柔らかい未来の髪をくしゃっとして、わざといつものように冗談をいう。
「だからさ、秋になったらいろんなとこ行こうぜ。
栗拾い、ぶどう狩り、梨狩り。あ、あと魚も食べに行こう」
「なんか、食べることばっかり」
俺の言葉に、未来が楽しそうにクスクス笑う。
ほらな、やっぱお前は楽しそうなのが似合う。
「だーかーら。食い気っつったろ!やっぱ秋は遊ばないとな」
「夏休み前にも同じ事言ってたよ?」
「遊び人のヒーさんと呼んでくれ」
「もぉ〜堂本くんったら」
なあ、未来。
少しは気分が上昇してきたか?
俺さ・・・お前にはいつも笑っていてほしいんだ。
俺は、お前の兄貴みたいに出来た人間じゃない。
まだまだガキだし、お前を守ってやるなんて大口は叩けない。
泣かせてしまうかもしれない。
だけど・・・大切にするからさ。
俺はずっとお前の傍にいるから。
だから、お前もずっと俺の傍にいてくれよ?
そしたらきっと、夕日も寂しいなんて感じなくなるさ。
【了】
▲
|