そこに存在するもの 7




「どういう事だ・・・よ・・・」
脱力するってのはこういう事を言うのかもしれない。
告げられた内容は、それだけ俺の心を空にした。
全身から力が抜けて、コウの胸倉を掴んでいた手がだらりと落ちる。
そんな俺の様子に、微かに苦笑して俺の肩を掴んでいたコウの手が離れた。
「俺じゃダメなんだってさ。未来に言われたよ。
俺といると家族といた頃の事を思い出しちまって、寂しい気持ちになるらしい」
「そんなの・・・理由にならねぇじゃねえか」
どうしてそれで諦めてしまえるのか、不思議だった。
「お前はいいのかよ。そんなんで諦められるのかよ」
「正直納得はいかないさ。だけど・・・二度目なんだよ、振られたのは。
大学に入ってすぐに告白したんだ」
ベンチに座って、コウは嘲笑をもらした。
「あの時は、幼なじみとしてしか思えないって言われた。
大学に入ったら俺なりに関係を変えていこうって思ったさ・・・
兄貴べったりだったあいつを、俺に振り向かせてやるって決めて」
遠い昔を思い出すように、コウは目を細めて空を仰ぐ。
その瞳に、何が映っているのか俺は知らない。
大学に入ってすぐなんて、俺はまだ未来ともコウとも知り合ってもいなかった。
俺の知らない時間を懐かしみながら、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「けど、すぐに未来の家族が死んじまって・・・あいつが一人ぼっちになったから
とにかく未来に笑顔を取り戻したくて黙ってた。
俺の気持ちだけを押し付けずに、少しずつ変わっていけばいいってな」
一人になった未来を、コウがどれだけ大切にしていたか知っている。
大切に、大切に・・・親鳥が卵を温めるように、柔らかく温かく包んでいた。
見ていてもすぐにわかるくらい、コウは未来を大切にしてた。
「未来に笑顔が戻ってきて、そろそろいいかなって思ってたら・・・これだ。
だから一緒にいようって言った。でもダメだったよ。
結局は、俺じゃダメだって事は変わらなかった」
「・・・お前以上にあいつを大事に出来る奴なんていねぇよ」
コウは泣いていなかった。
ただ悲しそうな瞳のまま、静かに微笑んでいる。
それが余計に辛さを感じさせて、俺まで辛くなる。
「わかんねぇよ。そんなの・・・お前だっているだろ?」
「俺?」
「もう遠慮なんてしなくていいんだよ。どんなに好きだって叶わない想いはある。
俺はまだあいつの事好きだけど・・・寂しくなるって言われたらどうしようもないだろ」
「遠慮ってなんだよ?」
コウは、問いかけに一瞬だけ驚いた顔をしてから、眉をひそめて苦笑する。
「お前の気持ちなんてお見通しなんだ。お前も未来が好きだろうが」
俺が・・・?
未来を好き?
「未来に笑顔が戻ったのは、お前のおかげだと思ってるよ。
いつも傍にいて大切にしてただろ・・・正直、誰よりもお前が怖かったんだぜ、俺は」
「何言ってるんだよ・・・俺はそんなんじゃねぇ」
「ばーか。素直になれって。俺はもう諦めたからさ。遠慮なんていらないよ。
二回も振られて、それでも想っていられるほど俺は強くないんだ」
風が吹いて、中庭の緑がザワザワと揺れ、葉越しの日が俺たちを照らす。
コウが言った言葉がグルグルと頭の中で回る。
俺が、未来を好き・・・
確かに大切にしてたさ。
だけどそれは恋愛じゃなくて・・・友情だ。
「あいつは、俺の友達だ・・・あいつを好きなのはお前で・・・俺じゃねぇよ」
「・・・ホント馬鹿だな。それが遠慮だってんだよ。それとも無自覚か?
あんなに大切にしてただろ」
「それは、友達だから!」
強く言い切った俺に、コウは頷く。
「俺のせいか・・・俺がお前の気持ちに歯止めをかけてたんだな」
「ちが・・・」
「聞けよ。俺はお前がいい奴だって知ってた。
未来に笑顔を取りも出させる為に、お前やハルちゃんを紹介したさ。
未来には心を開ける友人が必要だって想ったから。
けど、怖かった・・・お前はいい奴だから、未来を取られるんじゃないかってな。
だから未来に紹介した時もお前に釘をさしたんだよ。未来は俺のものだって」
つらつらと語られる真実は、俺の知らないものだ。
釘をさされた記憶は無い。
でも見ているだけで、コウが未来を好きだってのは感じた。
同じ轍を踏まないように・・・未来は友人だって・・・言い聞かせた。
自分に。
「実際、未来は俺よりもお前に心を開いていたし・・・
お前だって未来を大切にしてただろ?
無意識だろうと、お前の目はいつも未来を追ってた。
同じ女を好きな俺がいってるんだぜ?信じろよ。お前は未来が好きなんだよ」
ベンチから立ち上がったコウに、ぽんっと肩を叩かれる。
「もういいんだよ。自分の気持ちに正直になれ」
「・・・わかんねぇ・・・」
「じゃ、じっくり考えてみろ。俺の事は抜きにして」
「コウ・・・」
俺は、コウに助けを求めた。
和希さんや未来から逃げて、コウに全てを任せるつもりだった。
けど、ダメだって言うのか?
お前も、俺に逃げるなって言うのか?
「未来の見舞いに行けよ。それで自分の気持ちと向き合ってみろ。
俺もハルちゃんも試合が近くて時間が取れないから、お前に行って欲しいんだ。
それに、会うのはまだ・・・ちょっと辛い」
静かに微笑むコウの、心のうちはわからない。
だけど、俺に望みをかけているってのはわかる。
「未来を楽にしてやってくれ・・・こんな事お前しか頼めない」




いつの間にそこにいたのか、よく覚えていない。
コウと別れた時、俺こそ一人ぼっちになった気がしてた。
目の前は崖っぷち。
助けを求めて、ロープに手をかけようとしたら・・・ロープの先は切れていて。
そんな気分だった。
自力でどうにかするしかない。
わかってるさ・・・わかってる。
俺がどうにかしなきゃいけない。
俺が蒔いた種だろ。
コウに言われた通り、俺は未来を好きなんだろうか?
高校時代の過ちが、また頭を過ぎる。
でもあの時とは違う。
俺は今、何をすればいいのか・・・
気持ちを認めて、未来を大切にすると・・・
伝えれば、和希さんは納得してくれるだろうか?
未来は俺を受け入れてくれるだろうか?
夕暮れのオレンジ光に照らされた、白くてでかい建物を見上げる。
未来が居るであろう病室の窓は、カーテンが引かれていた。
今も寂しい思いを抱えて、一人で泣いているんだろうか?
激しい激情を抱えて、抱きしめる事も出来ない想いに打ちひしがれているんだろうか?
俺は助けになるんだろうか?
わからない・・・
未来に会ってみたい。
和希さんと話してみたい。
怖い気持ちも、辛い気持ちも、まだあるけれど。
自分でどうにかするしかないんなら、それしか方法が浮かばない。
未来・・・俺はお前を苦しめてるか?
和希さん・・・俺はあんたを追いつめているか?
だけど、俺は前に進むしか道をしらない。
崖っぷちで、いつまでも立ちすくんでちゃ意味がない。
神様・・・いるか居ないのかわからないけど、あんたに祈ってもいいか?
幽霊がいるのなら、神様だっているんだろ?
俺はどうすればいいですか?
教えてください。
自分の気持ちもわからない。
誰の気持ちもわからない。
どうすればいいのかもわからない。
あんたに祈って全てが解決するんなら、俺はあんたに祈るよ。
全身全霊を込めて祈る。
未来の笑顔が好きなんだ。
あいつには笑っていて欲しいんだ。
だから、俺に道しるべをください。
どうすればいいのか、教えてください。
俺を救ってください。
神様・・・
もう一度、未来の居る病室の窓を見上げる。
今から会いに行こう。
話をしよう。
それが、第一歩。
間違いだとしても・・・俺にはその方法しか見つけられなかった。



【続】
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◆◆◆◆◆◆◆◆一言◆◆◆◆◆◆◆◆

やっと好きかもしれないって自覚しましたね。
あとは君の気力しだいです。
がんばれ、堂本!
が、人生がんばったって
どうにもならない事はあるのです(酷っ!
今回ちょっと短めですが、
場面の都合上そうなりました。
お許しくださいませ。






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